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1-028)反省と解決策と妥協と反省(大事なので2回言う)

 見せていただいた途切れた映像と、気を失うまでの私の記憶をすり合せた結果の話が終わったところで、渋い顔をしたラージュ陛下はマグカップを置いて腕を組んだ。


「お前が気を失った後の映像を見たな。」


「見ました……。」


「どんな状況だった?」


 どんなって……


「私が椅子から滑り落ちて床に倒れたら、私の持ってる腕輪が強烈に光ったとたんにアルムヘイム達全員が怒って出てきちゃって、そこで画像が途切れていました。」


 そう、それが私の記憶になくて映像にあったこと。


 腕輪から飛び出したみんなが、強烈に、本当に強烈に光ったのだ。


 映像は真っ白の画面となって、途切れた。


「お前は魔力切れで倒れたと思っているだろうが、それなら精霊は出てこれない。 間違いなく心的ストレスによる昏倒だ。」


「心的ストレス……」

「この世界に落ちてきた。住むところを探して、初めての町で暮らし、調子に乗って魔力を使いまくってスキルを上げた後で、監禁されるかもって思ったところでお前の疲れ切った体と脳みそはオーバーヒートしたんだ。 調子に乗ったところ以外でのことに関しては、お前に非はない。」


「じゃあなんで、ラージュ陛下が出てくるような事態に?」


 少しホッとして、お茶を飲む余裕ができた私は、カラカラの喉を潤すためにお茶を飲んでから聞いてみた。


「俺のところにお前の、月の精霊が飛んできた。」


「ヴィゾヴニルが?」


 さっき、店の木の根元で寝てたよなぁ、と思い返す。


「お前の魔力が暴走したと飛んできた。 俺の契約している精霊たちもざわついていたから何かあったかとは思ったがな。 聞いてすぐにギルドに行ってみれば、日の精霊がお前を守る一方で、残りの五精霊がギルドを叩き潰さん勢いで囲んでいた。 高位の精霊たちだから、その姿は見せずにやったんだろうが、ギルドの人間たちは圧倒的な魔力の中に閉じ込められて、身動き一つとれなくなっていたか、気を失っていた。」


「暴走!? だって魔力切れを狙ってたの、に……っ」


 慌てて口を両手で押さえるが、聞かれたのは間違いない。見たこともない非常に厳しい視線が私に向けられている。


「なるほどな。」


 はぁ~っとわざとらしく深い深いため息をつく。


「お前の月の精霊に聞いてもはっきりとした原因は話さなかったが、今ので状況はよくわかった。 全精霊と契約したところで、自分の魔力量を測ろうとしたってところだろう。 高位の精霊と契約していたから助けを求められたものの、やることがかなり無謀だ。 ギルドだったからまだ被害は少なかったが、これが家の外や、ましてや一階層だったらどうするつもりだ。 見栄えの良い女のガキが倒れていたら人身売買だってあり得た。 しかも魔力切れどころか魔力暴走、体がパンクすることもあり得た。 それに関しては魔力を放出してくれた月と日の精霊に感謝しろ。 ほかの五精霊は完全に正気を失っていたからな。」


 あぁ、そういえばそんな話を聞いてはいたし、外で魔力切れにならないように、と最初は注意してた……のに、完全に徹夜のハイで危機管理が馬鹿になってた。


 これはラージュ殿下の言うとおり、完全に私のミスだ。


 精霊にも、ギルドの方にも、ラージュ陛下にも多大なる迷惑をかけてしまった。


「本当に反省しています、返す言葉もございません。」


「と、いうわけでだ。 これは王としては放っておくわけにはいかない。」


「……はい」


 当たり前だ、王立のギルド崩壊事件を起こすところだったんだから。


 あぁ、異世界転生5日目にして、私、犯罪者になるのか……。


 楽しむはずだったのに、やってしまったなぁ……。


 情けなくて涙が出てきて、ぐすりと、鼻をすする。


 と、ラージュ陛下が涙をぬぐってくれる。


 うぅ、やさしい……申し訳ありません。 と思ったのは一瞬だった。


「最初にあった日に、俺にお前が言った言葉を覚えているか?」


「……? 言った言葉?」


「『神様からは陛下も太鼓判を押すような素敵なスキルをもらっていますし、まずは自力で頑張りたいと思いますので過保護ノーサンキューでお願いします!』」


 あ~、なんか言った、言った気かも……言ったような気もする……言ったっけなぁ……?


 っていうかそれいま必要……う、いやな予感……。


「あの時の俺の提案は何だったか覚えているか?」


「覚えてません。」


 否定しよう。もっとこう、いい方法を考える間だけでも!


「お前、本当に反省しているか?」


「う……はい。 とても反省しています……。」


「じゃあ思い出せ。」


「はい……。」


 駄目だった。


 低い声で、ラージュ陛下は私を諭すように優しく、でも言い切った。


「お前に見張り兼、護衛を付ける。 しかもお前が暴走しないようにこの家に住まわせる前提でイケメンの護衛を付けてやる。 二階の奥に広めの空き部屋があったから住むのは大丈夫だろうし、お前の部屋には魔法具の鍵ももっといいやつをつけてやる。 今回護衛に付けるのは俺のお気に入りの中でも訳ありだが精鋭達で、お前の護衛についてもいいと言ってくれた奴だ。護衛の給金は国から出るから安心しろ。 まぁお前の意思は尊重して、誰にするかは選ばしてやる。」


 ……え?


 まって、まって、情報過多で処理できません。


 危険因子だから幽閉とか、犯罪者だから逮捕とか、何しでかすかわからないからポーション作成係として城か塔かそれらしいところに監禁、とかではなく?


「見張り兼護衛、ですか?」


「そうだ。 今回の件は不問というわけにはいかないが、転生者でまだ魔力や精霊との付き合い方もわからない、しかもギルド員からのストレスもすごかったようだから、仕方のないことと判断し、護衛を付けることで済ませてやる。」


 ラージュ陛下的には、すごく譲歩してくれたんだろう。


 うん、それはわかる、ものすごくわかる! とってもわかる!


 でもね?


「譲歩はうれしいんですけど、イケメンと同居は駄目、駄目です! 心が死にます、供給過多で死んじゃいます!」


 ふぅん、と、顎をしゃくったラージュ陛下が厳しい視線をくれる。


「人身売買か、バラで売られるか、奴隷になって死ぬまでポーションを精霊たちともども酷使されながら作るか、愛玩奴隷になる覚悟の上だな?」


「う……」


 自分の行動を棚に上げてしまうけど、そんな覚悟あるかい!


「その覚悟がなく、まして護衛が駄目なら、城下からは追放の上で王宮に軟禁でもいいぞ。離宮に住むか? 離宮には庭園もあるし、庭もある。 わが軍やギルドのためにのんびりポーション作成係にでもなるのなら、それでもいいがな。」


 軟禁キター!


「……えっと、地に足付けたスローライフが夢だったんです……」


「じゃあどうするんだ。」


 選ばせてやる、という言い方をしていますけど、これのどこに選択権があるんだよ!


「……う~。」


 別の意味で悔しくて涙出てきたけど、これもう、身から出た錆、自業自得、アラフォーなんだから覚悟を決めような、自分! と、自分の背中を蹴り飛ばした。


「ちなみにどのような護衛さんでしょうか……。」


 すると、よしよし、という顔でラージュ陛下は笑う。


「俺は大変優しいから、お前が供給過多とやらで死なないように、お前の推しにならなさそうな面子を集めてみた。 次にいうやつから必ず一人選べ。」


 うぅ、圧がすごい。


 でも仕方ない。


「はい。」


「よし。 1、花樹人。 王宮の温室にいた金を持ってきてくれた薔薇の男だ。 俺とは旧知の仲だが……。」


「素敵で美形すぎるイケメンは私の死因になりますので、是非とも却下で。」


 あんなイケメンと一つ屋根の下とか、尊すぎて瞬殺されてしまうわ。


「獣人、お前をギルドまで連れて行った騎……」


「無理です! この世界での私の最初の推しなんですよっ!? 憧れの人と暮らすなんて拷問です、地雷です。 許してください。」


「獣人。 ギルドでお前と話をしていた兎の奴はどうだ?」


「今回の件を含め、心から遠慮していいですか? ちょっと精神的に巻き込まれてしかないんで、つらいです。」


「まぁキャッシュレスの件も含め、これは仕方がないな。 それじゃあ鳥人、鵲の眷属で槍の使い手で魔術師。 火の精霊にかなり好かれた奴はどうだ?」


「鵲って綺麗ですよねぇ。 ってことはイケメンですよね。多分推しまっしぐらですし、精霊が同居するのも喧嘩になりそうな気がするのでちょっと無理です?」


 火の子もそうだけど、あの暴走見たら、他の方と契約している精霊さん達とうちの精霊さんたちが仲良くできる気がしない……。


 はぁ、と、あからさまにため息をついたラージュ陛下。


「お前の意見を聞いていても、まったく進む気がしない。 もう次で決めろ。」


「選択権が全くないじゃないですか。」


「王宮に監禁で決定だな。」


「謹んで五人目の方のお話を聞かせていただきたいと思います。」


 贅沢を言えた義理ではないけれど、でもお願いです、推しにはならないけど素敵な人カモン!


「花樹人、イチイの木の眷属、戦火で消えた村の生き残り。 古くからの付き合いがあるやつだ。 双剣使いで強い上に、おまえの欲しがっている鑑定スキルも低ランクではあるが持っている。 諸事情で怪我をして前線に出れなくなってからは、王宮の庭園で庭師をしている。」


「イチイ……」


「なんだ?」


「いえ、ちょっと。 思い出の木なんです。 庭師さんならうちの薬草園もあるから嬉しいですけど、イケメンですか?」


「花樹人はもともと美形が多いな。 俺としては実力からいっても、スキルから言っても彼を勧めたいんだが、ひとつ、問題がある。」


「なんですか?」


花睡病(かすいびょう)という病にかかった双子の妹がいるんだ。 これは俺のわがままなんだが、できればその妹も一緒にこの家に置いてやってほしい。」


 ……これはもしかして……最初からこの人一択なのでは?


「……もしかして、あの時からそのつもりでしたか?」


「そんなことはない。 だがまぁ今回のお前の暴走の件は、正直都合は良かったな。」


「ちょっと悔しいですけど……その人達は、ラージュ陛下にとって大切な方たちなんですね。」


「……そうだな。」


「わかりました、その人でお願いします。」


「助かった。 今回の件は宮廷魔導士がそれなりに魔法を使って最初からなかった状態にあるから安心して今後もギルドを利用しろ。 だが、二度と無理はするな。 」


 話もついたことで王城に戻るのだろう、立ち上がって私の頭をさんざん撫でた彼に、問う。


「花睡病って何ですか_」


「それは、本人から聞いてやってくれ。 あの二人をよろしくな。」


「こちらこそ、明日にでも引っ越してきてくださいとお伝えください。」


「……お前が本当に聡くて助かった。 よろしく頼む。」


 シュ、と、彼はその場から指を鳴らして消えた。


 とたん、私の足は力を失ってへたへたと床に座り込む。


「……疲れた……」


 天井を仰いで、自分のやったことを反省しつつ、明日からの自分の在り方を考えるのでした。


 ……うん、まずは朝から新しい住人二人の部屋掃除だね。

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