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1-027)何があったのか思い出してみた。

 お茶とお菓子を乗せたトレイを持ち、重い足を引きずって二階に上がる。


 丁寧に、それはもうこれ以上ないくらい丁寧に(そうならざるを得なかったのは、時間稼ぎもあったけどね!)淹れた貴族様用の茶葉を使った紅茶をドワーフ印のマグカップに注ぎ、小さなお皿にお菓子を並べて……あぁ、あんまり時間稼ぎにならなかった、と大きくため息をついてから、階段を上って私の部屋に入る。


 まあ当然ですけど簡素で可愛い私の部屋の真ん中には、庶民的椅子に腕を組んでふんぞり返って座っていらっしゃる、絢爛豪華なラージュ皇帝陛下様がいらっしゃいまして、ですね……。


「ええ~っと……粗茶でございますが。」


「あぁ、気にするな。」


 貴方が淹れろって言ったんですけどねっ! なんて口が裂けても言えません。


 一言、言葉を添えて紅茶を出すと、顎で! 座れと指示されたわけでございますよ……うえ~ん、怖いよぉ……。


「いや……すみません、こんな間近に、しかも正面に座るとか、不敬ではないかと……思うのです。 わたし、あの端っこに正座を……」


「初対面で、王城であれだけ菓子を食ってさんざん話した奴が、何をいまさら不敬というか。」


 マグカップを手に取りながらいいから早く座れと言われ、あきらめて身をこごめながら座ると、ようやく満足したように口元を緩ませてラージュ陛下はマグカップに口を付けた。


「あ! 毒見! 私が先に!」


「鑑定スキルがあるから問題ない。 それにお前は大丈夫だろう。」


 おっと、うっかり惚れちゃいそうなお言葉ですが、恐怖が勝ってるので、絶対にときめきませんよ。


 それよりなにより私には気になる言葉がありましたしね!


「鑑定スキル、いいですよねぇ……。」


 あ、うっかり口から出ちゃった。


「お前は持っていなかったな。」


 ラージュ陛下はマグカップを傾けながらふっと笑った。


 もう! 不意打ち笑顔最高!


 ラージュ陛下、イケメン! 無駄にイケメンなんだから!


 マグカップが似合わないっ! お金がたまったら絶対に素敵なティセット買う!


 ラージュ陛下がここまで出張ってくるのはもう嫌だけどでもいざというときのために買っておくんだから!!


「なんだ?」


「いや、なんでもないです。」


 心からの叫びをしっかり飲み込んで、いたって冷静に、ちょっと怯える私っぽい感じで声を出す。


「鑑定スキルって本当に無敵チートですよね。 知識の泉じゃ人のスキルや、世界の知識にない未鑑定の物はわからないんですよ。 今回もポーション作ったら見本と違うものができるし、自分のステータスのせいかと気になってしょうがなかったですし。 改めてもらっておけばよかったなぁって思ったんですよ。」


「まぁ、便利だが。」


 ラージュ陛下はちらりと私を見た。


「お前に鑑定スキルがあっても、今回の騒ぎは変わらないと思うがな。 たった四日で特別付与が増えてやがるし。」


 忘れてなかったよ、この人。


 口が悪くて、お説教モードってすぐわかるよ、あ~あ。


 忘れてないなら早く済ますのが最善だろうと考えて、恐る恐る聞いてみる。


「お説教は優しくお願いできますか?」


「優しくしてほしいなら、さっき見た映像を反省を交えて自分の口で説明しろ。 少しは思い出しただろうしな。」


「うわ、自分の醜態を口にするなんて、なんて羞恥プレイ! そんな趣味はありません!」


 涙声になった私に、じろり、と、めちゃくちゃ怖い視線が突き刺さります。


「はい、申し訳ございません。」


 自分の紅茶を取り、果実から絞り凝縮した糖蜜をいれて、うんと甘くしてから一気に飲み干すと、意を決して映像で見た光景と自分の記憶をすり合わせる。


 ちょっとうろ覚えなんですけど、と、前置きする!


「え、えっと……」







「おはようございま~す!」


 ギルドに陽気な笑顔で入った私は、受付のお姉さんのところに行った。


「すみません、ラフイさんいらっしゃいますでしょうか? ティンクス=トインさんにご紹介いただいたんですが。」


 おうちを借りた時にお世話になった兎のギルド員、ティンさんの名前を出すと、なるほど、とお姉さんは確認してくれる。


「腕輪を確認しますね。 錬金薬師のソロビー・フィラン様ですね、あちらに座って少々お待ちくださいね。」


 多分鳥人、頭に冠羽のような赤い羽根がある女の人は、すぐに何かで連絡を取ってくれたようで、現れたのはキャッシュレス決済を腕輪に着けよう騒動の時にはいらっしゃらなかった、美しい薄紫の花のような髪型の人。


 しかしアポなしで来たのにあっけなく呼んでくれたなぁ、紹介者の名前を出したとはいえ個々の危機管理能力大丈夫なの? アポイントはございますでしょうかとか聞かないのかな? のこのこ来たのはこっちだけど……。


 と、頭の片隅で考えていると、こちらに向かってにこやかに近づいてくる人がいる。


「やぁ、君がティンから話に聞いていた子だね。」


「突然来て申し訳ありません、ソロビー・フィランと申します。」


「ギルドで薬剤部の副部長をやっています、ラフイです。フィラン嬢のお噂は伺っていますよ」


「嫌な噂じゃないことを祈ります……。」


 ちょっと自覚あるんだよなぁと顔をしかめていたら、笑ってくれた。


「いえ、とても柔軟な発想を持った、かわいらしく優秀な方だと聞いていますよ。 というか、こちらの方がご迷惑をおかけしたようで、あいつらにくれぐれも謝っておいてくれといわれていまして。 本当に申し訳ないです。 今日は薬の件ですか?」


「はい。 ちょっと試作をしたんですが、初めてなもので少し見ていただきたくて。」


「大歓迎ですよ、どうぞこちらへ。」


 連れて行っていただいた先は、例の会議室……悪夢再燃ではありませんように! と祈りつつ席に座ると、受付のお姉さんが、今日は甘くてとろりとした暖かい飲み物とお菓子を持ってきてくれる。


「さて、どのような物でしょうか?」


「これなんですけど、お願いできますか?」


 斜め隣に座ってくれたラフイさんに、籠に詰め込んだ昨晩作った薬をとりあえず一個ずつ出してみる。


「すべて基礎編に乗っている軟膏とポーションですが少し違いますね? 早速薬効鑑定をしましょう。 フィラン嬢はお茶を飲んでいてください。すぐにすみますよ。」


 ニコニコ笑って体力ポーションを手に取った彼に聞いてみる。


「ラフイさんは鑑定スキルをおもちなんですか?」


「薬品特化なんです。 それ以外は鑑定できません。 小さい頃に気が付いて、だからこの仕事に就いたんですよ」


「まさに天職、ですね。」


「まぁ、そのようなものですね。」


 ニコニコと柔和なラフイさん、いい人だ。綺麗だし。


 しかし薬品特化鑑定かぁ、そんなものもあるんだなぁ。


 なんてのんきにお茶を飲むと、何だこれ、とっても美味しい、甘い、美味しい、しゅわしゅわのとろとろ!


「美味しい。」


 心持ち、ふわふわしてきちゃったなぁと、お菓子に手を伸ばせば、お菓子もとっても美味しくて、は~幸せ~。


 あ、温かいものを飲んでほっとしたらなんだか眠くなってきた。


 完徹しちゃったもんね、あと少しがんばれ、自分!


 と気持ちを奮い立たせていたら、なんだかラフイさんがこれは何だ? とか、信じられない! とか言い始め、つぎつぎと目の前のポーションを鑑定していく。


 何だろうか、実は粗悪品だったんだろうか。いや、でも効果付与200%だったはずだから粗悪品なはずがないんですが。みんなで頑張って作ったのに欠陥品、粗悪品って言われたら泣いちゃう!


「フィラン嬢。」


「何か不備でもありましたか?」


 名前を呼ばれ、恐る恐る聞いてみると、全否定される。


「不備はありません。 それどころか薬効が下級ポーションとしてはありえない数字をたたき出しています……しかし、これをお店で売ることはお勧めできませんし、許されないと思います。」


「え? なんで?」


「お伺いしますが、これはどうやって作られましたか?」


 さっきの柔和さが消え、ものすごく真剣に聞かれる。


 作り方って……?


「教科書通りの手順で作りました。」


「精霊の手助けがありますね。」


「はい、不本意ながら精霊と契約をしておりますので……。」


「フィラン嬢が全精霊と契約をしているというのはうかがっていますが、この体力ポーションは、どの精霊に力を借りましたか?」


「どの精霊に力を借りたかですか?」


 自分がポーションつくりをしていた時のことを思い返し……あれ? と思って聞いてみた。


「……どこレベルからですか?」


「どこレベル、とは?」


「どの工程からかなぁと思ったんですけど。」


「……?」


「ポーションは日の精霊の力を借りました。 でも、土つくりは土の精霊の力も借りましたし、薬草を育てるのに土と、木と、水の精霊の力も借りました。 それから素材的に水の精霊に作ってもらった水を使って作っていますし……あれ?」


 ラフイさん真っ青になってますけど大丈夫ですか??


「えっと……ラフイさん?」


「フィラン嬢、大変申し訳ありませんが、魔術師と薬学のギルドマスターを同席させていただきたいのですが……」


「え、なんでですか?」


 嫌な予感がしてきた!


 こういう時、偉い人が出て来るとろくなことがない! 前世でもそうだった!


 それは全力回避したい!


「えっと……」


「貴女の作ったポーションを、流通させてもよいものか、私には判断が付きません。 出回れば貴女自体の身の危険の可能性もあるので保護の申請を。」


「え? ちょっと待ってください、それだと楽しいスローライフができなくなっちゃいます! お金稼げないとご飯が食べられないし、それに保護ってなんですか?」


「ひとまずは、しかるべき場所で過ごしていただくことになるかと。」


「それ監禁と一緒じゃないですか! 何も悪いことしてないのに何でですか?」


「しかし、このままでは……」


 じわっと、涙が出た。


 なに? なんで転生4日目で監禁生活決定なの?


 私何もしてない。


 せっかくおうちも可愛く改築してもらって、仲良くしてくれそうな人もいて、お店が開店したらのんびり楽しいスローライフをって思ってたのに。


 そう思ったら、目の前が真っ暗になった。


 全身の血の気が引いて、手先や足先が冷たく重くなっていくのを感じた。


 あぁ、このタイミングで魔力切れになるんだ。


 さっきから眠かったし、実は気づかないだけで無理してた上に、ショックなことが起きてタガが外れちゃったのかな……。


 目が覚めた時には監禁されてるのかな?


 いやだなぁ……


 いや、だな。





 と、最後に思ったのはそうだったなと、話しながら思い出し……あれ? と顔を上げた。


 じゃあここにラージュ陛下はなぜいるの?


 首をかしげると、目の前のラージュ陛下が一つ、深くて重いため息をついて私に教えてくれたのだった。

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