1-026)どうやらやらかしてしまったようです
前回、反省の弁を述べてお話を締めさせていただきましたが、実は今現在、何をやらかしたかよくわかっていません!
昨夜は遅くまでめちゃくちゃノリノリで、いろんな薬を作りました。
それはもう、どれくらいかというと、一本だけだと私が作ったと信じてもらえないんじゃないかと思って、各種下級ポーションを追加で二十四本ずつ。
それから軟膏の塗り薬を、油脂がないために、薬草のねばねばする成分を使用して作ったホイップを目測を誤って大量に作りすぎてしまったために外傷用軟膏、火傷用軟膏、凍傷用軟膏、仕込み毒外傷特化軟膏、打撲に部位に貼るための冷感軟膏等々各種十個ずつ。
そりゃもう、手元の瓶がすべてなくなるまで作ったわけですよ。
最初はね、いつ魔力切れになるのかなぁって思って恐る恐るしてたのもあるんだけど、ポーションつくりが佳境に入っても全く魔力が切れる気配がないものだから、途中から調子に乗っちゃったんだよね。
若いって最高!
って思って調子に乗っていました、すみません。
きっと魔力切れを起こしちゃったんですね。
で、その結果がこの状況なのです……が、困ったことに最後に見た景色は、確かお店の窓から朝日が見えて……完徹したけどまだめちゃくちゃに元気だったから、このままギルドに行っちゃえ! って、作ったポーションと薬を全部籠に入れて、意気揚々と騎士団駐屯地からゲートを使って貴族層にあるギルドに行って……花樹人で薬見てくれるって言ってたラフイさんを呼んでもらって……
……おはようございまーす! って挨拶して……
そこからどうなったんだっけ?
ただ、今日は、もう『日の精霊日』ではなく『月の精霊日』で、しかも窓の外はとっぷり宵の始まり、夕方だってことです。
こんばんは!
わたくし、元愛猫とご褒美お菓子と素敵なお茶を飲みながら推しを愛することだけを心から愛していた社畜アラフォーバツイチ、現在金髪紫の瞳に可愛らしい姿の十四歳、自分史上最高の美少女(望んで選んだこの容姿! 上の下! 最高!)の神様に愛――を押し付けられた――された女、最近日本ではやりの異世界転生少女、ソロビー・フィラン、14歳です。
そしていま私は、眠れる森のお姫様みたいな素敵なベッドで目が覚めました。
いつ寝たのかな?
ベッドに横になったのは何時かしら?
コタロウや精霊さんが見当たらないけどどこ行っちゃったのかな?
あれ? 体を動かすのがとっても辛い、指一本でもとても辛い、寝すぎ?
ギルドまで行ったのは覚えてるんだけどなぁ。 あ、もしかしたらそのあと帰ってから力尽きて寝ちゃって、そのせいで寝すぎちゃったのかな?
「……ぬぅ、これは由々しき事態!」
「由々しき事態じゃねぇよ。何やってんだよ、馬鹿娘。」
ぺん! と、おでこを軽くデコピンされて、ようやく自分の傍に人がいるって気が付いた。
しかもそれが……なんというか……こんなところにいらっしゃってもよろしいんでしょうか? 的な人で。
うん、できるならこういうときほど、ギルドのおせっかいでモノ押し付けるのが大好きなお騒がせお兄ちゃん達のほうがよかった……です。
「……夢、かなぁ。」
「あぁ、まったくだ。 夢ならよかったよなぁ。」
「うふふ……ですよね……。」
怒ってるよぉ……イケメン怒ってるの怖いよう!
私が寝ているベッドの横に椅子を置き、オカンムリなお顔も大変に麗しい、王都要塞・ルフォート・フォーマの皇帝ラージュ陛下であらせられますよ~。
いや、ここ、王城じゃなくて、私のあの質素で可愛いおうちの中なんですけどね?
「……あの、なぜここに貴方様がいらっしゃるのでしょうか……。」
「無鉄砲にも馬鹿なことして、ギルドで一暴れしやがった空来種の娘に説教と手助けをするためだが何か?」
怒ってる、怒ってるよぉ!
「えぇと、私が何をしでかしたのかちょっとよくわかりませんが、皇帝陛下にご迷惑をおかけする理由がとりあえずはございませんので、どうぞ王城へおかえりくださいませ。」
「その、たった一人の、馬鹿なことをした馬鹿な小娘のために市井までわざわざ降りてきてやった皇帝陛下様に、お前は茶も出さずに帰す馬鹿なのか?」
「先ほどから馬鹿を連呼していらっしゃいますが、私、いったい何をしでかしましたでしょうか? 後、体が動かないのはなんででしょうか?」
「すべては今日のお前の一連の行動にある。 自業自得だ。 包み隠さず見せてやろう。」
ぽぅっと、ラージュ殿下の手の中に一つ、大きめの鏡のようなものが現れた。
「これは魔道具でとあるやつが見たことを映し出すものだ。 スマホの録画みたいなもんだな。 こちらでは裁判にも使われていて、改ざんも修正もできないようになっている。 さて、しっかり見るといい。」
映し出される光景は……わぁ、これはどなたから見た視点での映像でしょうか、う~ん、ひどい。
これはこの国を統治する陛下は怒るわ、うん、怒る。
いや、犯罪を犯したとか、そういうのではなくて、なんというのかな……。
「多大なるご迷惑をおかけしまして大変申し訳ございません……謹んでお茶を差し上げたいと思いますが、受けていただけますでしょうか?」
「許す。」
「ありがたき幸せ。 しかしまぁ、体が動かないんですけどね~」
「あぁ、そうだったな。」
でっかい手が私の頭に置かれると、ラージュ陛下の手がキラッと光って、私の体の中にその光がぐんぐん入っていくのが、なんとな~く見える。
と、光が入ってくるにしたがって、体の隅々に血液と、酸素と栄養がいきわたるような、熱が一気にいきわたる。
これが、みなぎる―! ってやつなのかもしれない!
「これくらいでどうだ?」
手を離され、ソロっと起きてみると、おお! 眩暈もなくしっかり起きられた!
「ありがとうございます! 完璧です!」
「よかったな。 さ、茶を入れて来い、話し合おうか」
真顔です、真顔。 正当派イケメンの、しかも一国の王様の真顔ですよ。
ひぃん、本当に怖い!
「……はい……」
逆らうこともできず、私はベッドから出ると、とっても怖い視線を感じながら一階に降りてお茶の準備を始めたのでした。
……精霊たちはお店の神の木の傍で、丸まっているコタロウにくっついてみんなで寝てましたよ。
うわーん! うらやましい! 私もそこで寝たいよー!