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1-020)裏庭の畑作り(どうしてこうなった)

「さて、騒いでばっかりじゃなくて、ちゃんと仕事するために頑張らないとね!」


 長い髪を二つ結びのおさげにした上から大きな布でぎゅっと邪魔にならないように一つにまとめ……。


 髪の毛のボリュームすごいな、私。 今までさらさら直毛ストレートだったから、外国の映画に出てくるようなふわふわくせっ毛にものすごく憧れてたけど、これは毎朝手入れが大変だわ……とため息をつきながら家が動いた後の裏庭を見た。


 荒地ではないけれど、さてどうしたもんか……。


 そういえば私、畑仕事とかしたことないなと今さらながらに思い出した。


 スローライフどころか、畑仕事は小学校の時のサツマイモとヘチマくらいだったのでは……?


 後、夏休みの朝顔の栽培! 夏休み中に枯れたけど!


 そして知識といえば、元旦那のお母さんの『お嫁さんに自慢しちゃおう、ワタクシノマイスイートマイガーデン』という自慢話のほうが多かった体験談と、イケメンにひかれてみていた国営的な放送のガーデニング番組と、牧場育成ゲームだけだった!


「前途多難すぎるっ!」


 自分で言ったくせに悲しい。簡単にスローライフなんていうんじゃなかった!


 私ってばなんてポンコツ!


「あ、私には強い味方がいたんだった。」


 がっくり四つん這い反省から顔をしっかり上げて、そうそう、そうでした、と態勢を整える。


「知識の泉、薬草栽培のための畑作りのノウハウ検索!」


 ――検索結果です。 図解で説明しますので、確認しながらやっていってください。


 ぱ~っと、頭に辞典のように広がる。


 地図の時と言い、とっても便利だ。 え~とまず……


「精霊に地ならしを手伝ってもらう?」


 ポン、と頭に浮かんだのは、茶金の子……。


 ……うん、めんどくさい。


「知識の泉、再検索! 精霊の力を借りずに畑を作る方法。」


 ――では、畑にする部分の地面を一度綺麗に掘り起こし、大きな岩などをすべて撤去したうえで、水と肥料を混ぜ込みながら……


「いえ、大丈夫です、ごめんなさい。 再検索、精霊召喚の方法。」


 ――召喚する精霊名をお呼びください。 そのあと仕事内容を明確に伝えてください。 精霊の力の源は貴女の魔力ですので、魔力をその仕事に見合う分だけ与えてください。


「なるほど。 ……では」


 えっと、昨日なんて名前付けたっけ……ちゃんとメモしとけばよかったよね、七つも名前考えたからアラフォーの頭じゃ出てこないよね……


 そうそう、あれ、何だろうね。人の名前が顔はわかるのに出てこないって本当にへこむよね。それで間違えて気まずい空気なんか流れた時には本当最悪なんだよね……


 は、ちょっとトリップしてた! いけないいけない。


「召喚。 グノーム。」


『はぁ~い!』


 腕輪から飛び出してきた金茶の男の子は、くるくる! と宙を舞いながらこちらを向いた。


『わぁい! 私が一番乗りだ! フィラン、お仕事は何? 畑仕事?』


「そう、この裏庭を薬草畑にしたいの。 私は畑仕事初心者だから教えてくれる? とりあえず、この畑を使えるようにしたいから、力を貸してください。」


『わぁ! フィランはお願いができるいい子! じゃあ、私が力を貸してあげよう! まずは畑作りだね。 それじゃあ、畑になれー!』


 畑になれーってそんなばかな……と思っていたら、土の中にモグラでもいるかのようにもこもこもこもこ動きはじめ、道のように置かれていたタイルや、花壇の縁として埋まっていた大きめの石だったり、後はいろいろなんだかわからないかけらとかが端っこの方に吐き出されて山になった。


『完成!』


 ものの五分くらいで、園芸番組ではおなじみの、何にも植えていないふわふわの畑になったわけです……ちゃんと畝もできているし、大きく四区画に分けられているしなんていうか、完璧。


「でもなんで四区画なの?」


『中に入りやすいし、手入れもしやすいでしょ? 水はけの問題もあるしね。 フィラン、エーンートと、アンダインを呼んで。』


「わ、わかった。 召喚! アンダイン、エーンート」


『はいはーい!』


 くるくるっと、青い男の子アンダインと緑色の可愛い男の子エーンートが勢いよく飛び出してきた。


『フィラン、やっと呼んでくれた~。』


『フィラン~!』


 半なきの顔で抱き着いてきたのはアンダイン。


 初日に私が大泣きさせちゃった子で、その横で僕も~っと抱き着いてきたのはつられ泣きしちゃったエーンートである。


 可愛い二人はとてもよく似ている。


「昨日はごめんね。 あんまりにもびっくりしちゃったから。」


『大丈夫、僕もびっくりさせちゃってごめんなさい。』


 ぺこっと頭を下げてくれたアンダインの頭をなでると、まるで子猫のようにうれしそうに目を細めたから、こう、私の母性本能っていうか、何かが爆発しそうになる。


 かわいい!


 ショタじゃない!


 わたしはショタだったことは過去に一回もないけれども!


 これはとても可愛い! 反則、とっても反則! 私、この子たちを立派な精霊に育てる!(もう育ってます。)


 って、顔がにやけないように頑張りながら目の前の二人?を見る。


「それでね、いま、薬草畑を作っているんだけど、グノームが二人に手伝ってもらいなさいって。 どうすればいいかなぁ? お手伝いお願いします。」


『わかった! で、フィランは何を植えるつもりなの?』


「これを昨日もらったんだけど、基本的な薬とポーションを、片端から勉強として作りたいのね。 どうすればいいかな?」


 桶の中に入れていた、昨日もらったばかりの薬草の種を混ざらないようにして広げると、エーンートはわかったぁと笑った。


『薬草の子達よ、フィランに力を貸してあげて。 それぞれがそれぞれの地でそれぞれの役割を果たせるように寝床を選んで健やかに育つんだよ。』


 ふっ、と種に息をつきかけると、その流れに乗って種は畑に散らばっていってしまった。


「種、飛んで行っちゃったよ?」


『大丈夫。 水はけや、日当たり、地中の神の木の場所とかを考えて、種が自分たちがどこだと育ちやすいか選んでいったの。 そしたら今度はアンダインにお願いして』


「アンダインに?」


『そう、生きるものが水がないと生きていけないように、植物たちも水がないと生きていけない。 だから、お願いするんだよ。』


「そっか。」


 アンダインに向かって両手を広げた私は、お願いする。


「アンダイン、お願い。 私の世界にはね、とっても美味しい神様のお水で、甘露の水っていうのがあったの。 こっちの世界にもあるかな? 私たちの畑の子に分けてあげて。」


『うん、うん! あるよ!』


 飛びついてきたアンダインは、嬉しそうに言う。


『神様の涙、嬉しいことがいっぱいあった時に神様が流した涙は、甘くて栄養があって、万病を癒すんだ。 だから降らすよ。 畑の子供たちのために甘露の雨!』


 虹色の雨がそこにだけ霧雨のようにふりだした。


 それはお日様の光を浴びて、畑の上に大きくてきらきらの虹を作る。


「わぁぁぁ! すっごい綺麗! きれ……ん?」


 感動して大きな声を上げた私は、でもすぐに異変に気が付いた。


 土が……小さく波打ってない? なに? これは何なの?


「グノーム、何かした? 土が変だよ?」


『してないよ~。』


 お庭の真ん中で座り込んでにこにこしているグノームは首を振る。


「じゃあ、エーンート?」


『僕も、何もしてないよ?』


 三人がにこにこしながら顔を見合わせている。


『でも『ね~!』』


 エーンートと、アンダインが一緒に小首をかしげて笑った。


『練習したいんでしょ? 早いほうがいいもんね。』


『私も力を貸しちゃお! みんな、頑張れー!』


「え? えぇ?!」


 グノームもアンダインもエーンートも、ほわっと光を放った。


 その瞬き一つ後には、畑を三度見くらいすることになる。


 濡れた土の腐葉土色だった畝の表面が一気に緑色に変わったのだ。


 そしてそこからはあっという間だった。


 芽は双葉になり、葉を広げ、茎をのばし、つぼみを持ち、花を開かせ、花びらを散らし、様々な色の実を膨らませる。 実は落ち、新たな芽を増やし……この営みを3回ほど繰り返したところで、急激な成長は止まった。


 急激、な成長?


 ……いいや、深く考えない。


 理解しきれなかった部分はもう全部ほっぽって、緑が茂る畑に入ると、霧雨にしっとりと濡れた葉がしっかり青々と広がっていて、花を持つものからはいい香りが漂う。


 素人目にもわかる、この子たちは今まさに摘み時。


 錬金薬師のスキルが教えてくれる。


 今、刈り取って下準備をしろ! と。


「……チート……?」


 緑の手もびっくりの、瞬間栽培。


 しかもこの三人がいたらいつもこの状態を保てる……と、自信満々に話してくれたのはエーンートで……。


 私、また、知らないスキルが増えてるんじゃないの?


 しかもいま工事に入ってる大工さんたちがこれを見たらすっごい不信がるやつじゃないの?


 かくす? かくせる? どうやって!?



 裏庭への扉、棟梁壊しちゃったんだよ! と一人パニックっていたら。


「うわ! これはなんだ!」


 あっけにとられている私の後ろから、花樹人の声が聞こえた。


 はい! 隠す間もなく、ばれましたー!


「あ、あの、これは!」


 慌ててどう説明しようかと向こうの社会人スキルを活かして言葉を探すが全く見つからない。不自然すぎます! さっきまでむき出しのただの土でした!


「これはすごい、さすが薬師の薬草畑だ!」


 ……え?


 よいしょっと掛け声をかけながら、ぶち抜いた壁の部分を補修した後、宣言通りのとてもかわいい裏庭への扉を固定し、不具合がないかしっかり開け閉めの確認をした後で、あっけにとられてる私の頭をぐりぐりと撫でてくれた。


「あの短時間でここまで見事な収穫時の畑が出来上がるとは、フィラン嬢の祖先には花樹人でもいたのかい? さすがその年で薬屋を開く許可をギルドにもらえるだけはある、感心したぜ!」


 ものすごく感心した言い方に、いえ、私は生粋のジャパニーズです、というわけにもいかず、またあいまいな笑顔を残してしまったわけですが……。


 ここに、私の薬草庭園が見事完成しました!


 ただいまから、収穫します。





 人生イージーモード、約束守ってくれてありがとうございます、神様。


 そうですね、私が言ったんでしたね、そうしてくれって。


 そして付け加えませんでしたね、目立ちたくはないって。


 でもこんなになるなんて思ってなかったんです。


 もうやけくそ! これから収穫頑張って、明日からは開店準備頑張るぞー!


 おー! と、私の心の中での強い決意に、3人の精霊が声を揃えて言ってた気がするのは、なんでかな……

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