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1-018)神様、そうじゃないって言ったはずです

 さてさて。


 まぁ、いろいろあって、真っ赤な顔をしながらも、鞄と籠を握りしめ、さっさと騎士団駐屯地のゲートを借りて貴族層にあるギルドについたわけですが……。







「あれ? ……やっぱりフィラン嬢! 昨日は本当にありがとうございました。 今日はどうしたんですか?」


 聞きなれた声に気が付いたのは、ギルドの銀行部門の中の一般の窓口で、ここには昨日の一件で十分に懲りたので、出来れば当分近づきたくない! と、大銀貨1枚と銀貨七枚(貯蓄残金は金貨四枚と大銀貨八枚だよ! ……たぶんね?)を引き下ろしていた時だった。


 なんで転生2日目にして聞きなれた声って認識なんだろう……。


 あと、神様、平穏って何ですか……。


 私は脱力しながらそちらを振り返った。


 声をかけてきやが……いえ、声をかけてくださったのは、昨日から聞き覚えがあるというか、昨日散々聞いた声というか……あざと可愛い系美少年枠の栗鼠の獣人さん。


 でっかいしっぽがブオンブオンと風を起こすんですが、もしや私に会えてうれしいんですか?


 ごめんなさい、私は昨日でお腹いっぱいなので、今日はあんまりお話したくないです。 な~んて言えたらいいなぁ。


 ついつい愛想笑いをして対応してしまう、前世でNoと言えない世代の日本人であったことが悔やまれます。


「えへ、新生活って思った以上にお金がかかるんですね。 新生活の買い物を午前中にしていたら、昨日手元に残していた分がなくなっちゃって、とりあえず当面の生活費を下ろしに来たんです。」


 閑散としていますが、さすがに誰が聞いてるかわからないんで金額までは言いませんよ。


 とりあえず見た目通りくらいの、あんまり世間慣れしていないお上りさんっぽい感じでお話しすると、あーそうでしょうね、と、笑われた。


「すべてがそろっているところでの銀貨三枚なら大丈夫でしょうが、新生活を始めるのにはぜんぜん足りないですよ。 僕も引っ越してきたときそうでしたから、昨日足りるかな~って心配だったんですよねぇ。」


 心配だったんなら教えろや!


 なんていうわけにもいかず、そうだったんですねぇ、と困ったように返しましたが……この人は意地が悪いのか天然なのか?


 いや、あまり深く考えないで早く別れて、お金受け取って残りのお買い物に行こう!


「いろいろと親切に、ありがとうございました。 銀行員さん。」


 軽く頭を下げて挨拶をし、顔を上げるとそこにはとっても傷ついたみたいな顔でこっちを見てる銀行員さん。


 え? なに?


 と思ったら、とんでもないことを言い出した。


「その呼び方、他人行儀っぽいからぜひ名前でよんでほしいっす! 友達になれるかな? なんて思っていますし、なんなら窓口担当も僕が全部してあげますよ。 ほら、これで慣れない王都生活も一安心!」


 ほら、僕も飾り付きだしね。


 と、耳飾りを指さしながらウィンクした栗鼠のギルド員さん。


 一安心! じゃねぇよ。


 どっちかと言えばノーセンキューだよ!


 しかも何、こっちの世界は銀行員と仲良くなるシステムとかあるの?


 それって立派な公私混同じゃないの?


 後、キュートなお耳は頭の上なんですね、そう言うパーツは人じゃなくて獣よりなんですね!


 いやでも、そこを気にする前に誤解を解かなければならないところがあるので、まずはそっちを突っ込ませていただきます。


「あの、そう言われても、わたし、銀行員さんのお名前、知らないです。」


「……え?」


「え? じゃなくて、お名前聞いていません……。」


 後、いつお友達になったか知りたいです、とまでは言いませんでしたが!


 飛躍しすぎなんだよ! もう少し優しくしてよ! と思いつつ、にっこり笑う。


「昨日あの場にいた方のお名前、誰も聞いてないんです……なので名前で呼んでと言われても困ると言いますか……。」


 あはは、と笑う私の目の前で、栗鼠の獣人銀行員さんはあっという間に真っ青な顔色になった。


「あれ? 全員名乗らなかった……あいつも……あいつも!?」


「はい、全員。」


 あ、本気でわかってなかったのか、おっちょこちょいさんめ。


 というか、新しい技術万歳ってなってやがったんだな、この野郎! おかげでこっちは布団では寝れなかったんだぞ、コタロウがいたからよかったけどな! なんて思ってたらいきなりぎゅうっと両手を握られた。


「へ?」


「ごめんね!」


 いや、強引……。


「いえ、まぁ皆さん、お仕事熱心な方だなと感心していましたので……まぁ、大丈夫です。」


「ほんとに!? いやでも本当にごめんね? そうだ! お詫び! お詫びしなきゃ! こっち、こっちきてー!」


「え!? ちょっと! お金!」


 お礼なんて結構です~ っていう私の声、窓口で手続きしてくれてた他の銀行員さんのところに残像として残ってたんじゃないかな? と本気で思うくらい勢いよく! 素早く手を引かれた。


 手加減してよ!


 後、まだお金受け取ってないよ!


 と、わめき倒してやろうと思った時にはすでに再び昨日の会議室に引きずられていて、昨日と同じお誕生席に一人、座らされておりました。


 もう今日の空来種的な業務を終了したいなぁって思っちゃうよね。仕事じゃないけどね。あ~あ、自分お疲れ様です。


「……はぁ……」


 強引に座らされ、待っててね! 絶対待っててね! お金もちゃんと持ってくるから! それから本気でお詫びするから! 本当にごめんね!


 と捲し立てて栗鼠なギルド員さんは出て行ってしまい、私一人が残されているわけですが……お詫びはいいから帰りたいなぁ……ところで会議室は空来種の軟禁部屋と同義なのかな……すっごい真剣に悩んじゃうよ? と、ため息をついた時だった。


「おまたせぇ!」


 会議室の扉を力いっぱい蹴り開け……蹴り開け? 入ってきた栗鼠銀行員さんは、左手に持ったトレイには昨日とは全然違うとても綺麗なティカップにお菓子、右手にはたぶん私の今日おろしたはずの革袋を持ってはいってきた。


「もう! 本当にごめんね! こちらは貴族層の方にだす紅茶とお菓子なんだけど、フィランちゃんのためにもらってきたよ! あ、ちゃんと許可とってあるから安心してね。 それからこれが今日おろしてたお金ね。 後それから……」


「おまたせっ!」


 両手にしっかり木箱を抱えた兎ギルド員さんが、こちらも扉を蹴りとばさん勢いで入ってきました。


 えぇ、蹴り飛ばしてはいません、もう蹴り飛ばされた後ですから。


 ……なんなの? 小動物系獣人さんは、扉を蹴り飛ばして開ける生き物なの? それだったらうちのお店、小動物系獣人出禁にしないとダメなのでは?


 と思っている間に、木箱を机の横において私から見て左右斜め隣に二人が座った。


「あらためまして! ほんと昨日はごめん。 俺はこのギルドの住民住宅管理部門の副長のティンクス=トイン。 ティンって呼んでくれ。」


「僕は銀行部の空来種担当でカヴァス・リーディ。 リディで通じるから、今度から呼んでね。 僕たちもフィランちゃんって呼ばせてもらうね!」


「はぁ……」


 いや~、たぶんよばない……。


 後、ちゃんづけ……いや、もうあきらめよう、私子供だしそこは仕方ないな。


 なんて思いながら、出していただいたお茶をいただくために手を伸ばした。


 ん? 昨日のお茶よりもとっても香りがいいぞ。


「おいしい。」


 口に含むと、ほんのり柑橘系のやわらかな味がして、おやつも昨日ラージュ陛下にいただいたお菓子によく似ていて、とてもおいしかった。


「よかった! もうさ、本当にごめんね。 というわけでお詫びと言っては何なんだけど! 今日は昨日よりもっといいものを持ってきたから!」


 と、ティンさんが隣に置いた先ほど抱えていた木箱の中を身を屈めて漁っている。


「いえ、昨日もいろいろもらってますし(まだちゃんと見てないですけど)大丈夫ですよ?」


 あれだけ持たせといてまだ物を渡す気か、仕分けめんどくさい……とおもいながら恐縮したように言うと、いやいや遠慮しないで! といそいそと嬉しそうに次から次にものを机に並べる。


「これ、今フィランちゃんが飲んでいるお茶の茶葉。 貴族係の奴に2袋もらってきたからあげるね。」


「それはうれしいです、ありがとうございます」


 よっしゃぁ! これで当分の美味しいお紅茶GETですよぉ! 


 とんとん、と、紙袋が出てきて思わず即答しちゃった。


 現金だなぁ、私。


 ちょっとだけ逃げ出そうとしたことを反省していると、つんつん、と反対側から軽くつつかれた。


「フィランちゃん、これ、さっきおろす手続きしていたお金ね、半分は大銅貨と銅貨に分けてあるから確認して。」


「はい……だいじょうぶです!」


「はい、じゃあこの皮袋そのまま使っていいから、籠に入れちゃってくれる? まぁまぁの大金だからね」


 反対側から革袋に入ったお金をちゃんと数えてくれていたリディさんが私に確認してくれて、確認の印鑑? ちがうな、魔法印を付けていた。


 仕事はちゃんとできるんですね、暴走するけど。


 少し感心しながら受け取った革袋と茶葉の袋、それからおやつを籠に入れると、次は、と、リディさんとティンさんが次々と何やら出してきた。


「これ、薬師部の奴らからもらってきたんだけど、基本的な薬草の種セット。 で、伝言が『お薬出来たらぜひ売る前に拝見させてください。王都での相場や、お値段の付け方教えます。』って。 僕の名前を出してから、ラフイっていう花樹人を呼んでね。 あ、すごくいいやつだから安心して。」


 と、リディさんが言えば。


「こっちはね昨日きたアディ……あ、アディイールって言って、王宮魔術師の技術科副長で幼馴染の、昨日来た熊の獣人のあいつね。 デカいなりで、すげぇちまちました細かい作業が好きなやつなんだけど、あいつからで、『調薬薬師ならこちらの機械一式が必要になると思いますので、僕のお古になりますが、どうぞ使ってください、買うと高価ですから。 で、本日の神の木での出来事については後日お話伺いしたいです。』 だって。」


「え?」


 目の前に広げられた、学校で見た実験道具や、これは専門知識が……と思うような科学の実験器具があれやこれやと出されたことにもびっくりしたが、その後、後っ!


「……神の木の事って……」


「ついさっき七属性全員と派手に契約したんだって? 魔法科の奴らが色めき立ってて、ぜひ話を聞きたい、何ならうちで働きませんか? って詰めかけそうなところをアディ一人で止めてたから、少しだけでも話してやってあげて。」


「……はい……」


 うぅ、見知らぬ人に声かけられたとは思ってたけど、そうか、迷惑かけてたぁ、後でお詫びに行かなきゃあ……っていうか、ついさっきの事なのに知れ渡るの早いな、どんな地獄耳だよ……。


 頭を抱えたくなるのを必死に我慢しながら、お茶をすする。


 神様、もうこっちに来てから何回目か知りませんけども言わせてもらいます。




 約束と違います、この野郎!




 スローライフどこ行った、人生イージーモードどこに行った!


 バカバカ、神様の馬鹿……。


 しかもイケメンばっかりからんでくるの、乙女ゲームの逆ハーみたいで本当に地雷です。


 イケメン見たいと神様にお願いしたのは自分ですが、一度も絡みたいなんて言ってません。


 言ってません。 見たいといっただけです。 が、一部自分のせいなので、これ以上は言いません。


 と、ここは、泣きたくなるのを我慢して、まだまだ離してくれそうにないお二人を見ながら、お茶をすするしかできませんでした。


 あ~あ。残りの買い物、いつ行けるんだろうなぁ……。

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