1-017)神様のチートサプライズ?大失敗フラッシュモブ
ヘイ、知識の泉。
あっちからこっちから自分勝手にこっちの気持ちも確認しないまま、自己アピールをして契約を迫ってくる精霊たちにお帰り頂く方法プリーズ……
――申し訳ありません、検索結果にヒットしません。
わぉ、辛辣。
「デスヨネェ~」
右から左から、何なら上から下からも、どんどん自己紹介とか、得意な事とか、あっち行きたいこっち行きたい、あれが好きこれが好き、大好きだから契約して等々、勝手に言われる私の身にもなってください……
あーうざい、本当に、うざい。
恐れ多くも神々に連なる精霊様に対して『ウザイ』って失礼かもしれませんが、うざいものはうざいんだよ~。
一気に七つ子の親になった気分だよ~!
いや、親にはなったことないけどね!
……う……自分の心の傷をえぐっちゃったかもしれないぜ。
ふと、一昨日までの自分を自嘲気味に笑ってたが、後のことを考えるとこれ以上はそんな暇もない。
「一回全員喋るのストップ!」
ちょっと大きめの声で叫んだので、ぴた、と7人の精霊たちが押し黙る。
とりあえず、このままこの神の木の周辺で七つの光に囲まれて私が光に対して文句を言い続けるっていうのはたぶん……いや、絶対に衆目を集めてしまうので、とりあえず私にまとわりついている光たちに対してびしっと! 言い切った。
「とりあえずみんなの話は家に帰ってから聞くから、一旦黙って! 私はギルドにお金をおろしに行って、それから新居の準備をしたいの。 それを邪魔したらみんなと契約しない!」
精霊様に対して契約しない! なんてどれだけ上から目線なんだよ、私……じゃあ、僕たちの眷属誰とも契約させないって言われたらどうするんだよ! と言ってからしまったな、と脳内で突っ込んでいたら……
『うっ……うえ……』
え?
『うえぇぇぇぇぇぇん!』
青い男の子の光が大泣きを始めた。
『ひどいんだぁ!』
『フィランが水の子泣かした~!』
『水の子が一番フィランと一緒にいたがってたのに~。 ひどぉい』
『フィランのためにこの形になるように頑張ったのに~!』
『契約しないなんてひどい! 契約してもらえなきゃ私たち、消えちゃうのに!』
一気にほかの精霊たちに攻め立てられる。
なんだこれ、小学生のクラス会みたいじゃない!? なにこの流れ。
「え? なに? わたしがわるいの? っていうか、消えちゃうの!?」
『消えちゃうよ~! だってフィランのための僕たちだもん!』
緑色の子が叫ぶ。
『私たちは、フィランのためにこの姿になったの!。』
赤い子が、火の粉をまき散らす。
「ちょっと待って、木の傍は火の粉、危ない!」
慌てる私と、燃えてる赤い女の子の間を、茶金の男の子が割って入る。
『本当はもっと神様に近いとっても素敵だったのを、わざわざいまのフィランのためにこの姿になったのに。』
『水の子、泣かせた。』
『ちが、ちがうよぉ~、フィランが悪い、わけ、じゃないよぉ~。 ぼ、僕が……』
『うわ~ん、水の子が泣いてると、私も泣いちゃうよ~。』
わぁ! 伝染し始めた!
幼児のつられ泣きか!?
あ―! もう! もうっ! 神様、チートいらないって言ったじゃん! 本当に怒ってるんだからね!
でもそんなことより、この騒ぎを収める方が先ですよね。子供の機嫌の取り方って何?
……契約か……。
スンッ……と一気に冷静になって、嘆息すると全員を落ち着けるために少し大きな声を出した。
「よ、よし。 契約する! すぐ契約するから一回みんな静まって!」
『ほんとに!?』
青い子が顔を上げると、他の子達もほんとに!?と破顔する。
「ほんとにほんと。 でもちょっと待って。 へい! 知識の泉! 精霊との契約方法の検索!」
やけくそで、周りの人にどんな風にみられているかもわからないけどとりあえずスキル発動!
――契約したい精霊へ、名前を提示すると、相手が了承か拒否します。 精霊が気に入る名前になるまで頑張ってください。
「まじかー! めんどく……」
せぇ、という言葉を発する前に周りの精霊たちがまた泣き顔になったり、火の粉や葉っぱをまき散らそうとしているのが見えて慌てた。
「いや、頑張る! すぐ考えるからちょっと待ってて! はい、一列に並んで! 」
この言葉に破顔し、にこにことした顔で私の前に一列で並ぶ。
さて、どんな名前を付けるのさ、ここはもう、こう、向こうでやっていたファンタジーなゲームの精霊たちとおんなじ名前でいいんじゃないかな? あんまり凝った名前を付けても絶対覚えられないしね!
日本名? いや、こっちの世界じゃ合わないだろう……あめふらし、雨女……あ、男の子だから雨童子とか……
ないな、ないない。
よし、西洋ファンタジー風で!
と、いうわけで。
青い子の頭をなでると、くすぐったそうな笑顔になった。
こんなにかわいいのになぁ、ウザイなぁって思った私を許してね。
「アンダイン!」
ぽっと、青い子が光ると、今まではなんとなく水の塊っぽかった姿が、もっとしっかりとした人型を取り、流れのある波立つ衣をまとった姿に変わった。
その姿を自分でも確認し、満足いったのかにっこり笑うと、今朝、詐欺師? とちょっと疑ってしまったドワーフ商人からもらった左手に嵌めている木の腕輪を触った。
『よろしくね、フィラン!』
それだけ言ってぱしゃん、という音と共に水の形に戻ったとおもったら、今度は指輪のような形となって腕輪の溝にかちりとはまった。
「変な模様って思ったけど、こういうこと? あのドワーフのおっちゃん何者なの?」
疑ってごめんね! と思いながら腕を上げて腕輪を見ると、きらきらと水色の宝石がはまったように光をはじく。
『フィラン! 早く! みんな待ってる!』
は~っと感心していたら、目の前に緑色の子が飛び込んできた。
あぁ、みんなワクワクしながら待ってるんだね。
「えっと、エーンート。」
『わーい!』
その子が大きく葉を広げるように体を膨らませ、緑色の指輪になってはまると、次わたし、いや僕、とみんながふわふわ浮足立っている。 もう、一気に行くぞ!
「サラマンドラ! グノーム! シルフィード!」
三人が ありがとう! と身を輝かせて腕輪にはまっていく。
「ヴィゾウニル! アルムヘイム!」
最後に残った黄金の子と虹色の子もきっちり腕輪にはまった時には、私はものすごい疲労感でその場に座り込んでしまった。
「や……やっと終わった……」
半泣きで腕輪を見ると、そりゃあもう、ぴっかぴか! 文句なくきらっきらと光を放って己の存在感をアピールしてくる彼らをひとなでした。
「まぁ、これからよろしく……ね?」
「お嬢さん、いまのは……」
はっと気が付いて周りを見ると、結構な人だかり!
「ひぁっ!」
めっちゃ注目浴びてたー!
だめだこりゃー!
「あ……えぇと……」
ひとり、魔導士みたいに真っ黒なマントに身を包んだおじちゃんがこっちに近づいてくるのを見つけ、やばい!と 立ち上がるとぺこり、頭を下げた。
「お、お騒がせいたしましたぁぁぁぁ!!」
落としていた籠と鞄をつかむ。
「失礼します――っ!」
ダッシュで目的地に向かって走り出す。
あぁ! まって! 話を! とか何とか言っているおじちゃんに追い付かれないように人だかりに飛び込んでそのまま抜ける。
新生活開始2日目!
街中で誰の目にも明らかな奇行をぶちかましてしまいました。
それもこれも、目立ちたくないって言ったのにこんなサプライズチートしてくれた神様のせい!
フラッシュモブ的な注目は浴びたくなかったのに!
「神様の馬鹿――!」
騎士団の駐屯地まで、大声で叫びながら全力疾走する私は、それはそれで注目をあびてた……のは、後日お店のお客さんから聞きましたとさ。




