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1-014)家の修繕にまで手をまわすのやめろ!

「大きく破損している場所や修繕個所はどこにもないな。 最近までアトリエとして丁寧に使われていただけはある。 ざっと希望にそった設計図も描き終わったから最終確認だ。 お嬢ちゃんの意見は1階の店舗の改築が中心だったな。 床の磨き塗装と、壁紙の張り替え、壁一面に天井までしっかり頑丈で棚の高さが変えられる作業机も兼ねた棚に、店の中央に仕切るためのカウンター。 それから客がプライベート空間に侵入しないように魔道具を店のカウンターとその奥、階段前のゲートに取り付けて、店舗に置く小さめのテーブル二つに椅子八脚、と。

 でギルドの兄さん達からの依頼ってことで二階にお嬢ちゃんのベッド備え付け棚、客間にベッドが各二台ずつと、それから各部屋にテーブルセット。 よし、これならこれから帰って工房で作業できるし、取り付けと床と壁の施工で、うん、明日一日で終わるな。」


「は、はぁ~……」


 ここまでの経緯と、大工の棟梁のマシンガントークで私はすでに疲労困憊、ため息が返事になってしまった。


 何しろお昼ご飯も食べていないのである。


 時間を忘れて買い物していたため、マルシェから走って帰ったら(成長前の自分のコンパスの短さと、素早さ体力にステータスを振らなかったのを心から呪ったのは秘密だ)ちょうどいろんな種族の精鋭が集まったと思しき大工さんたちが家の門の前を歩いていて、運の強さって本当にあるんだなぁと、最初に見たきりの自分のステータスを思い出した。


 声をかけて家に招き入れるとすぐに、一緒に見て回ってその都度意見を聞いてくれ、こちらも遠慮なくいろいろお願いしたのだが、嫌な顔せずその都度建物と意見をすり合わせ、様々な案を練った上で上記の設計図は完成したのだ。


 まぁ、そんなドタバタの中だったので、一人空気も読まず「すみません、ご飯食べていいですか?」 と聞くこともできず、大きく鳴りそうになるお腹を押さえてながらここまで頑張った。


 さきほどからお話をしているのは、私ほどの背丈でものすごく立派なおひげを蓄えた大工の親方。


 姿かたちがさっき食器を購入した怪しいおじさんと同じだから、たぶんこの親方もドワーフなのだろう。


 ちなみに、ドワーフについては走りながらの帰り道、知識の泉にしっかり聞いたんだけど、人亜種ってことらしい……ドワーフは建築木工鍛冶などのエキスパートが多い職人気質な種族。


 今回お仕事してくださる皆さんの親方がドワーフなのもなるほど、うなずける。


「ダボとやらを使った稼働する棚やらカウンターにつける鍵付き引き出しやら、ここまでの技術仕事を請け負えるなんて、わしの腕が鳴るわい! 嬢ちゃん、期待していいぞ!」


「細かい要望が多くてごめんなさい、でも期待してます!。 あ、追加工賃は先払いですか? 銀行から下ろしてこなきゃなんですけど、金額教えていただけますか?」


 ドワーフ親方の満足そうなお顔に、結構かかるだろうなぁと聞いてみる。


 今のお財布の中身だけじゃ、これだけの改装は絶対できないだろうし。


 しかし、返ってきた答えはとても意外なものだった。


「追加金額はないぞ。」


 あっけなく返されて目が点になった。


「え? これだけやってもらって追加分なしは無理ですよね?」


 絶対に無理なはずなのに、さらっと言われたので聞き直す。


「これだけ家具や床の事やってもらうのに、追加がないのはおかしいと思うんですけど……?」


「そりゃそうだ、今回くらいの規模だと、普通なら金貨3枚分くらいは追加分として必要だな。 いい木材も使うし、魔法具も入るからなぁ。」


「じゃあなんで……。 はっ!」


 そういえば何か言ってた気がして、先ほどの親方の言葉を思います。


「ギルドの兄さんたちの依頼ってなんですか?!」


「おっと、気付かれちまったか。」


 ありゃりゃしまった、と、ちっともしまったって思っていない顔をしたドワーフ親方、彼よりうんと背の高い、髪の毛がモミの木の葉のような青年が困ったように笑った。


「親方、自分で言ってましたよ。」


「おぉ、そりゃあ、やらかしちまったな。」


 突っ込まれても当然ながら、これっぽっちもやらかした、って思っていない顔でカラカラと大笑いしたドワーフ親方は、目の前の設計図に何個か丸をつけた。


 二階へ上がる玄関のゲート、お店のカウンターと魔法具、一階のテーブルと椅子、二階の2つの客室に各二台のベッド、それから私の部屋のベッドと作業机……あれ? 家具なんかはほとんど足出るってこと?


「これが足の出てる分だが、なんでも依頼先のギルドの兄ちゃんたちがお嬢ちゃんに大恩があるとかで、ギルドから金を出すってことになっとるらしい。 あと、自分たちがまた行くかもしれないから二階の客部屋にベッドを置いといてくれって言ってたな。 それからお嬢ちゃんのベッドはお嬢ちゃんによく合う可愛いものをと言われとるから、こいつが腕によりをかけて作るぜ!」


 くいっと親指で指し示されてペコっと頭を下げたのは、先ほどのモミの枝の頭の背の高い青年で、花樹人(はなきひと)という種族らしい。


 そうか、あの花のような頭の人とかは花樹人なんだな……こっそと知識の泉に聞けば、髪の毛の部分に木や花の特徴があるらしい。 それから、ぱっと見の外見は一般的な人に近いが、体に花の刺青がある花樹亜人もいるらしい。


 うむ、とっても勉強になる。


 しかし由々しき事態!


 家にまで押しかけてくるつもりか、あの人たち!


 お金を出してくれるのはありがたいですが! 女の子の家に泊まる算段までも勝手につけるんじゃねぇよ!


 と、怒りにお腹が鳴っても文句を言われる筋合いはないのである。


 が、お金が減らないのは正直嬉しいから、よし、セキュリティ強化だ!


「えっと、私の寝室には気合の入った魔法具付けてもらえますか?」


「おう、それも頼まれてるからまかせとけ! ほかに追加はあるか?」


 頼まれとんのかい…とは突っ込まず、頷く。


「これ以上はありません~。」


 これ以上追加したら、いくらギルドが全額払ってくれるとしても本当に申し訳ないと首を振ったけれど……


 あれ? これって礼のキャッシュレス決済の報酬のかわり? それならこのまま遠慮なくもらえるんだけどなぁ。 後で確認してみよう!


「じゃあこれで決定だな。 今回の工事は明日一日で仕上げるから、明日は一日、俺たちがいつでも声がかけられるところにいてくれ。 いろんな微調整をしながら仕上げるからな。 それから、お嬢ちゃんが寝るベッドは今晩いるだろうからこれは持ってきてやったぜ。」


「もってきた?」


 どこにもそんな大きい物なかったし、運んでいた形跡もなかったけど?


「おい。」


「はい。 ちょっとお嬢さんのお部屋、失礼しますよ。」


「え? あぁ、はい。」


 ドワーフ親方と弟子・花樹人に連れられて上がったのは、一番大きな私の部屋兼作業部屋。


「ベッドを置くのはどこがいいですか?」


「えっと、じゃあ一番奥のところでお願いします。」


 部屋に入って右側の一番奥を指さすと、弟子・花樹人はそちらに歩いていき、両手を広げた。


「?」


 何をしているのか、わからなくてみていると、弟子・花樹人さんの両手が光って、その光の中から木の根が大地に根を張るように、枝が大空に両手を広げるように伸びていって……バキバキ音が鳴ったりしながら、あっというまに『ザ!眠れる森の美女的』自然に守られて眠るお姫様をイメージ……? と二度見しちゃうような可愛らしいベッドの形になった。


「どうですか? 何かご希望はありますか?」


「いや、タコの脚とか異界から出てきた触手って感じがしました……」


「たこ? 触手?」


「あ、いえ! 何でもないです! お姫様みたいで可愛いです、こうやって家具を作るんだなってびっくりしました。 もっとこう、カーペンター的な、道具を使ってしっかり計測して、みたいなのを想像していたので、まさかこんな感じだとは……。」


「特殊スキルで家具生成と言います。 花樹人が時折持って生まれるスキルなんですが、初めて見たんですね。 便利なんですけどこのスキルは結構つかれるので、一階の家具はおっしゃるような感じで作りますし、大工はドワーフたちが多いですからね、やはり大工仕事的な方が一般的です。 今回はギルドの方々にお嬢さんのベッドは特別なものをと言われましたので、精霊たちにも力を借りて頑張りましたよ。 このベッドは眠り花の守りがかかっていますから、不眠除けにもなります。 今日はゆっくり休んでくださいね。」


 ……リアル眠りの森の美女的安眠ベッド?


 モミの花樹人のお兄さんにすごくいい笑顔でそう言われ、顔に笑顔を張り付けたまま私は内心困ってしまった。


 いや~。昨日は毛むくじゃらに抱っこされて、めっちゃくちゃいい感じで寝たんですけどね! 何なら今晩もそれで寝ようかな、なんて思っていましたけどね!


 なんていうわけにもいかず「お気遣いありがとうございます。」と笑って返事したわけですが、ここまで職権乱用してまくっていいんですか? ギルド員さん……。


 確かに激甘生活を希望しましたが、初対面の人たちにこんなに優しくされていいんですかね、神様……と天を仰ぎながら思ったわけです、私。


 それから大工さんたちを見送って、買ってきた食器を水場で洗って綺麗に拭き、店舗の日向でごろごろしていたコタロウに買ってきたお皿で、切り身魚の飯とお水をあげて、自分も果物と相変わらず味気ないマナポーションを摂りながら、お昼からの買い物の思案をした……のだけど、神様、本当にこんなイージーモードでいいんですかね? と、やっぱり天を仰いだのでした

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