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2-017)巻き添え事件? いえ、違います!

初春のお喜びを申し上げます。

今年もどうぞ、よろしくお願い申し上げます。

舞ったり進行ではありますが、これからも頑張りますので

本年もお付き合いくださるとうれしいですm(_ _"m)

 大きく揺れた馬車の中で、お互いを抱きしめる形になってしまった私とリンチェ。


 細身のリンチェは、抱っこしたらふわっふわ、ものすごい柔らかくって、いい匂い~。


 正面から抱っことか、わぁい、仲良し♪


 ……とか、そんなわけあるかい!


 あ、でも、ここで一回はボケとこっかな?


「付き合ってもらうってもしかして、そ、そん……うっわっ! 急カーブ駄目!」


 喋り出したところで、馬車が再び大きく揺れたため、私はでっかい声を上げて、目の前のリンチェをぎゅっと抱きしめちゃったわけですが……大きな揺れが収まったところで、のそっと顔を上げてリンチェと目が合うと、でっかい声上げちゃった恥ずかしい気持ちを隠すために、続きを口にしてみた。


「それで……えっと、愛の告白!?」


 すると、呆れたように、はぁ~っと大きなため息をついてから、私をぎゅっと抱きしめたリンチェ。


「こんな状況で冗談が言えるなんて、流石、私がお友達と認めたフィラン! でもね。」


 外からの大きな声に遅れて、ぐわっと、みたび、馬車が大きく揺れた。


「舌をかみ切る可能性があるときには、そんなことは言わないものっ。 歯を食いしばって倒れないようにしがみついてっ!」


「はぁいっ!」


 なんて元気に返事をしたけれど、実はさっき、ちょっとだけほっぺの内側噛んでま~す(手遅れ)。


 ポーション、鞄の中に入ってたかな? と考えながら、ちらっと窓から外を見るが、従者さんの仕事だろうか。 いつのまにかガラスの窓の外側に、しっかりした木戸がかけられていた。


 その為、目からの情報は全くなくなってしまったが、しかし、馬車の車輪の音と揺れから、走る速度が先ほどとは段違いに早くなっていることは察することが出来た。


 それに、しっかりと耳を向ければ、激しく音を立てる車輪の音に交じって、馬車の外で諍いが起きているのだろう、数人の男の人が何かを叫ぶ声が聞こえいる。


 そうか、これが……。


 襲撃。


 その言葉がすぐに頭に浮かんだけれど、ちょっと待って、ここはまだ王都内の第2螺旋階層で、そんなところでルクス公爵家の馬車なんか襲ったら即バレだと思うんだけど……? あれ? 犯人、馬鹿なの?


 その後も、何度か大きく揺れながら走り続ける馬車の揺れが、やや落ち着いたころ。


 いつまで抱き着いてるのよ、と笑ったリンチェから、それもそうだね、と、離れ、先ほどまで座っていた正面の一ではなく、彼女と横なりに座り、相手の軽率さで犯罪は成り立つのか? と頭を悩ましていた私の隣で、彼女はぽつっと言った。


「王都内でこんなことをしなきゃいけないくらい、相手が切羽詰まってるのっ。」


 ほほう、そうなのかぁ……ん?


「え? リーリ、なんで! エスパーなの? 私の心の声読んじゃった?」


「……はぁ……エスパーって何? というか、あのねぇ、フィラン」


 もしかして家系的に読心術的なスキルでも持ってるの? なんてリンチェを見れば、心底呆れたような顔になったリンチェは、私のおでこを軽く小突いた。


「あんた、いま、思い切り口に出してたわよ?」


「え、嘘!」


 あわてて両手を口に当てる。


 私、知らない間に心の声が、口からまろび出ていたみたい……うわ、恥ずかしい。


 てへ、っと笑うと、もう! と、同じように笑って、私のおでこをぺしっと叩いたリンチェは溜息をついた。


「本当……。 兄さまにどうかなってちょっと本気だったけど……フィランは絶対に、社交界では生きていけない……。 あきらめよ。」


 やれやれ、と軽く首を振って、それから、ふっと何かを含んだように笑った。


「でも、そうだね。 他の階層だったらこんなこと絶対にできなかっただろうね。 けどまぁ、そこは第2螺旋階層だからこそ、ね。」




「へ?」


第2螺旋階層(ここ)は、交易のための階層として階級・職業・国籍、すべてを制限されることなく開かれている……というただの建前。 その実、街の奥深くは治安の悪い、隠れた貧民層を抱え込んだ淀んだ町。 そこでは、お金さえ払えばなんだって隠してくれる。 その筋の方々には、意味大変都合のいい場所なの。」


 ……は? ちょっと待って? なにそれ。


 言われている意味が飲み込めなくて、首をかしげて私は聞く。


「え? え、だってここ、まだ王都内だよね? しかもここ、大通りだよね? 王都守護の騎士様がたくさんいるはずじゃない。」


「……そう、ここは王都内だよ。 表向きはね。」


 これが、温暖で陽気な、花と歌と踊りの国イジェルラの闇の部分だと、彼女は言う。


「多分、ここの騎士は買収済なんでしょ。 ……イジェルラはね、1階層と、4階層から上は、王都騎士団の管轄なの。 それこそ、フィランが言う、陽気で温厚な花と歌を愛する美しい芸術の国。」


「え? じゃあ、2階層と3階層は?」


「……表向きは……イジェルラだよ。 花を歌を愛する美しい王都における最大の、自由で開かれた交易層。 けれど、大通り……ううん。 そうだね、中通りから一本でも路地に入れば、そこは汚職や不正、貧困……上の階層の膿や闇を、見て見ぬふりをするためにここに詰め込んだ……本当に醜い場所。」


 ため息を一つついたリンチェは、その溜息と一緒に吐き出す。


「それを変えたいと、ずっとあの人と語らっていたのに。」


「……へ?」


 あの人って?


 それを言う前に、馬車は突然大きく揺れた。


 座席のクッション性のお陰で、体をぶつけただけで済んだけれど、もうおしゃべりをしている余裕がないのかもしれないと、感じた。


「リーリ、悠長に話してる暇、なくなった感じかな? 外に出て応戦する!?」


「あら? フィランは()()()()を、誰だと思っているのかしら?」


 左手の、精霊たちとのつながりとなっている指輪をはめた腕輪を押さえながらリーリの顔を見ると、彼女は少し難しい顔をしながらも、いつもとは違う、()()()()()()貼り付けられた笑顔を浮かべた。


「いいかしら? そのように血気盛んでは、立派な淑女にはなれないわよ。 だからすこし、落ち着きなさいな。」


 そう言って、腕輪を押さえる私の手を、離すように、と、なでてくれる。


「仮にも私はこのイジェルラの筆頭公爵家の末の一人娘……王家以外では一番位の高い御令嬢なのよ? そんな身分のわたくしが自らの力を使って戦うなんて事、アカデミーの授業か、イジェルラ王家の貴人が目の前で襲われているとき以外ありえないことなのよ。 大丈夫、そろそろ来るわ。」


「なに、が?」


 聞くと、先ほどの笑顔のまま、赤みの強い新品の銅貨色の瞳を輝かせてリンチェは笑う。


「わたくしを守るための、最高の騎士たちが。」


 その、言葉とほぼ同時に、まるで雷が落ちたかのような、耳をつんざく大きな音と共に馬車が大きく縦揺れした。


 びりびりっと、木戸がつけられているにもかかわらず、ガラスの窓が震えるほどの轟音に吃驚している私と、平然としているリンチェをよそに、馬車はそのまま走行を止めた。


 そして時を開けず、コツコツコツ、と窓が3度、叩かれた後に低い、男性の声がした。


「お嬢様、ご無事でございますか?」


 その言葉に、私にしぃ、っと言ってから、静かに窓の方に身を寄せて、リンチェは尋ねる。


「大丈夫よ。 けれど少々運転が荒かったわね、髪が乱れてしまったわ。」


「申し訳ございません。」


「ふふ、冗談よ。 それで、首尾は?」


「全て終わりました。」


 そう、と口元をわずかに引き締めたリンチェは、外に解るように溜息をついた。


「公爵家の騎士ともあろうものが、少し時間がかかりすぎね。 全員捕縛できたかしら?」


「はっ。 襲撃犯の内、3人は()()力の加減を間違ってしまい殺してしまいましたが、残りは周りを固めていたもの含め、全て捕らえました。」


「そう。 馬鹿力だものね、貴方は。」


 一つ、呆れたような溜息をついたリンチェだが、わたしからは、髪に隠れてリンチェの表情を見る事が出来ない。


「御苦労様。 では、それらを連れて、一度、公爵家へ戻ります。」


「御意。」


 そこで会話を終え、ゆっくりと私の方を見たリンチェの目は、今まで私が見たこともない、色も感情もない冷たさを帯びていたが、此方を振り返った時にはいつものリンチェに戻っていた。


「あのね、フィラン。 申し訳ないんだけど、騎士団の厩舎に行く前に、もう少し付き合ってもらう必要が出来てしまったみたいなの。 ほら、この馬車が襲撃されてしまったでしょう? 王都騎士団の事情聴取を受ける必要があるの。 フィランも同乗していたから、証言が必要なの。 帰りが遅く成ってしまって申し訳ないのだけれど、お願いできるかしら。」


 え!? いやだなぁ! と思ったけれど、リンチェの笑顔は穏やかではあるものの、あの気持ち悪い笑顔のままで、有無を言わさない雰囲気を醸し出していて……なんとなく、心が底冷えして逆らえなかった。


「あ、うん、それは……しょうがない、ね?」


「えぇ、しょうがないの。 ごめんなさいね。」


 どこから取り出してきたのか、リンチェの手には扇があり、はらりとそれが開くと彼女の口元を覆った。


「巻き込んでしまって悪いけれど、よろしく……ね。」


「……う、うん。」


 貴族様的な、けれどとても優しい口調なのに、なぜか背筋が冷たくなる感覚を覚えながらもうなずいた私に、にっこりと、リンチェは目の笑っていない微笑みを浮かべた。







「おかえりなさいませ、お嬢様。」


 で、ですよ。


 そのまま乗っていた馬車が8階層にあるルクス公爵家に向かっていくものだから、私はそのまま(まぁ同意したけれど)連れて行かれたわけですよ。


 いつもの私ならただの通過点である、高位貴族の居住地である第八階層に。


 結構走るのかと思ったけれど、思ったほどの距離ではなかったようで、ほどなく馬車は止まり扉が開かれた。


 先に降りたリンチェの後を追うように、従者さんのエスコートで馬車を降りた私。 なんだけど、降りた瞬間、思わず絶句した。


「なっ! えぇ!?」


 馬車下りた先が、なんと屋内なのだ。 いわゆる家の中? ん? 違うのかな? 馬車ターミナルなのかな? いや、ちょっと待って、こんな大きな馬車が屋内に入っちゃうエントランスもっているルクス公爵家、おかしい。


「フィラン、こっちよ。」


 馬車が止まった先の、大きな扉の前に立つリンチェに声を掛けられて、あわててそちらに向かうと、扉の前に立つ騎士様がゆっくりとその扉を開けてくれて……そこには、フーシャ家とは比べ物にならないくらい広いエントランスと豪奢で上品な広い広間が広がっていた。


「「「「「おかえりなさいませ、お嬢様」」」」」


 フーシャ家よりも多い使用人さん達が全員、リンチェを心配するように声をかける中、彼女は私の手を引く。


「ただいま帰りました。 こちらはアカデミーの同級生のモルガン嬢よ。 わたくしとおなじ馬車に乗っていて巻き込んでしまっってね……事情聴取に付き合っていただくようにお願いしたの。 わたくしの、大切なお客様よ。 みんな、よろしくね。」


「えぇと、フィラン・モルガンです。 急な訪問で申し訳ありません。 よろしくお願いいたします。」


 頭の中で必死に『知識の泉』とシュミレーションした挨拶を口にし、すこしスカートを摘んで頭を下げた私に、実は先日お会いしている家令さんは、静かに微笑み頭を下げてくれた。


「初めてお目にかかります。 ルクス公爵家家令のカラルカと申します。 当家の諍いでご迷惑をおかけしました、お怪我はございませんでしょうか? モルガン嬢。」


「お心遣い、ありがとうございます。 大丈夫です。」


 なるほど、初対面を装うべきなのか、と察した私はそう返すと、彼は満足そうに笑った。


「それは何よりでございました。 お嬢様、宮廷医はすでに呼び寄せておりますので、まず診察をお受けください。 もちろん、モルガン嬢もでございます。 それが終わりましたら、第八階層守護騎士団長殿が事情聴取のためにサロンにておまちでございます。」


「あら、用意周到ですこと。」


 促されるように宮廷委がいるという部屋に足を進める私を時折確認しながら、リンチェはいつもとは違う、高位貴族のお嬢様の様に行動している。


 すっごい違和感、いや、こっちが本当なんだろうけど。


「お父様達はもう出立されたのかしら?」


「はい。 ですので、事情聴取には、ボルオネ様が立ち会われるためにすでにサロンでお待ちでございます。」


「そうね、今宵、王宮へ行かないのはボルオネお兄様だけですものね。 お待たせしているのなら、早く行かなきゃいけないわね。 フィラン、急ぎましょう?」


「え、うん。」


 そっと手を取り足を速めたリンチェに、私は連れて行かれたのだった。

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