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2-015)友達屋敷訪問の前準備

「ごきげんよう、皆様。」


「ごきげんよう。」


「ごきげんよう。」


 な~んて。


 優雅と言われる挨拶が、わたしの周囲、あたりかまわずいろんな方向から聞こえてくる、清々しい朝。


 昨日の師匠の発言通り、昨日はあのまま、魔術回路の基礎勉強を2時間、ポーション造りを3時間行った後、お泊りセットを取りに帰り、兄さまお手製の晩御飯(何ならおやつも)しっかりと食べ、私の部屋と用意されていた部屋でしっかり眠り、今朝は4人、顔つき合わせて、兄さまの美味しい朝ご飯を食べてから、イジェルラに向かう予定があるというアケロス様と一緒にイジェルラ入りをした。


 普段はラージュさんと同じく、チート魔法陣を使用し移動する師匠だけど、たまにはいいか、と私と一緒にコタローに跨りイジェルラ入りをしました。


 体力をがっつり奪われる、コタロウとミレハとシルフィードの高速移動の後なのに、けろっとしていた師匠は、私の頭をなでると、ふっと、魔法陣でどこかに消えてしまった。


 置いて行かれた私は、第一螺旋層の騎獣厩舎へコタローとミレハを預けると、シルフィードの風魔法を使って螺旋街を突破し、アカデミーの校門前で魔法を解除したところです、おはようございます!


「乱れをなおして……これで良し!」


 スカートの乱れを整えながら、校門へ向かって一歩、歩き出すと。


「相変わらず鮮やかな魔法の使い方だ、モルガン嬢。」


「っ! お、おはようございます、じゃなくて、ごきげんよう! オーウル教授。」


 背後から突然かかった声にびっくりしながら振り返り、なんちゃってカーテシーを披露しながら挨拶すると、目の前のあずき……じゃなかった、ボルドー色のローブを身に纏った、イケ枯れオジが! 立っておられるですよ!(語彙死亡)


 ギリシアの彫刻の様な彫りの深い顔立ちに、ロマンスグレーならぬロマンスオークの髪をオールバックにし、尾羽の様に一房だけ長い髪は、ローブと同じリボンでまとめている、外見年齢60代後半くらいのこのイケ枯れオジこそ!


 私のアカデミーの、いえ、イジェルラ国の最大の推し! 古占星魔術学のオーウル教授(230歳)!


 私の選択授業の先生です! 編入試験の時にお会いして、推しを見たいがために興味もない古占星魔術学を専攻しましたー!


 わたし、オタクの鏡―! でもあんまりにも熱心過ぎて、推しにしっかり認識されて、こうして名前まで呼ばれて、褒められてしまったので、オタクとして不甲斐ないですが、ご褒美だと思う事にします!


「おはよう、モルガン嬢。 熱心な君が珍しく授業を休んだので心配したのだが、担任のイトラ先生に聞いたよ。  家業の手伝いとは感心だ。 4日間の特別休暇、心地よくに過ごせたかね?」


 そうそう、オーウル先生は『心地よさ』を基準に聞いてくださる。 4日間の心地よさかぁ。


「半分は心地よさは最低でした。」


 4日間のうち、中2日間の苦行を思い出してしまって思い切り顔をしかめてしまうと、オーウル先生はそっと、背中を撫でてくださった。


「それは災難だったね。 何があったのか、聞いてもよいだろうか?」


「聞いてくださるんですか!?」


 お忙しい身でありながら、一生徒の私の愚痴を聞いてくださるの!? 何の神なの!?


 さぁどうぞ、と促されて先に校門をくぐったわたしは、そのやさしさに入学以来何度目かの、推しからの会心の一撃です!(正確には32回目)


 いいですか? レディファーストを素でやってくれる先生ですよ!? 神か!


 先ほども言いましたがロマンスオーク(茶色の混じった白髪!)に、この世界でも珍しい、金と青のオッドアイ! 最高! どこからどう見ても最高! そして猛禽類の! 大梟の! 鳥人! ガチ目にありがとう!


「1日目と4日目は薬草畑の手入れや、私の魔術の師匠との勉強だったので、とっても充実していました。 ですが2日目は会いたくもないお貴族様のお相手をさせられて、3日目は行きたくもない場所で会いたくもない人に面会させられたうえ、その方から大変に罵られたんです……もう、踏んだり蹴ったりです。」


 嘘はついていない! 2日目のルクス公爵との謁見と、3日目の元王子とゆる股令嬢との面会なんて、何の苦行だよ!


 ぶんっ! と拳を振ると、おやおや、とその手を優しくいなされる。


「それはそれは、随分と大変だったようだ。 お疲れ様だったね。 では、6時限目に会おう。 楽しみにしているよ。」


「はい。 聞いてくださってありがとうございました!」


 1年学舎と教務管理舎のあるエリア門に入ったところで、そう言って微笑んでくれたオーウル教授。


 そんな教授に頭を下げ、お礼を言った私は、1年学舎へ向かった私は、そのまま建物に入って教室に向かう。


「ごきげんよう、フィラン!」


「おはよう、ベゴラ。」


 席に着き、一人で本を読んでいたベゴラは、私の姿を見ると本を閉じて手を振ってくれた。


「リーリはまだ?」


 席に着き、鞄の中の荷物を机の中に移しながらそう聞くと、にこにこと微笑みながら頷く。


「えぇ、まだですわ。 ところでフィラン、今日の放課後、何か御用事はございまして?」


「ん~ん、何にもないよ?」


「では、先日のお約束のとおり、わたくしのおうちに遊びに来てくださいませんか?」


「え? それはこの格好でもいいの?」


 制服ですけど?


 ドレスアップしてからじゃないと駄目とかならぜひ断りたい、という気持ちで聞くと、ニコッと笑ったベゴラ。


「もちろんですわ。 だって、このまま我が家の馬車に乗って来てもらうんですもの。 ね? よろしいでしょう?」


「う、うん。 それなら……」


 許可とってみるね、と言おうとした時だった。


「私も仲間に入れて~!」


 教室に走って入ってくるなり、此方に駆け寄ってきたリーリは、ふんわりとベゴラに背後から抱き着いて、ニコニコごろごろと、笑いながら、何なら尻尾もぶん回してご機嫌の様子でそういった。


「……リーリ……?」


「なに?」


「いえ、何でもないです……。」


 いや、ほんと、君、公爵令嬢なんだよね? 何なら未来の王妃(実を取ったという点で言うなら、女王だ)だよね? 本当に信じられないんだけど!?


 と言いそうになって口を閉ざす。


「……それより、寄り道なんかしてもいいの? 忙しいんじゃない?」


「へ? なんで?」


「や、なんでって……。」


 一昨日聞いた話とかを総括して考えると、リーリはこんなところで遊んでる暇ないんじゃないの? 的な思いから、ついぽろっとそんな言葉を口にした私を、キョトンとした顔で見たリーリは、ややあってから、にぱっ! と笑った。


「忙しくないよ、()()ね。 だから今のうちに遊ぶんだよ~!」


 なんて可愛い顔で笑ったけれど、聞き逃さなかったからな!


 今は


 って何だよー! 怖いよぉ!!


「そ、そっかぁ~。 ほら、公爵令嬢だから、いろいろ忙しいのかと思ったんだ。 今は、社交シーズン? っていうやつなんでしょ?」


 みんなの雑談から聞きかじった情報を思い出し、そう聞いた私に、リーリは、ベゴラの背後から自分の席に移動すると、鞄の中身を机の中に入れながら私を見た。


「フィラン、よく知ってるね? そう、今は社交シーズン。 いろんなおうちや会場で、夜会やお茶会が開かれてるよ。 ちなみに今日は王宮晩餐会。 今回は少し特別で、ルフォート・フォーマからの国賓が来ているとかで、伯爵位以上の高位貴族の当主は配偶者、社交界デビュー後の令嬢令息は婚約者を伴って、全員出席なんだよ。」


 それは、こんなところで話してもいい話なんですか? て言うか、貴女の婚約者は第一王子なんだから、出なきゃいけないやつじゃないんですか? と思ったけれど、まだ公開されてない情報だった、と思ってそれを飲み込んだ。


「社交にお茶会、デビューしたら強制参加、とか、お貴族様って大変だね。」


 さも興味なさそうに答えたところで、あら、と、不思議そうな顔をしたのはベゴラだった。


「今日の王宮晩餐会は、伯爵以上の出席、なのですね?」


「うん、そうだよ? それがどうかしたの?」


 こてん、と首を傾げたリーリが、いつも横にいる従者のコンラさんを見た。


「今日、二人を呼んでもいいですか? と朝食の時に許可を取ろうと思ったんですけれど、お父様とお母様は、今日は朝から夜会の準備があるから忙しいと、食堂に来てくださらなかったのですわ。 でも王宮じゃないとすれば、一体どちらの夜会に参加されるのかしら?」


 ベゴラが困ったように首を傾げた。


「え? おうちの中が忙しくて、ご両親の許可がないんじゃ、今日は放課後、駄目なんじゃないの?」


「大丈夫でございますよ。 家令に確認し、許可を得ております。 ご安心くださいませ。」


 そうやって微笑んだのはコンラさんで、まぁそれなら、と納得して、私はリーリを見る。


「リーリは行っても大丈夫なの?」


「お父様もお母様も今日は朝から家に詰めているから、使いを出してみるよ。 多分大丈夫。 フィランは?」


「私は……」


 現在の第一保護者はその夜会に出るんですよ、何ならその注目の国賓。 だから忙しいはず。 というわけで、もう一人の保護者であり、このクラスの担任でもある兄さまの顔を思い出す。


 一限目は魔術基礎学で……たしか、2限目は選択科目の薬草学、これは兄さまが受け持ちの授業だから……。


「わたしも、お昼までには確認してみるね。 多分大丈夫、だと思う。」


「ふふ。 楽しみですわ。」


 にこっと笑った私たちの耳に予鈴の鐘、視界の片隅にあいた教室の扉と眼鏡姿の兄さまが入って来たのを確認して、私たちはちゃんと席に着いた。







「では、全員、就業10分前までは、自分のエリアへ向かい、研究対象の観察を行うこと。 何か質問があれば挙手して指導員を呼ぶように。 解散。」


 兄さまこと、イトラ先生の号令で、各々、自分に割り当てられたエリアへと散らばっていく生徒たち。


 私も実験用の白衣……の代わりの割烹着を身に着けて、バケツに今日植えたい苗と、畑道具をもって自分のエリアに向かう。


 で、着いておもむろに、手を上げた。


「先生、質問でーす。」


「……わかった。 今行く。」


 眼鏡を直しながらこちらにやってくる兄さま……イケメン! 眼鏡最高! 推し最高!


 いや、そうじゃなく。


 わたしは目の前の畑の前にしゃがむと、土を適当にほじくってから、バケツの中に入れていた苗を持つ。


「なにか質問ですか? モルガン嬢。」


 近寄ってきて私の隣にしゃがみこんだ兄さま……じゃないや、イトラ先生。


 横顔も、まじ最高にイケメン! 推しに話しかけちゃったよ、もう、幼馴染&教師生徒設定回収だよ、何なのよ、何の乙女ゲームなのよ! と脳内大フィーバーな思いを心に隠しつつ、しごく真剣な顔で質問する。


「先生、先日の授業で、トウナ草とプッシ草の申請を出したんですが、急遽と言いますか、先日私がフィールドワークで見つけた、ジャイアントダンデリオン亜種の苗も植えたいんです。 この畑の構造や地質的に、野生のジャイアントダンデリオン亜種を植えてもいいですか?」


「ここにジャイアントダンデリオンの亜種を?」


 手に持った苗を見せそう聞いた私に、不思議そうな顔をしたイトラ先生に、口パクで『話を聞いて!』と言ってみると、あぁ、と頷いて立ち上がる。


「君。 調べ物のためにモルガン嬢と準備室に行きます。 何かあったら呼んでください。」


「わかりました。」


「では、調べてみようか、モルガン嬢。」


 授業補助の助手の人にそう言い、私についてくるように言ったイトラ先生と一緒に向かったのは、薬草畑と温室の管理者が使用する管理等の準備室の奥にある資料室。


「探すのは『アカデミー温室設計図』だ。 フィランはそっちの棚を探してほしい。 ……で、なんだい?」


「『アカデミー温室設計図』……。 あ、そうそう。 帰りにお友達の家によってもいいですか? 18時の鐘までにはこっちを出ますので。」


「こっちの棚にはないな。 どこに行くんだい?」


「クラスメイトのベゴラ・フィーシャ子爵令嬢の家です。 こっちの棚もないですよ。」


「ベゴラ・フーシャ?」


「あ、あった。」


 手のひら一杯くらいの背表紙にその名前を見つけた私のそばに寄ってきた兄さまが、その分厚い本を引き抜き、共有テーブルに持っていく。


「ベゴラ・フーシャって、前回フィランを舞台を見に行こうと誘った子爵令嬢かい? 二人で?」


「そうです、そのベゴラ。 二人じゃなくってリーリ……あっ、えぇと、リンチェ・ルクス公爵令嬢も一緒です。」


 ピタッと手が止まった兄さま。


「ルクス公爵令嬢も?」


 珍しく眉間にしわが……。 そうだよね、今、私たちの案件に、がっつりかかわってるもんね。


「ほら、観劇断った時に、じゃあ家に招待されたと言ったじゃないですか。 あれのリベンジです。」


「あぁ、そう言えばそんな話もあったな。 なるほど……。 あぁ、このページだ。」


 分厚い表紙を開き、パラパラと前世で言う青色設計図みたいなものを広げながら、私達一年生が使用している温室の魔術回路展開図の写しのページを開く。


「ジャイアントダンデリオンの根が張るほどの深さがあればいいんだが……亜種だとそれ以上に根が張る可能性も考慮を……。」


 なんて言いながら、設計図の中の、私に割り当てられたエリアの断面図やら展開図を見つつ、兄さまは溜息をつく。


「友達が出来るのはいいことだけど、今日はヒュパム殿とルナークは王城にいるし……私は同じ時間まではアカデミーにいる。 さて、どうしたものか。」


「え? なにを心配してるんですか?」


 なんか心配されていることだけはわかって首をかしげると、兄さまは少し、困った顔をした。


「フィラン変なものや厄介なものを引っかけてくる天才だからね、また何かひっかけてくると困ると思ったんだよ。」


「うわ、失礼な! 好きでそんなことしてるわけじゃないですよ?」


 反論すれば、それはそうかもしれないんだけどね、と笑った兄さま。 なんか引っかかってます?


「今日はアケロス師匠もこっちに来てますし、大丈夫なのでは?」


「そうか、アケロスもイジェルラに来ていたな。 ラージュもこちらに来ているようだし、それならば……。」


 そっと、兄さまは、私のおろしている髪を耳にかけた。


「あれ? 髪の毛、邪魔でした?」


「……いや。 よし、いいよ。 行っておいで。 ただし、お茶をして帰ってくるのが約束。 それ以上は今回は駄目だぞ。 何かあった時にもホウレンソウだ。」


「よかった。」


 だめって言われそうな雰囲気だったから心配したけれど、許可出てよかったなぁと思っていると、ははっと笑った兄さま。


「それから、ジャイアントダンデリオン亜種も、畑的に大丈夫だから植えていいよ。 でもあまり大きくならないように、魔力量は控えて水をやりなさい。 それから、少しでも攻撃性や有害性を見せたら即、全部燃やす事。」


「わかりました、イトラ先生! ありがとうございました~! じゃあ、先に行きます。」


「うん。 これは私が片付けておくから丁寧に植えなさい。 それから放課後は、ほどほどに楽しんでおいで。」


 にこっと笑った兄さまに手を振りながら、準備室を出た私は、そのまま畑に向かって走り出した。

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