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2-009)北の要塞村 リスポラ

 そんなこんなで、私、1年ぶりにルフォート・フォーマの大地を力いっぱい! 踏みしめております、ヒャッフ―!



 ここは王都要塞・ルフォート・フォーマから普通の馬車で5日、海に面し(神の木から一番近い場所)なんなら西のルジューズ・ビート、東のタンアレスからももっとも遠い、最北の大地……? リスポラです。


 どうやってここまで翌日に来たか? それは師匠の『個人持ち魔法陣』ですよ、えぇ。 師匠怖い。


 しかし、過剰なほどに集落の周囲は、しっかりとした高い城壁で囲まれていて、唯一の出入り口となる門には、めちゃくちゃ屈強な騎士様が配置されています。


「ラージュさん、なんでここはこんなに守りが固いんですか?」


「ん? あぁ、フィランはリスポラは初めてか。」


 私の半歩前を歩くラージュさん。 今日は、ちょっと分厚い、漆黒に裾だけ銀糸の刺繍の入ったマントに身を纏い、金の髪のサイドだけ撫でつけて、長目の前髪を再度にアシンメトリーに流し整えた髪型です。


(か、……かっこいい、なんて、絶対に思わないんだからね!)


 って言いたくなる恰好で、しかも、さりげなく私の歩調に合わせてくれたりとかして、そう、この人、基本的に滅茶苦茶優しいんですよ! マジむかつく。


 へなちょこラージュさんの癖に!


「すみませんね、世間知らずで。 なんたって、私、いろんな事に巻き込まれてはいますが、リスポラどころか、ルフォート・フォーマの王都と、イジェルラの王都と、嘆きの洞窟、それからカーピスしか知らないんですよ。」


 と、お前らに巻き込まれたからだよ! という皮肉を織り込みつつも、そう言ってみる。


 が。


「そうか、そうだったな。」


 あははっと、悪かった悪かった、なんて笑い飛ばしやがったラージュさん。 やっぱムカつく。


 そんな彼が、門番の騎士様に声をかけると、一瞬、訝しげな顔をした騎士様。 すぐに目を輝かせると、めちゃくちゃ敬礼されて、どうぞどうぞ、中にお入りください! と入れてくれました。


 あれ? 顔パス? 腕輪のチェックは?


 あの人たち滅茶苦茶目を輝かせて見てるけど、大丈夫?


「入場時の腕輪のチェックは?」


 つんつん、と先を歩くラージュさんのマントを引っ張って尋ねると、振り返った彼は、呆れた顔をして私を見ましたよ。


「……あのな……俺だぞ?」


 そう言われて思い出す。


「あ、そっか。 ラージュさん、前・皇帝陛下でしたね。 そりゃ顔パスですよね。 よ、有名人!」


「お前は本当に……まぁいい。」


 はぁ~、と、ため息をついてポンポン、と私の頭をなでてくれたラージュさん。 その後をついて門をくぐれば、目の前に広がるのはごく普通の農村な街並み。


 王都の1階層(交易層)のように、遠くには農地や、広場、牛や羊みたいな生き物が囲われている場所があったりして、この塀の中だけで、すべての衣食住が整うようになっているようだ。


「なんて牧歌的な。」


「なんだそれは。」


 再び、ははっと笑ったラージュさんと一緒に大通りを歩く。


 道すがら、いろんな人とすれ違ったけれど、村の人は私達をすれ違いざまや、遠巻きにじろじろ見てくる。 誰一人声をかけてくることはないけど、探るような視線はちょっと痛い。


 目があえば、会釈したりはしてくれるけどね。 ちょぉっと居たたまれないなぁ。


「あの、めっちゃ見られてません?」


 つんつん、と、ラージュさんのマントを摘むと、彼はカラカラっと笑った。


「あぁ、まぁ気にするな。 このリスポラの村は、なかなか面倒な土地でな。 瘴気を発する森や沼が発生する事が多いし、小さい規模の魔物の強襲が頻発している。 その為、こうして高い塀で自衛をしているんだ。 そんな土地だからな。 村に来るのは魔物討伐の冒険者や特産物の取引業者だから、よそ者に対する警戒心は強いんだ。 あぁ、しかし、領主のアクアドール辺境伯がとても良い統治者でな。 辺境伯騎士団が、村の人間で組織された自警団にしっかりと自身たちでも戦い守る術を教えている。 おかげで、この地を自分たちで守り抜いてきたという自負と気概を持つ、誇り高き土地となった。 で、だ。 その自衛能力や土地の特徴から、外貨獲得のため、貴族の幽閉や軽犯罪者の強制労働先となっているんだ。 あぁ、冗談抜きで、そいつらはいい財源なんだぞ。」


「わぉ、逞しいですね。」


 感心するように話したラージュさん。 うん、じゃあ、私たちは幽閉貴族関連くらいにしか見えないし、警戒されて当たり前か、と納得した。


 まぁ、実際、私達派手だもんね、金髪二人だし。 認めたくないけどさ。


 不躾な視線に納得しながら、ラージュさんの後をついて歩くこと30分。 私たちは村の中ほどにある、女神の噴水公園と呼ばれる広場の、まさに女神の噴水の近くについた。


「さて、住所からするとあっちか?」


 スキルで街の中を見ているラージュさんに、私は指さす。


「あそこに騎士団の建物がありますよ? 聞いてきますか?」


「あぁ、そうだな。」


 二人でそこに向かおうとした時、目の前にある辺境騎士団駐屯地から出て来た、青銅色の鎧を着た、茶色の髪に青い瞳の大柄の初老の騎士様が私たちを見て目をひん剥き、三度見位してから、慌ててこちらに走ってきた。


「陛下!」


「もう違うからな?」


 そう呼ばれてスライディング土下座ならぬ、スライディング最敬礼をする騎士様に、すかさず突っ込みを入れるラージュさん、何だけど。


「いえ、我ら辺境騎士とって、陛下は今も、我らの忠誠を捧げる暁でございます!」


 全力の言葉でラージュさんを褒め倒す騎士様。 なんだけど。


 騎士様、騎士様。 広場で騎士の最敬礼をすると、ものすご~く目立つので、本当にやめてもらえませんか!? と思って周りを見ると……やっぱり遠巻きに滅茶苦茶ひそひそされています! いやぁぁ~!


 プチパニックになっている私をよそに、にこやかに挨拶が終わった二人。


「それで陛下。 本日は随分と可愛らしい令嬢とご一緒のようですが、この辺境の地までお越しの御用向き、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 立ち上がった騎士様が、私ににこっと笑ってくださったので、私もにこっと笑い返したら……あれ? 騎士様、赤くなっちゃった。 ごめんなさい。


「こら、簡単に人を誑し込むな。 すまんが、これはカササギが、イチイの巣で守っている卵だから、手を出すなと、皆にも言っておいてくれ。」


 それが何を示すのかはよくわからないけど、カササギは師匠でしょ? イチイは兄様かな? で、何よ、その言い方、と思って騎士様を見ると、とんでもないことを聞いた、みたいな顔してる。


「……それはっ……そうですか。 皆にしっかりと言い含めておきます。」


 て、納得しちゃったよ。 なんでよ。


 むっとした顔をすると、笑いながら私の頭をなでるラージュさん。 そのまま騎士様に今日の要件をさらっと告げた。


「すまんな。 それでは教えてほしいんだが。 ここ半年の間で、南から元王族と貴族の女が流れてついたと聞いている。 それを見に来た。」


「あれ、ですか……。」


 とたんに、ものすごく嫌なお顔になられた騎士様。


「あれらは、最北の城壁にほど近い、貴族の幽閉区域の最奥の屋敷におります。 ……しかし、あれらにお会いになる事はお勧めしません。」


「何かあるのか?」


 ひどく躊躇する騎士様にラージュさんが問えば、深い溜息と共に、騎士様は額を押さえた。


「いえ、元王族の方は、心を病んでしまっているので、会話にはならないかもしれませんが、お会いになるのには問題ありません。 しかし、女の方は……。」


 言い淀まれた騎士様に、私はひょっこり顔を出して心当たりを訪ねた。


「もしかしてですけど、騎士様何人か、誑し込まれました?」


 それに驚いた顔をした騎士様。 ラージュさんの顔を見て、何か納得したのか私にため息交じりにこたえてくれた。


「身内の恥をさらすことで、非常に不甲斐ないことですが……おっしゃる通り……配膳係を命じた、入隊したばかりの若い騎士が4人ほど。」


 言いながら、額に噴き出しだした汗。


 あぁ、苦労してるんだな、と感じた私は騎士様に、コルトサニア印のハンドタオルを貸して差し上げると、恐縮しながら汗を拭っていく。


 しかし……4人かぁ、と考える。


 えっと、私が編入して3か月でしょ? 入学式はその1か月前って聞いてるけど、処分ってどれくらいで決まるのかな? でもまぁ、ざっと換算して……。


「あの、4か月で4人って、すご~く引っ掛かりすぎじゃありませんか?」


「お、お恥ずかしい限りです。」


 私の突込みに、それ、搾れるんじゃないかな? ってくらい流れる汗を拭き拭きしている騎士様。


 しかもよく聞けば、この二人が幽閉されているのは同じ塔の上層階のおんなじ部屋で、経費は元王子の私財を切り崩してながら、幽閉されているとか。


 入学式という晴れの場で、婚約破棄という壮大な裏切りをぶちかまされたリーリが、『そんなに運命が大事なのなら、さっさとご成婚なさいませ。 どうぞお幸せに。』って、その場で書類を書かせたとか何とか。 で、入学式後、王族と王家派の貴族が何とかしようと奔走しようとしたけど、この二人を除籍して婚姻させたうえで幽閉するしか道はなかったらしい。


 入学式なんかで、そんな派手な立ち回りやるからだよね。


 同じ部屋にいるのにも関わらず、他の男を誘惑するような女と一緒にいりゃ、そりゃ王子様は心ぶっ壊れるし、騎士様は会うのを進めないよね。


 っていうか、リーリ、さりげなく何いい仕事してんの? お前の印象変わったからな?


 超頭痛いんだけど、と額を押さえて唸った私に、ラージュさんは笑う。


「状況はよくわかった。 しかしこちらも仕事だから会いに行くしかないんだ。 あぁ、護衛はいらない。 俺とこいつで見に行くから、住処に案内してくれ。」


「……かしこまりました。 では。」


 頭を下げた騎士様の先導で、わたしたちはその塔にと、向かって

お読みいただきありがとうございます

ブックマーク登録、評価、本当にありがたいです。


また、誤字脱字・誤用等の報告、ありがとうございます

のろのろ更新ではございますが、楽しんでいただけると幸いです。

次こそ! 出てきます。


(季節の変わり目ですので、皆様、お体ご自愛くださいませ)

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