2-000)私の回想と、南の国『イジェルラ』
こんにちは!
私の名前はフィラン・モルガンです!
愛くるしい大きな紫色の瞳に、ハニーブロンドのふわふわの波打つ髪がとっても可愛らしい15歳の錬金薬師で、大きな大陸を東西南北に4つに分けた国の一つ、南の『イジェルラ公国』に住んでます。
そんな絶世とは言わないまでも可愛い私ですが。
じ・つ・はっ!
いま地球の日本で大流行の異世界転生をした姿なんです!
もとはバツイチアラフォー社畜の推しと猫と本と美味しいお茶をこよなく愛する孤独なオタクだったわけですが、何の因果かこんなに愛くるしい姿で第二の人生楽しんでます。
ちなみにこの世界『プラタチスーナ』は神様曰く『大きな水で満たされた真四角の箱の中に、世界樹の木が真ん中に生える大きな大陸が一つと小さな島国』で出来ているそうです。
真ん丸に作るのはいろいろだるいって言ってました……おい、神様そんな理由で世界造りを投げるななんて思ってないですよ。
で、この世界。 実は異世界転生者が結構いるらしいんですけど、それには二種類あるんです。
一つは、地球で人生を終え、赤ちゃんとしてこちらの親から生まれた転生者。
この場合は、何かの事故か病気で生死をさまよったあと、生還したときに前世を思い出す形の『イセカイテンセイ』という病気扱いになっている、しかも前世の記憶=家繁栄で、歓迎されるようだ。
それが幸せかどうかは、私はわからないけれど。
それからもう一つ。
人生の途中で何かしらの理由? で突然神様にこちらへ連れてこられ、神様パワーで、新しい肉体をもらって新しい世界へ(物理的に)落ちちゃった♪ っていう形の異世界転生者。この場合は『空から落ちてきた種族=空来種』と言う種類になる。
ちなみに私は完全なる後者。
そんな空来種の私は、北の大国『ルフォート・フォーマ』に落ちたんですが、その先で何故か王様に可愛がられ? て精霊と仲良くなって事件起こし、私の監視としてイケメン侯爵な昼行燈の兄さまを送り込まれて、かっこいいオネエ伯爵商会会長と仲良くなって、学校に入って友達が出来たらその友達がことごとく闇落ちして、なんやかんやあったけど、最終的にそのまま世界を救っちゃって、そのおかげでルフォートフォーマには(有名になりすぎて)住めないので、王様が王様をやめて作った南の大国イジェルラのはずれの隠れ里に心機一転、引っ越しました。
以上、自己紹介とここまでのあらすじおしまい!
これからもよろしくね!(てへぺろっ)
……。
……はぁ、なれないテンション、本当に疲れた。
現在、私が住んでいるのは南の大国「イジェルラ」。
その王都『螺旋都市イジェルラ』からは結構はなれた迷いの森の中の隠れ里だ。
この国の王様はとても美しい透けるような大きな月下美人の花の頭をした花樹人の王・エピフィオルム様で、その初めての国民への言葉は『すべてを愛せよ』という穏やかな方。
間違っても、暇だからアカデミーに行きたいとかする人ではないらしい。
そんなイジェルラは一年通して温暖な気候で農耕や畜産、染色や織物などの工芸や歌、踊りなどの芸能が盛んで国民のイメージはとっても穏やかで陽気。
いうなれば……陽キャ?
そうね! 陽キャの塊!
いや、塊は言いすぎだな、国民の8割は陽キャかな?
王都には楽団や流れの雑技団や芝居小屋も多く来ているみたい。
今この国での一番の人気演目は『花と鳥の純愛歌』というどこかの国をモデルにした舞台らしいのだが……。
「フィラン、フィラン! フィ~ラ~ン~! ――キャーッ!」
王都イジェルラの中心部にあるアカデミーの敷地内にそびえたつ医療系の管理棟の三階廊下で、てくてく歩いていた私に後ろからそんな風に名前を連呼して飛びついてきた陽キャ!
背後からの飛びつきは危険っ! と咄嗟によけると、陽キャはそのままの勢いで廊下を思い切りスライディング。
「ひどい! よけるなんてひどいよ、フィラン!」
「後ろから飛びつく方がよっぽどひどいからね? 私の首とか腰がグキッといったらどうしてくれるの? 後、山猫族ならちゃんと着地したほうがいいと思うよ、リーリ。」
思い切り顔面から滑りこみ、それを私のせいにしたのは、アカデミーに編入して初めてできたお友達の獣人。
キュートなお耳と尻尾、ちょっと吊り上がったカッパーカラーのアーモンドアイのきりっと美人さん、リンチェ・ルクス。
周りのひそひそから想像すれば、彼女は一応貴族様らしいのだが「公平公正を許された学園なんだもの! 爵位なんか関係ないでしょ!」と教えてくれません。
この野郎、こちとらその爵位とやらで養子に脅されたり、養女に入ったり、後継者とか後見人とか苦労したんだよ!
とはいえず、あぁそうですか~と前世のチベスナ的な目をしてさらっと流したら気に入られてしまったという経緯で出来た友達だ。
そしてもう一人。
「フィランも、リーリも、今日も元気ですわね。」
「ベゴラ! きいてぇ~、フィランがひどいのよぉ。」
「いえ、私は無罪です。」
声をかけてくれた少女に抱き着き泣きついたリーリと、忖度しない、私は無罪っ! とはっきり言える元ジャバニーズの私。
「そうですわねぇ、一部始終見ていましたが、獣人が人族のフィランに勢いよくぶつかられたら怪我をしてしまうから、リーリが悪いですわね。」
「そぉんなぁ~。」
「勝った―!」
そんな私たちを優しく見守りながら、お淑やかにクスクスと口元にやった握り手があざと可愛いっていうか、真っ白なベゴニアの髪に、美しい夏の太陽のような黄色い瞳の超絶美少女、ベゴラ・フーシャの判決に、リンチェはさらにベゴラに抱き着き、私はその場で大きくガッツポーズをした。
「それよりも、フィラン、リーリ。 先日のお話、考えてくれた?」
「先日の話?」
「なんだっけ?」
ベゴラの問いかけに顔を見合わせて首を傾げた私達に、ベゴラはもう! と頬を膨らませた。
「一緒に観劇に行きましょうって、お願いしましたでしょう?」
「……観劇……あぁ、あのロングランの。」
「えぇ、花と鳥の純恋歌ですわ。 どうしても見てみたいんですけれど、両親は忙しくてお願いできませんし、わたくし一人だと行きにくくて。 チケット代はおごりますからお願いですわ。」
ぽんっと手を合わせて、お願い、と小首をかしげる可愛らしさ、最高、神様ありがとう、ビオラネッタ様以来の可愛い系美少女造形です、最高!
「あたしは恋愛もの興味ないんだよねぇ……雑技団なら行きたいかも!」
「もう、そんなことおっしゃって。 リーリは玉の輿を狙っているんでしょう? 舞台からいいアプローチ方法の勉強になりますわよ? それに、いまの流行も、わかりますわよ?」
「行く!」
きらっと、物理的にきれいに目を真ん丸にしてキラキラ輝かせながらベゴラの手を握ったリーリ。
「もちろんフィランも行くよね!」
何なの、そのキラキラ期待しまくった眼は……。
はぁ、っとため息をついて、私は頷いた。
「……いいけど、夜は駄目だからお昼の部にしてね。 あと、家族に許可もらわなきゃだから、今日も無理です。」
「もちろんですわ! では、明後日の半日の日はどうですか? チケットとっておきますわね。」
「うん、わかった。」
「よぉし! 玉の輿に乗るためのテクニック、絶対に学ぶ!」
すごくうれしそうに、いつの間にか傍に現れた従者の方にチケットの手配をするベゴラと、思いっきり背後に執念の炎を背負ってる感じがする大山猫だけに肉食系女子のリンチェ。
こっちの国はみんな、ノリがすごい。
中の人がアラフォーのヲタク社畜の陰キャにはなかなかきつい試練でござるよ……と、心の中で合掌しながら私は二人を見てへらっと笑ってどうやって過保護な保護者に許可もらおうかなぁとわたしは考えましたとさ。