表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/163

1-010) 神様は約束を守ってくれました。

 さて皆様。


 ここで一つ問題です。


 この目の前にいる私の背丈ほどある大きな猫っぽい生き物は一体何なんでしょうか。


『にゃぁ~ん。』


 自分の体を足に擦り付けてくる愛情表現であるグルーミングで、無条件な可愛いを体現し、人間を魅了するこのしぐさ!


 猫!


 猫!


 お猫様!


 うむ、まごうことなきお猫様です、ものすっごいでかいけど。


「待て、待て、待って、こける……」


 体ごとすり~んと擦り付けられて、もっふもふの天然極上ファーの肌触りを全身で受け止めてよろめきながら、もう一度その猫の顔を覗き込む。


 ……覗き込む?


 いや、無理、でかい。


 床に置かれた紙袋から転がり出た赤い果実を、ころころ転がしている巨大猫っぽいものに近づく。


「ごめん、こっち向いて~! すわって~!」


 あんまりにも大きくて、まず基本的に顔の位置が高い。


 お願いを聞いてくれて座ってくれたけど、座ってもらっても私よりもでかかった。


 近づいてみると、やっぱり顔をすりっとこすりつけてくる。


 う~ん、でかい。なんでこんなことになってるんだっけ?







 基本料金無料・予算外の追加家賃もゼロの誘惑に負けて家の中に木が生えている難あり物件を借ります! と勢いで言ってしまい、そのまま腕輪を使っての家の鍵の魔方陣を書き換えしてもらった。


 か~ら~の! ギルドまで逆戻りをして正式な賃貸契約。


 ついでに同じ建物の中にある薬師部で城下での薬屋の開店手続きをしてもらった。


 ここまで順調にこなし、意気揚々と一度新居に戻って一息つこうかなぁと思ったら、その前に銀行部で一時金を一部預けましょうと言われたため、兎ギルド員さんとギルド内の銀行へ向かった。


 なんと、住民として登録されたのと同時に、銀行には個人口座が開設され、さらに便利なのは銀行は世界に一つだけ、他国に行っても預入や出金ができるそうです。


 前世のように自分の銀行探しをしなくていいのがすごく便利!


 ちなみに、この世界は『いつでもにこにこ現金払い』のみ。


 食品生活雑貨(ちいさなもの)から|住居店舗宝飾品や土地買い取り《おおきなもの》まで、ツケとか借金、ローン等は存在しないそうですが、肩から下げたお金は大変重かったので、とりあえず銀貨三枚分のお金だけ手元に残し、一度銀行口座に全部預けた。


 物乞いや巾着切りスリ・ごうとう・カツアゲにあったら笑えないもんね……こんな大金。


 しかし、この世界の貨幣が結構かさばる。


 隠しようもないし、じゃらじゃら音がするし、何よりくそ重い。


 紙の金はないのか? と聞いたら、紙自体が高価なことと、偽造防止、ということだった。


 納得はできるけど、重さも不便さもかなり厳しい、元の世界はもう現金持ち歩かないでもよいくらいだから小銭ジャラジャラは辛い。


 なもんでつい、


「腕輪がギルド証になったり、おうちの鍵になったり、身分証になるんなら、腕輪かざしたら銀行からお店に直接支払いされるようになりませんかねぇ……」


 なんて一言愚痴った。


 キャッシュレス決済ってやつだよね。


 しかしこれがまずかった。


 兎のギルド員と、対応してくれた栗鼠の銀行員さんが『何ですか、それ! そんな機能つけたらクソ重い金を持って歩くこともないし強盗もできないし、完璧じゃないですか!』と、目から鱗状態みたいに大きく見開いた目を輝かせた。


 目は口程に物を言うを体現してた。


 そしてそれを見た瞬間、ものすごく嫌な予感がした。


 私の中のわずかな危機回避能力が仕事をしたんだと思う。


「……え、えへ。 まぁそんな便利な機能無理ですよね。 じゃあ手続き終わったみたいなんで、お買い物もあるし、失礼しま~……」


 まずい、と、その場を立ち去るために椅子から立ち上がったところ。


 がシッ!!!


「詳しいお話伺ってもいいですか!?」


 捕まった。


 あの時は絶対拒否権を発動しておくべきだったと思うよ、私。


 そこからはえらい騒ぎだった。


 銀行部門の偉い方、王城から呼ばれた魔術師の方や、ギルド内の技術科の方々……獣人とか、金の木みたいな葉っぱの髪をはやしている男の人たちが一斉にやって来て、私は囲まれる形になった。


 一般のお客さんのいる待合室ではあんまりにもうるさかったのだろう。


 まぁまぁ、ちゃんと話を詰めてください、とそのままギルドの中の会議室に厄介払……もとい、連れていかれ、大きな会議テーブルにいろんな人が座る中、お菓子とお茶の用意されたお誕生席に座らされた私は、多方向からやってくる質問に目を白黒させた。


 オタクの会議ってこんな感じなんだろうなって、意識が遠くなったよ……みんな、その分野が好きすぎて異世界初心者にはついていけません……。


 そんな状況を見かねた兎のギルド員さんが一手に質問をまとめてくれて、私の簡単な説明から設計図を書き始め、さらにあれやこれや聞かれ、皆さんが設計図を真ん中に激論を交わすのを見せられ、たまに意見を求められたり質問を返したり。


 どれくらい時間がたったんだろう、って気が遠くなり始めたころに、設計図を掲げて大人たちが歓声を上げた。


 あ、終わったんですね、おめでとうございます……。


「いやー! ありがとうございます! すごくいい案でしたので、これからすぐに上司に通して王から許可もらって、近いうちに絶対! この機能追加しますね! うれしいなぁ! 頭痛かった犯罪も減るし、便利だし、重くないし、久しぶりの腕輪のアップデートに携われたし! フィランちゃん、本当にありがとう!」


 今日は魔法陣つくりに徹夜だ!腕が鳴るぜ!


 とか


 これで重い金持って飲みに行かなくてもいいぜ!


 とか


 窓口の金勘定の仕事が減るぜ、ラッキー!


 とか……


 そんな言葉も聞こえてた気もするけど……気にしない。


 銀行部と技術部の人たちに両手を取られて上下にぶんぶん振り回されて、恥ずかしくなるくらいの感謝をたくさん言われた上、試作品ですとか、粗品です、とか、お土産ですとかいろんなものを押し付けられた上、でかいクマみたいな(耳があったわ)技術開発の人に


「荷物が多くなったのでおうちまでゲート開きますね。 あ、これはまだ市場に出てない研究開発中の、口外したら首チョン案件の技術なのでみんなには絶対に内緒ですよ~。 腕輪の支払い機能の許可が下りたら正式に技術報奨金が出ますのでお知らせしますね!」


 と、オタクの早口のようにまくしたてられて全部を聞き終わる前にゲートが起動したみたいで、気が付いたら大量の荷物と共に家にいました。


 ……家?


 いや、ありがたい、ここまで荷物と共に送ってもらえたのは本当にありがたいんだけど……


 あたりを見回せば、もうお日様落ちてて暗くなり始めていた。


「今晩のお布団……どうしよう……。」


 ギルド員さん達、みんな耳飾り付きだったのに、私が異世界初日でこれから生活雑貨買いに行くって知ってたのに、夕方まで拘束したの、絶対に許さない。


 さすがに異世界初日、日の落ちた街中を一人で歩く勇気はない。


 また来てね~って言ってくれたけど、また捕まったら嫌だから、生活費おろしに行くか、報奨金くれるときまで絶対にいかない。


「もらったものの中に、食べるものと寝るとき使えるものがあるといいな……」


 とまぁ、私の周りにある重たい荷物を運び込むために扉を開けたのだ。


「ただいま~……あ?」


 扉を開けたら……毛玉があった。


「ひぃあ!!」


 なにこれ! なにこれ! なに!?


 一瞬退いて遠巻きにみていると、それは顔を上げて大きくあくびし、私に気づいた。


「ちょ! ちょっとまって! おいしくない! 私、美味しくない!!」


 転生した初日に食べられて死んだら楽しめません!


 逃げなきゃと思っても足は動かない。


 何より私の後ろには紙袋に入ったお土産が、本当に山になってて逃げ道がない!


 あぁ、足音も立てずに近づいてくる!


 ふっさふさのしっぽが、ぴーんとたってる!


 ふおー! ご機嫌さんですかー! そうですかー。 そんなにおいしそうに見えますかーっ!?


 お目目が真ん丸になってますよ、かわいいですねー!


 でも私は獲物じゃないですよー!


 神様―!


 ラージュ陛下でもいいです、助けて―!


 と、おもったら首元から体じゅうをぐわ~~ん!と擦りつけられまくって。






 はい、ここまでの回想終わり。


 思い出せてよかった。


 その続きが今の状況です、思い出しました。


 この家の内見をした時に最初に見たふわふわの正体はこれだよなぁって考えながらこの子の周りを一周回ってみる。


 長毛で……縞三毛猫、毛は極上のふわふわ。 超でかい! まろ眉毛っぽい柄もあって、目は濃い目の金! 肉球…は見れない。


 尻尾はもっふもふで狸みたいだけど、触ったらわかる、ほんの少し鈎しっぽ。


『いぃにゃっ!』


 あんまりにもいいもふもふふわふわに、出来心でギュッと抱きついたら鳴かれた。


 なるほど、この子は尻尾が触られるのはノーセンキュウ系三毛猫……。


 既視感があるなぁ……。


 何だろうなぁ……。


 こんな風にやわらかで、暖かくって、心がつらいときにもずっと傍にいてくれて、甘えん坊で、体を擦り付けてくるの大好きで……


 小さくて、ふわふわで。


 はっとして、名前を呼んだ。


「……コタロウ?」


『にゃ~ん』


「うわぁぁああん! コタロウだぁぁ!」


 名前を呼べば、その子は嬉しそうに目をほそめ、私の掌にやっていたみたいに体を擦り付けてきて、のどをゴロゴロ鳴らしながら一つ、可愛い声で鳴いてくれたのだ。


 神様、約束を守ってくれてありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ