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1-090)素材採集演習と、聖女様と、萌えポイント

「アカデミー1年生特別演習第1班、班長のアルフレッド・サンキエス・モルガン様。班員はソロビー・フィラン様、マーカス・ヴァレリィ伯爵令息様、ビオラネッタ・ガトランマサザー様ですね。」


「はい。」


 嘆きの洞窟の、あの()()()()()()()にあたる入り口でアカデミー生の入場確認をする騎士様に腕輪をチェックしていただいた私たちは、全員の名前を呼ばれた。


 今回はアカデミーの1年生100人弱プラス引率の教師たちで、総勢120名弱が一度にチェックを受ける必要があるため、王都の騎士団駐屯地の騎士様がその作業に派遣されている。


 事前に兄さまに聞いた話だと、高位貴族や要人の子供、要人本人も多くいることから、保全用員を兼任しての派遣という事だ。大変ですね、騎士様。


 ちなみになぜ100名で入学した生徒が100人弱になっているかと言うと、すでに数人退学した方がいるとかいないとか……師匠がちょっと悪い顔して言ってたけど……ま、どうでもいいけど。


「ソロビー・フィラン嬢。 聞いていますか?」


「はい! ごめんなさい!」


 ボケッといろいろ考えていると、騎士様に名前を呼ばれて頭を下げる。


「では説明をします。 事前に演習要請があったため洞窟内は騎士団によって15階まで保全確認済ではありますが、王都外フィールドとなりますので絶対の安全はありません。 もし強襲クエストが発生しましたら、ヴァレリィ伯爵令息様、フィラン様は冒険者ランクAですので、保全用員となっている騎士の指示に従って支援をしていただきたくお願いいたします。 モルガン様は保全騎士に従い最短ゲートからの退避をお願いします。」


「「「わかりました。」」」


 私達3人が答えた後で、騎士様は金貨くらいの大きさの真っ白な石の埋め込まれたペンダントを「失礼します」と言いながら、ビオラネッタ様の首にかけた。


「ガトランマサザー公爵令嬢様は強襲クエスト発生時、聖騎士がお助けに参りますので、その指示にお従いください。 保護されて以降は教会の指示に従った行動をお願いいたします。」


「かしこまりました。」


 ペンダントを握りしめて、恭しく正式な礼を取ったビオラネッタ様。


 聖騎士様? 保護? 教会?


 聞きなれない言葉に首をかしげていると、マーカス様がびっくりした顔をしている。


「フィラン、もしかしてビオラネッタ嬢が教会所属の聖女だって知らないのか?」


「聖女?」


 ちょっと初めて聞いた単語が出て来たよ。知識の泉、久々に検索!


 の前に、フィランは本当に仕方がないなぁとマーカス様が教えてくれた。


 曰く。


「ビオラネッタ嬢は土・水属性なんだが、癒しと防衛加護の力が特に強くて、教会から聖女として正式に認定されてるんだ。」


「そんなに特別なものではないのですよ? 王都を出るとき以外は忘れているくらいの事です。」


 聖騎士様からのチェックが終わったらしく、話しに入ってきたビオラネッタ様。


 いや、聖女って聖女でしょ? 忘れるようなもんなの?


 と心の中でつい突っ込みを入れる。


 そして、この世界って本当に剣と魔法の設定てんこ盛りな世界だなぁと思う。


 異世界転生ラノベで、そういう聖女様的なお姫様とか庶民の娘とか出てくるからいるのかなぁくらいに思ってたけど、実際に会うとびっくりしちゃうよね。


「聖女様ってこう、神にも近いようなイメージなんですけど、普通にアカデミー通ったり、演習に出たりしていいんですか?」


 とりあえずビオラネッタ様に直接聖女に対するイメージ的な事を聞いてみると、なぜそんなことを? とこちらが不安なくらい普通に反応されてしまった。


「聖女はスキルの一つですわ。 ですからフィラン様が考えるような大層なものではありません。 魔力の多い貴族子女で、回復や加護防衛魔法が使えれば教会は認定してくれますもの。」


「それだけ?」


「えぇ、普段はそれだけです。 聖女と認定されると強襲クエストや有事の際には、ポーションでは治せない呪いを伴う傷や毒などを治すという救護活動をしますが、それがない限りは特に何も制約も制限もありません。」


「は~、そうなんですね。」


 思ったほど崇め奉られたりする感じじゃないのか。


 ちょっとほっとしていると、いやいや、聖女はありがたいんだぞ、と訂正したのはマーカス様。


「解呪をしながら回復もするなんてことができるのは聖女だけだ。 フィールド上には呪いを伴う攻撃を仕掛けてくる魔物も魔人も多いし、戦では呪いを伴う攻撃が必ず使われる。 それは戦力を削ぐのに有効だからだ。 比例してそれを解くことのできる聖女は高確率で狙われるし、人身売買だってある。 だから誘拐・暗殺集団から聖女や聖職者を優先的に守る聖騎士団が存在するんだ。」


「おおぉぉ、納得です。」


 戦争や誘拐・暗殺なんてマジ怖い……。


 滅茶苦茶びっくりした。


 確かに、言われてみれば解呪を伴うポーションってないもんなぁ、と自分の頭の中のポーションの目録を思い返して納得した。


 解呪かぁ。呪いを軽減できるような効能を持った薬草ってあったかな? 作れるといいよね。帰ったら師匠に研究相談してみよう。


 そうすれば聖女様を危険に晒すことないもんね。 うん、それがいい!


「みんな、入場許可が出たみたいだよ。」


 考え込んでいたら、アル君が私たちに声をかけてくれた。


「あ、そうですわ。 皆様、もしよろしければ入場前にこれを。」


 ビオラネッタ様の手の中にあったのは、4本の細く長い組みひも。


 わずかに光を放ちながらゆらりゆらりと色をかえる手のひら位の大きさの乳白色の石がぶら下がっている。たぶん腰につけるタイプのものだ。


「今日は制服ではなく個人の装備ですし、ダンジョンの中はうす暗いと聞いたので。 この石はわずかですが自身が光るのです。 なので、お互いの居場所が容易に分かるのではないかと。 あとは、皆様のご無事を祈りを込めて作った飾り紐なんです。 ご迷惑でなければもらっていただけませんか?」


 公爵令嬢で聖女様のビオラネッタ様が自ら!?


 そんな大層な物、もらってもいいのかな!?


 躊躇した私の横から、にゅっと長い手がその飾り紐をつかんだ。


「聖女の力のこもった宝飾は、騎士として名誉で心強い。 もちろん、ありがたく使わせていただく。」


 そう言って頭を下げたマーカス様に習って、わたし達もそれを受け取った。


「ありがとうございます、ビオラネッタ様。めちゃくちゃ大切にしますね!」


「ありがたく頂戴します。」


「よかった……みんなを守ってくれますように。」


 4人お揃いで腰に装着すると、嬉しそうに笑ったビオラネッタ様。


 ダンジョン内で装着するには飾り石がすこし大きく重すぎるのではないかと思ったけれど、つけてみればそれを感じず、羽のように軽かった。


 彼女の言うとおり、今日は制服ではない。


 モーガン様は銀色の軽装鎧を装備しているし、私は以前にこのダンジョンに入った時と同じ格好、ビオラネッタ様は真っ白のローブに中は柔らかな白いワンピースにブーツとみんな普段とは違う格好をしているから、こういう()()()()()()()はいいかもしれない。


 しかしそれにしても。


「アル君、今日は変わった格好だね。」


「師匠が演習用に用意してくれたんだけど……変かな?」


「ううん、とっても似合ってる。」


 ルフォート・フォーマでは見たことのない形式の、柔らかそうな服にパンツとブーツ、その上からハーフローブを羽織ったアル君は、ちょっといつもの優等生イメージがさらに際立って……うん、気品っていうのかな?


 異国情緒があって格好いい。


「そういえば師匠からのプレゼント、つけてる?」


「うん。」


 もぞもぞと服の中から出したのは、銀の台座には見たことのない紋章が彫り込まれ、大きな青い石が嵌め込まれた指輪。


 指につけずに革ひもで首からぶら下げたのは、そうして演習の時に付けておくように、とメモが入っていたから。


「綺麗なんだけど、これなぁに?」


「さぁ、僕も渡してとしか言われなかったからただの師匠の気まぐれだと思うけど。 フィランの迷惑じゃなかったら付けててくれる?」


「迷惑なんて。 嬉しかったよ?」


「そう、よかった。」


「よーし、じゃあ行こうか。」


 にこっと笑いあったところでマーカス様に声を掛けられ、彼を先頭に、ビオラネッタ様と私が真ん中、後方にアル様という感じで私たちは嘆きの洞窟第一階層へと入っていった。







「じゃあ、計画通り高ポイントのアイテム出現地点のある8階層まで一気に行こう。 その途中に突発出現する高ポイント薬草や鉱石を見つけたら声をかけてくれ。 薬草に関してはフィランが頼りだ。 魔物は俺に任せてくれ。」


「魔法鉱石はアル君よろしくね。」


「では、支援しますね。」


 おや? 私達のパーティってなかなかいい力配分なのでは? と思いながら、1階層からあっちこっちと素材回収をしていく同級生に見向きもせず、高ポイント素材や魔物を目指し、次の階層ゲートをどんどん潜っていく。


 途中にょっきり出てくるスライムはマーカス様が一撃で仕留めていくし、時折アル君もスキルを使ってスライムの核を抜いたりしている。


 あぁ、兄さまもあの時、スライムの核抜きやってたなぁ……


 なんて遠い目をしてしまった私はというと、歩く先で時折出てくるヒカリゴケやキノコの希少種を見つけては、2~3個だけ残してぶちぶち抜く。


 2~3個残しているだけ優しいと思ってほしい。


 後に来る人の事など考えず、根絶やしにしてやってもいいんだぞ! ふははははは!


 と、まさかここでは高笑いができないため、心の中で叫びながら、ぶちぶち抜いていく。


「っんふ~! 豊作……! あ、あれトキワシグレの実だ。」


 両手いっぱいの希少種を鼻息荒く引き抜き、次々とアイテム収納袋に放り込みながら、ついでに目に入ったダンジョン内に繁る食べられる木の実の類も一緒にもぎ取る。


 ちなみにトキワシグレとは前世では甘夏の様なでっかい柑橘系で、とっても甘いのだ。


 デザート……そうだ! ランチの時に食べよう!


「1人1個、いや2個……少なくともここで4回食事があるから……。 残念だなぁ、持って帰っても良かったらジャムとか砂糖漬けにするのに……。 あ! あんなところに大泣絶叫草(マンドラゴラ希少種)!」


 10個のトキワシグレをもぎ取って斜めがけしていた鞄の中に入れると、大岩の物陰で隠れるようにしてしくしく泣いている絶叫草に近づいた。


「絶対無体なことはしないので、一緒に行きましょう~。」


 と、口説きながら根っこごと掘り起こし、魔法の布にくるんで寝てもらう。


 大泣絶叫草が大泣きする前に採集できてよかった。泣き声で魔物を呼んじゃうんだよね。


 ほっとして洞窟のなかを見回す。


 順調に降りて、現在は最初の目標地点である8階層。


 一番についたようで、私たち以外は保安要員の騎士様の姿しかなく、4人で好き勝手している状況だ。


 ん? 一人足りないなぁと目を凝らすと、別の大岩の陰にほわっと白い光が見えた。


 ビオラネッタ様が岩陰で休息をしているのだろう。


 ほかの二人も思い思いに採集しているようなので、私もビオラネッタ様の方に向かいながら採集を続ける。


 1年前よりも素材の種類が多いのは、このために種でも蒔いたりしたんだろうか……と勘ぐってしまうくらいに薬草や魔法草が豊作でうれしくなる。


「回収した素材は、授業で使うのでしたね。」


 ビオラネッタ様の元に戻ったところで、私の手を取った彼女はそっと手をかざした。


「スキル展開・水魔法――『癒しのベール』」


 ふわっと柔らかなハンカチか何かが巻かれたような感覚がして、採集の時についた小さな切り傷やかすり傷、ついでに絶叫草に噛みつかれた傷も治っていく。


「おおぉぉ、すごい!」


 何ならハンドクリームを塗ったようにつやつやふっくらになった自分の手にびっくりして声を上げる。


「ポーションとは比べ物にならない肌の仕上がり! すごい!」


「まぁ、そんなに褒めていただけると照れてしまいますね。」


 本当にうれしそうに笑ったビオラネッタ様。


 日本人的に言うと彼女の笑い方は本当に『花がほころぶ』っていう感じで穏やかで優しくて大好きだ。


 なんだけど……最近その笑顔にちょっと元気がないように感じる。


 貴族子女であるビオラネッタ様の悩み事は、わたしの様な庶民にはわからないものかもしれないため聞くに聞けずにいるんだよな、と考えていると向こうから手を振って帰ってくる二人。


「二人とも集まってたのか。」


「この階層のレア素材は大体取りまくったよ。 二人は?」


 私が聞くと、じゃらり、と少し大きめの瓶にたくさん入った赤い玉がいっぱい。


「上級の炎系スライムがいたから、核を抜いてきた。 キャンプの時火をおこすのにも使えるし、上級核は魔術熱伝導率が高い。いい素材なんだってさ。」


 満足げに笑うマーカス様に、頷くアル君。


「スライムってあのジェリー状の魔物で、核はその真ん中にあるのですよね? どうやって核を抜きとるのですか?」


 瓶の中の核を珍しそうに見ながら言うビオラネッタ様。


 知らない方がいい気がするなぁ……と思っているとマーカス様が、あぁ、と手を打った。


「ビオラネッタ嬢は知らないのかぁ。 お、いいところにスライムが。 よく見ておいてくれ。 スライムをこうして、こう固定して、こう! だな。」


「ちょっと、マーカス様! ビオラネッタ様には刺激が……っ!」


 私が言い終わる前に、ホワンホワン近づいてきたスライムを、魔法付与した手袋をした手で掴むと、ずばん! と手をつっこんで、むんずと真ん中の核をつかみ、ずぼ! とむしり取った。


 ばしゃ~っと水状に戻るスライムと、いい感じに抜けて満足げなマーカス様。


「えっと、ビオラネッタ様……大丈夫……っ?!」


 そんなものを見せられてショックを受けているんじゃないかと恐る恐るビオラネッタ様を見ると……なんと、目を輝かせてキラキラした笑顔でマーカス様を見てるではないか!


「すごいですっ! すごいですわ、マーカス様っ!」


「いや、そうか? そう褒められるとまんざらでもないな!」


 にこにこしながら、その核を手渡して説明してみせるマーカス様と、受け取って感嘆の声を上げているビオラネッタ様を、ポカーンとして見ていた私の肩に、ポン、と優しく手が置かれた。


「お貴族様の萌えポイントがわからない……」


「フィランとは違った世間知らずだから、面白かったんだよ、きっと。 気にしたら負けだ。」


 そうだ、気にしたら負け。


 わかった、と握りこぶしを作って私とアル君は無理やり納得し、現実逃避するように次の行動計画表を見るのだった。




アカデミー1年特別演習


Sクラス1班 現在嘆きの洞窟8階制覇


1班の次の目標・嘆きの洞窟10階


フロア特徴


温暖な気候で草原地帯、休息と聖なる泉ポイントあり。









なお。神殿であった廃墟があるが、王家の封印にて立ち入りが禁止されている。

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