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1-008)チートに注意喚起にアフターケア!

「はい、登録完了です。 お疲れさまでした、もう手は離していいですよ。」


「はい、ありがとうございます!」


 オーネスト様に連れてきていただいたギルドの住民登録室は、それぞれご事情がある方も多いのでと言うことで対面カウンターのある完全個室。


 そうだな、向こうにあったわけあり質屋の買取カウンターが近いつくり。


 そして今現在、ギルドの方とはカウンター越しに座っていて、そのカウンターの上にある大人の頭位の大きさの丸い水晶っぽい玉を触っていた手を私は離した。


 玉の中には今着ているワンピースとおんなじ浅葱色、だけど時折オーロラのように色を変える綺麗な光が浮かんでいて、その色の塊の中に私の名前やステータス値が浮かんでいるようだった。


「ソロビー・フィラン様、登録完了でございます。 現在の個人の基本レベルは23で……職業である錬金薬師のスキルのレベルは……46!?」


 がた! と、立ち上がったのは、キュートな兎のお耳がピーンと立ち上がってしまったギルドのお兄さん。


 しかしなんでそこまで驚かれてますか? 私……


「え? 何ですか? ひかれちゃうくらい低いですか?」


「いいえ! 高い、高いんです!」


 ……な・ん・だ・っ・て?


 だって100とか、99とかじゃないんでしょ? そんなものじゃないの??


 私がやってきてたRPGだと、46は中途半端というか、通過点。 中堅じゃない? ひかれるくらいは高くないと思うんだけどな……


「すみません、ちょっと世情に疎くて……そんな驚くこと、ですか……?」


「あぁ、すみません!」


 座りなおしたギルドの男性は、ピルッ!ピルッ!と興奮したように大きなお耳を動かしながら、玉の中を興味深げにのぞき込んでいる。


「いや~、職業スキルは使わないと上がらないので、基本レベルより低い方のほうが多いんですよね。 フィラン様が生業としていらっしゃる錬金薬師はとにかく薬を作った数とその薬の難易度をこなさなければならないので、なかなかレベルが上がりにくいんです。 失礼ですが、まだ14歳ですよね、それでこのレベル! このレベルは錬金薬師の方ですと誤差を入れても20~30年は錬金薬師として働かれた方でしょうか……20あれば店を持つ許可がおり、40であれば弟子を取ってもかまわないといわれています。」


「は~そうなんですね……」


 ギルドのお兄さんはとっても興味深そうにお耳を動かして見入っていらっしゃるけれど、ごめんね、そんな実感が全くない!


「……空来種の方はもともと基礎ステータスが高めではありますが、どんな生活をしていらっしゃったらこんな風にステータス値を上けられるのか……?」


「どんな……」


 う~ん、と考え込んでしまったお兄さんに申し訳ないので、私も考えてみる。


 この職業に20~30年携わった……人のレベルかぁ。


 ……あれ?


 私の実年齢、というか、中の人はアラフォーで、日勤も夜勤もしていたし、社畜じゃないかな?と悩むような激務を駆け抜けてきたこともある……。


 そのせいじゃない?


 神様、加味するよって言ってたじゃない!


 前世で生きてきた年齢分の経験と知識がレベルとして正当に反映されてる!


 今の外見だとバグっちゃうかもしれないけれど、中の人の年齢だったら何らおかしなところはない!


 しかしこれは言えない!


「ひ、人の二倍頑張った時期は確かにありました……」


「なるほどそうですか! かなり素晴らしいです! この後このまま住居案内をさせていただくんですが、その後薬師部によってください、開業の手続きしてもらえるように連絡しておきますね。」


「わ! ありがとうございます!」


「それと。」


「はい?」


「空来種であるということを、他人に言うことはお勧めしません。」


 少し真剣な顔をして、兎のギルドお兄さんは溜息をついた。


「空来種の方は確かに年に何度かいます。 そのための制度があることがあることは御存じだと思います。」


「はい、その制度はとってもありがたいですよね。」


「えぇ、しかし、それを悪用しようとする者もやはりいるのです。」


 あるあるキター!


 まじかー!


 あっけにとられてしまった私にギルドの兎男性は眉間にしっかり皺を刻んで腕を組んだ。


「空来種の方は優れた知識や技能をお持ちの方が大変に多いですが、この世界の常識は皆無です。 身一つでこちらで生活をすることになった身の上では同郷の方がいたりすると心強いでしょう。」


 まぁそうね、ホームシック的なやつとか、向こうの世界でも勇んで都会に出てきた人たちによる同郷会とかあるらしいから、故郷を懐かしむ、とか、そんな感じなんだろうなぁ……。


「……まぁ、そうかもしれませんね。」


「えぇ、この世界の生まれでも他の国の出身だったりすると、やはり同郷の方を見つけると懐かしくて話したくなる。だからお気持ちは痛いほどわかります。 しかし、空来種の方は、いい意味で常識のない純粋な方が多い……騙されて支度金を奪われたり、住居を奪われたり、奴隷商に権利を取られてしまったり……そんな方が中にはいらっしゃいます。 制度を知るこちらの貴族が空来種から詐取するような組織を作っていた事もありましたし、空来種同士でも先人が後から来られた方を陥れたというトラブルもあるのです。 あなたはまだ幼い。十分に気を付けて、本当に信頼できる方にだけ、お話しするようになさってください」


 絶対ですよ! と子供に言い聞かせるように真剣な顔で諭してくる彼。


「はい。 気を付けますね。」


 ものすごい心配されてるなぁ……まぁこの外見だから仕方ないか。


 仕方がない、年齢的にきついけど、ちゃんとわかったよ! という良い子スマイルで対応しました。


 すると納得したように笑ってくれる彼。


「それでも、どうしても辛くなったらこちらに来てください。」


 ……へ?


 めちゃくちゃ真剣な顔で、頭をなでられてしまいました。


 おや? どうした? 恋愛フラグか? そうならばわたしは全力で! 折りに行く!


「え、えっと……。」


「あぁ、すみません。 変な意味ではないんです。 危険な目に合うくらいなら、ギルドに愚痴を言いにでも遊びに来てください。 その方がよっぽど安全です。 その際は、この耳飾りを目印にしてくださいね。」


 長いお耳についた綺麗な細長い石のピアス。


 きらきらと光をはじくそれは、オーネスト様たち翼ケンタウロスさまにも、天使様にも、不思議な髪の美人さんたちにもついていたなと思い出す。


「これは、王に認められ、空来種に対して保護を目的とした技能スキルを受けた者にのみ渡されるものです。 この耳飾りがない者は、空来種に対する知識も制度も知りません。 このギルドの職員でも、この耳飾りを持つ者しか空来種の方の知識もなく、対応もできません。 この耳飾りは一種の目印なんですよ。」


 なにそれ、すごいな……


 今はまだ、実感もわかないから何とも思わないかもしれないけれど、寂しくなったり、うまくいかなくて泣きたくなったり苦しくなったりすることもあるだろう。自分だってそうなるときは多分来る。


 しかも、そこに陥ってしまうのは、そんなに遠くない未来。


 王様、よく考えてらっしゃるな。


 あんな軽口をたたいていたラージュ陛下の空来種への心配は自分が苦労した分もあるのだろう。


 そんな優しさに声も出ない私の顔を、兎耳ギルド員の男性はのぞき込む。


「すみません、怖がらせてしまいましたか?」


 覗き込んできた顔は、本当に心配してくれている顔で、胸がギューッとなる。


 いかんいかん、感傷に浸るのはまだ早い。


 いっけね、ごめんね、くらいでまだいないと。


「ありがとうございます! アフターケアもばっちりで感激しただけです! とっても心強いです! 怖くないです、むしろ感激しました。」


 まーでも、さっきの詐欺とかの話ドン引きしちゃったけどね。


 どこにでもすっとこどっこいっているんだなぁ……と、しみじみ感じたのは内緒。


「教えていただいたこと、ちゃんと守りますね。」


「よかった。 気を付けて、この世界でお過ごしください。 では、次に家ですが。」


「あ、忘れてました。」


「僕もです。 いくつか候補を選んでいますから、ランチがてら見学に行かれませんか? お店でご飯を食べるというミッションです。」


 僕も休憩時間ですから。


 ニコッと笑ってくれたその人に、大きく頷いた。


「ぜひ! おねがいいたします!」

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