表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/163

1-084)新しいお友達?

『……いで。 こ……らへ……いで。』






『……ン。 ……よう、……ラン。』


 遠くから~。


 なんだか呼ばれている気がします~。


『『『『『おはよう、フィラン! 朝だよ!』』』』』


 大きな声に心臓が飛び跳ね、瞼がこれでもかというくらいに大きく開いた。


「な、何事!?」


 目の前には、五つの精霊の子達の顔がドアップであって、ベッドから落ちた私はおしりと背中をしこたま打ち付けて目が覚めた。


「いったぁぁぁいっ!」


『大丈夫? フィラン。』


『フィラン、起きたぁ。』


『おはよう、フィラン、今日もアカデミーの日だよね?』


『畑のお仕事はちゃんとやっておくよ。』


『フィランは朝ご飯を食べておいで~。』


「う、うん……。 いつもありがとね。」


 いっせいに話しかけられるのを聞きながら、しこたま打ちつけてズキズキ痛むお尻をさすって辺りを見回すと、いつもの私の部屋の中だった。


 自分を見れば、あいも変わらず色気のない夜着ワンピとぼさぼさ頭で床にへたり込んでいる。


 夢? かぁ?


 よく覚えてないけれど、何かいろんなことを言われた気がするんだけど……。


 そもそも、今までの事は全部現実だったのか、夢だったのか……。


 なんだか靄のかかったような、ぼんやりしたもやもやに違和感を感じ、首をかしげながら立ち上がり、ルームシューズを履いて鏡台の前に座ると、姿見の横にかけられたアカデミーの制服の左胸に、昨日のまま盾のブローチ(チャーム4つ付き♪)が付いているのが見えて……少しげんなりしてしまった。


「夢じゃなかったぁ……。」


 ぶちっと引きちぎって鏡台の引き出しの中に入れちゃいたいな、と、げんなりしながら鏡を見ると、ひどい顔の私。


『夢であったらよかったのですけれどね。 それにしてもまぁ、今日も淑女にあるまじき、見事な爆発頭に不細工なお顔ですこと。』


 ぼさぼさの頭に平櫛を入れようと手に取ろうとすると、横から金色に光る綺麗な手がするっと櫛を攫っていった。


『こんな頑固な寝ぐせはなかなか治りませんわよ? 今日はわたくしがやって差し上げますわ。』


「アルムヘイム、おはよう。珍しいね?」


 顔を上げるとニコッと微笑んだ黄金の悪役令じょ……ではなくて、日の精霊であるアルムヘイムが悪態をつきつつ、一房ずつ手に取って毛先から丁寧にゆっくりと梳いていく。


「今日は木の精霊日なのに、出てきても大丈夫なの?」


『あら、わたくしを気遣ってくれるの? えぇ、えぇ、あまりよろしくはありませんわねぇ。』


「それなにの出てきてくれたの?」


『まずは黙って身支度なさい。』


 困ったように笑ったアルムヘイムが丁寧に梳いていくと、あっという間にいつものふわふわ緩やかなウェーブのハニーブロンドになっていく。


 梳き終わり、今日は可愛らしくハーフアップにしたところで、髪の一房を手に取ったアルムヘイムは重たげに口を開いた。


『今日はね、私たちの可愛いフィランに、大切な助言をあげようと思いましたの。』


「助言?」


 鏡越しに見るアルムヘイムの笑顔は、柔らかな笑顔ではあるが、それでもいつもの自信に満ちたものとは少し違っていた。


『あの無属性の男の子は、()()()()()ですわ。』


「本物で偽物って? 矛盾してない?」


 じっと見ていると、目を伏せてから、ふるふるっと頭を振ったアルムヘイムは、静かに私に聞いてきた。


『聖遺物……ってフィランにはわかるかしら?』


 聖遺物?


 またなんか難しい名前が出て来たけど、何だっけ?


 確か前世で、神の息子が……。


「えっと、過去の聖人っていわれた人の残したすごい物っていう意味だと思うけど。 ……あってる?」


 ふっ、と、フィランらしいわ、と笑ったアルムヘイムは、私の髪から手を離すと、今度は両肩に触れ、耳元でささやいた。


『少し、えぇ、ほんの少しだけ早いけれど、これもあの方の指し示す先。』


「あの方?」


『もし、もしもフィランが本当に大切なものを守るために、その身を投げ打つ覚悟が出来たなら……』


 そのまま、するすると空中に溶けるように姿を消していくアルムヘイムは最後にニコッと笑った。


『……、に、行きなさい……。』


「え?」


 振り返った先には、もう誰もいなくて。


「アルムヘイム?」


 私の声は、溶けて消えた。







 一階に降りると朝ごはんとお弁当、それから兄さまからの『今日は少し出てきます、お店を開ける頃には帰るので気を付けていってらっしゃい』という旨の置手紙を見つけたため、さっさと朝ご飯を済ませ、お弁当をもって家を出た。


 いつもの道を通り、いつもの騎士団駐屯地のゲートを通って貴族層に着くと、今日はアカデミーへの専用ゲートを使った。


 アカデミーの正面玄関ゲートに着き、正面玄関からSクラスの教室がある二階へ足を進めていこうとすると、何やら不穏な雰囲気を背後から感じる。


 またか……。


 げんなりして振り返ると、先日突っかかってきたのとは別のご令嬢が取り巻きを引き連れてこちらへ来ようとしているのだが、その背後の一人が()()とした顔をすると、先頭に立つ令嬢にそっと耳打ちをし……私の方を凝視した後、青い顔をして去って行った。


「なんだ、あれ。」


 絡まれなくてよかった、と思いつつ階段を上ったところで見えた大きな姿見に映った自分を見て、そっか、と納得する。


 そういえば、小さくこちらを指さしていたのでブローチに気が付いたのだろう。絡まれることは格段になくなるとは言われていたが、これほどとは。


 あほには効かない、と言っていたが、彼女たちの中に少し賢い部類の令嬢がいたようだ。


「おはようございまぁす……。」


 なんとなく憂鬱な気持ちになり、もう一つため息をつきながら階段を上がってSクラスの教室に入ると、教室の中は静かで、まだ誰も来ていなかった。


 そんなに早かった? と、時計を見ればいつもより少しだけ早い時間ではあるが、これならすぐにみんな来るだろうと自分の席に着く。


 鞄の中から教科書や宿題、ペンケースなどを出して……高価な紙をこんなにふんだんに使えるのって、前世もそうだったけどありがたいなぁ……としみじみしていると、後ろから声を掛けられた。


「フィラン嬢、おはよう。」


 声のしたほうを振り返ると、私の左後ろ、成績は5番目の騎士見習いさん。


 私は立ち上がり頭を下げた。


「ヴァレリィ伯爵令息様。 おはようございます。」


「やだなぁ、アカデミーではそれはなしだよ。 マーカスって呼んでくれる?」


「では、マーカス様。」


「マーカスでいいって。 俺もフィランって呼んでいい?」


「すみません、小心者なので()はつけさせてください。そのかわりフィランって呼んでもらっていいですから。」


「そう? じゃあ、そのうちでいいから、様もなくしてくれよ?」


「善処します。」


 にこっと、白い歯を見せて天真爛漫という言葉がぴったりな笑顔で笑っているマーカス様は、それ、と私の胸元のブローチを指さされました。


「やっぱり完璧な後ろ盾が付いたんだな。よかったな。」


「……う~ん……よかったんですかね?」


 話を聞くために椅子を動かして座ると、彼も自分の席に座り、鞄から教科書やらを片付けながら笑う。


「良いに決まっていると思うけどな。 フィラン嬢は爵位がないんだろう? いくらアカデミーでは身分は関係ない、とはいっても身分に囚われて馬鹿な真似をする者も多い。 それがあればフィラン嬢をいじめる事が自分たちの首を絞めるってわかるからね。 俺だってほら?」


「あ。」


 親指で左胸を示された先にあるのは、シルバーのブローチとギルドのランク証のチャームに、虹色に光る雲の形のチャーム。


「形が少し違いますね。」


「まぁね。 うちの実家は伯爵家だけど、俺は次男でいつかは家を出る身。 で、親がつけた後ろ盾は俺の婿入り先である辺境伯家。 これはその家の盾の紋章なんだ。 下の剣はフィランがつけているのと一緒でAクラスの冒険者の証。 それから、こっちの虹の雲は俺がお世話になっている冒険旅団のメンバーの証。」


「冒険旅団?」


「知らない?」


 うん、と頷いた私に、彼は少し得意げに教えてくれる。


「冒険旅団っていうのは、冒険者の中でも志を同じくした者たちの集まりなんだ。」


 あぁ、パーティとかギルドみたいなもんか。


 そう思いながらうんうん、と頷く。


「小さな冒険者パーティは、冒険者ギルドでその時の気分や目的で即席で組まれるんだが、冒険旅団は数十人から数百人の規模になったものだ。 所属すると、クエストクリアー時に冒険者のランクポイントの他に旅団ポイントも付与される。 メンバーからのポイント加算が高ければ高いほど旅団としても箔が付くし、善行ポイントを重ねていくと冒険者ギルド公認の旅団になる。 冒険者ギルド公認になると、王侯貴族や高名な商人から指名依頼がきたり、夜盗とか海賊狩り、強襲クエストみたいな特殊なクエストも優先的に依頼されるようになるシステムだ。 俺が入っているのは冒険者ギルド公認の『虹の巣』だ。」


「へぇ~。」


 剣と魔法の世界っぽくなってきたー! と思いながら聞いていたが、あれ? と首をかしげる。


「マーカス様、貴族で騎士見習いなのに旅団に入っていいの?」


「あぁ。 所詮次男坊だからな。好き勝手やらせてもらってる。」


 また、人懐っこい、にかっとした笑いを浮かべた彼。


「婿に入るまでは、騎士として、人間として、道を間違わなければ何してもいいって言われてるんだ。 辺境じゃ魔物討伐や野党討伐は日常茶飯事だから、婿入りが決まった時に腕を磨くために正式に冒険者ギルドに登録してランクを上げて、『虹の巣』の入団試験を受けたんだ。 辺境伯家からも頼もしいって喜んでもらっている。」


「へぇ~。 ……ちなみにその婿入りが決まったのって、何歳の時?」


「8つだな」


「8つ!?」


 小学校二年生で結婚する先が、しかも婿養子が決まってるってこと!?


 その事実にびっくりして言葉が出ないでいると、マーカス様はきょとんとした顔で私に言う。


「フィランには馴染みがないかもしれないが、政略結婚が子供の頃に決まるのなんて、貴族じゃ当たり前だぞ? このクラスの全員、婚約者がいるんじゃないか? ちなみに俺の婚約者は2つ上の学年にいるんだ。 風の辺境伯ウィンドール辺境伯家なんだ。 今度紹介するよ。のろけるわけではないけれど、すごく素敵な令嬢なんだ。」


「光栄です。」


 にこっと笑って返事をしたけど、辺境伯令嬢なんて紹介してもらう機会は、出来れば極力少ないといいなぁ……と思ったところで予鈴の鐘が鳴り、慌てて周りを見渡せば、私の机のある列以外の席には、みんなが登校を終え、思い思いに話をしたり予習をしたりしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ