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【超不定期更新】アラフォー女は異世界転生したのでのんびりスローライフしたい!  作者: 猫石
『ルフォート・フォーマ』編

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1-082)こわ~い令嬢と、大好きな兄様の『正体』

「兄さま!?」


「とりあえずフィランもミトも座ろうじゃないか。 アスター、茶を入れてくれ。」


 扉の所に立っていたのは、まぁここ一年以上、一日とて見なかったことはない見慣れた顔に背格好……なんだけど、今はとっても高級そう(セレブ)な……そうだな、王宮で皇妃様に面会した時にしていた以上にいろいろ付いた服を着た、麗しい? 恰好をしているセディ兄さま。


 サラサラの赤い髪の毛は丁寧に何かで花の様に綺麗に整えられていて(普段がぼさぼさというわけではありませんよ~。)そこにはきらきら光る綺麗な飾り紐が付いてる。


 紐? いや、それにしては妙にキラキラしてない!?


 あんまりにもキラキラしすぎていて、私、目が悪くなった? と、首をかしげて目をこすり、凝視して……。


 ん?


 あれ、紐じゃない。宝石!


 髪の毛に宝石って何!? なにごと!?


 いやいや、兄さま、さっき、ついさっきまでいつもの緩~い、ラフ~な庶民服着てませんでしたっけ?


 なにが起こってるの!?


 なんて混乱している私をよそに、爆笑していた時とは打って変わって、契約書を前にしていた時のお貴族様スマイル全開の美人さんが座っていたソファに近づく兄さまは、頭を下げたまま静かに後ろに下がった女性に「またやりすぎたのか?」と言いながら、先ほどまで美人さんが座っていたソファに深く座った。


「フィラン、お茶が来るから座りなさい。」


「に、兄さま……その恰好……っていうか、この状況って……っていうか何してんの? いや、なんでここに?」


「言葉になってないからね、フィラン。 一度座って落ち着こうか。 アスター、頼む。」


「さぁ、フィラン様、お座りくださいませ。 新しいお茶をお入れしますので。さぁ、どうぞ。」


 放心状態だった私に、アスターさんと呼ばれた年嵩のメイド姿の女性が背中をなでながらソファに座らせてくれて、新しく紅茶を注いでくれる。


「さぁさ、こちらをどうぞ。 うんと甘くして、ミルクもたっぷりでございます。 落ち着かれますよ?」


 にっこり笑って紅茶を差し出してくれたアスターさんが差し出してくれたカップが目の前に置かれる、が……意味が解らな過ぎて手が出せない。


 呆然としている私の目の前で、出されたお茶を優雅に傾けるキラキラ変身姿の兄さまと、一歩引いたところでいまだカーテシーをしたままの美人さん。


 この様子だと兄さまの方が身分が上?


 庶民なのに座ってお茶を飲めと言われている私。


 は? なにこの状況。


「フィラン? どうした?」


「どうしたじゃないの。 いろいろぜんぶ、ぜ~んぶ、意味が解らないの。 なにこの状況。兄さま何してるの?」


 脳内パニックの私の様子を見た兄さまが、心配そうに声をかけてくれるので返答するが、戸惑いも混乱も隠せない。


「フィラン、大丈夫だから落ち着いて。 ミトのいたずらが過ぎたようだね。 ミトにはちゃんと言って聞かせたはずなのだけれど……。」


「はい、お養父様。」


 ちらり、と頭を下げたまま敵意ではないけれど居心地の悪い視線を投げられ、ググっと身を固くした私に気が付いた兄さまがため息をついた。


「ミト。 いい加減にしないか。」


 困ったように笑って、頭を下げたままの美人さんに声をかけると、彼女は静かに頭を上げた。


「申し訳ありません。 震えていらっしゃるお姿がかわいらしくて、つい。」


「つい、で皇帝陛下からお預かりしている彼女をいじめられてはかなわん。 陛下に不敬と取られても仕方がないぞ。 彼女に挨拶と謝罪を。」


「はい。」


 いつもと仕草も話し方も違う兄さまに促されるままに、兄さまの方を向いていた美人さんは私の方に体を向けると、先ほどまでの大笑いしていた時にも感じていた貴族然とした威圧感が消え去っていた。


 あんまりの変わり様に、なにかのスキルなの!? と混乱する私に、びっくりするくらい優しい笑顔を浮かべた彼女は、私のように一夜漬けではない、それは綺麗なカーテシーを披露した。


「先ほどは怖がらせてしまい、ごめんなさいね。 改めまして、私イトラ侯爵家当主代理をしております、ミスルート・イトラ・フォーノットでございます。 先ほどは大変失礼いたしました。 どうぞよろしくお願いいたしますね、フィラン嬢」


 ふんわりと笑った彼女は、本当に先ほどまでの彼女だろうかと疑ってしまうほど雰囲気が変わっている。


 大笑いしてた時とも全然違うんですけど!


 切り替えが早いお貴族様、怖い!


 そんな風に身構えてしまった私に、ミスルート様は首をかしげて笑う。


「フィラン様?」


「ミトの切り替えが早くて怖がっているだけだ……フィラン、大丈夫だ。こっちがミトの素だから安心しなさい。」


 ……う……正直めちゃくちゃ怖いですけど……兄さまがそういうなら……。


「あ、はい、えっと……宜しく、お願い致します。 ……あ! 座ったままですみません!」


 座ったまま頭を下げてから、はたっと気づいて慌てて立ち上がり、再び頭を下げた。


「座ったままで平気ですわよ、大丈夫です。 なので、顔を上げてくださいませ。」


「は、はい……。」


 ちょっと口元が引きつったまま顔を上げる。


 そっかぁ、この人が……このおうちの当主代理かぁ。


 本当に雰囲気が変わるんだな。社交界って怖い。 あの時、貴族籍なんて貰わなくて良かった。


 と思いつつ、目の前の人の名前を心の中で反芻する。


 イトラ侯爵家の、当主代理の、ミスルート・イトラ・フォーノット?さん。


「……イトラ侯爵家?」


 んんん??? その名前、どっかで聞いたことのあるような……。


 そのまま視線を横に滑らせれば、困ったように額に手を当ててため息をついた兄さま。


「兄さま……兄さまの名前って、確か……。」


 もう一度視線を動かして真正面の笑顔の美人さんと目が合えば、彼女はひとつ、ウインクをした。


「……さすがのフィラン様も気が付かれたようですわよ、()()()()


()()()()()?」


 イトラ侯爵代理のお姉さんが、兄さまの事を()()()()()


 首をかしげてしまったが、そのまま頭の回路がフル回転でオーバーヒート寸前。


「え? まさか……え??」


「まぁまぁ、お座りになって、フィラン様。 アスター、私にもお茶を。」


 私を座らせた後、私と兄さまとは別の、私の左側にある一人掛けの椅子に座りながら、アスターさんにそう伝えて優雅に座ったミスルートさんと、その言葉にかしこまりました、とにっこり笑ってお茶の用意をすぐに始めたアスターさん。


「フィラン様は王宮パティシエの焼き菓子が大変お好きだと両陛下とお養父様から伺っておりますが、先ほどのものとは別に、今日は新作を預かって参りましたのよ。 実はわたくし、先日味見をさせていただいたんですが、これとこれ、それからこれは特に絶品なのです。 お茶も冷めてしまいますし、どうぞ。」


「え、はい。 い、いただきます。」


 制服のスカートを整えながら、ミスルート様に促されるままにソファに座りなおし、お茶を一口飲んでから、新しく差し出された焼き菓子の乗ったお皿を受け取ると、そのまま一つ手に取った。


 う~ん、こんな緊張下で食べても味がしない気がする。


 そんなことを感じながら一口かじったのだが……。


「ふぁ! おいしい!」


 お口の中に広がる、バターとミルクの香ばしくもまろやかな甘さ。


「マドレーヌだ。」


 つい口に出るくらいに美味しくて、よく見てなかったお皿の上を見る。


 うおぉぉぉ! お菓子! 前世で大好きだったお菓子だ!


 お皿に乗っている焼き菓子は、マドレーヌにダックワーズにマカロン。 どれも馴染みのあるお味だが、こちらに来て一年ちょい、久しぶりの本格的な前世の味が懐かしくて、さっきのカヌレやガレット同様にとってもうれしくなる。


「美味しい……お茶も本当においし……」


 一つずつ味わって、お皿の上のお菓子がなくなって、ふと、顔を上げて……兄さまと目が合った。


「あ!」


 美味しいお菓子に騙されるところだった!


「兄さま、その恰好は何ですか!? あと、イトラ侯爵って何ですか!? 兄さまちゃんと説明して!報告連絡相談! ホウレンソウですよっ!」


「……うん……」


 キラキラの姿で困った顔をしている兄さまに詰め寄ってやろうか、とソファからおしりを浮かした。


「まぁまぁ、フィラン様、落ち着いてください。 私からご説明させていただきますね。」


 まぁまぁ、と私をなだめるミスルート様。


 物凄く気まずいような顔をしてお茶を飲んでいる兄さまをちらりと見たミスルート様は、小さく噴き出してから体を私の方に向けて座りなおしたため、私も空になったお菓子のお皿をテーブルに戻して座りなおす。


 そんな私に、ミスルート様はふんわりと笑う。


「食べながらでよろしいのに。」


「いいえ、そんなわけには。」


「フィラン様は、すごくいい子でらっしゃるのね。 お養父様(おとうさま)に代わってお話させていただきますわね。 私はイトラ侯爵家の養女(むすめ)ですの。」


「娘さん……ってことは……兄さま、奥さんと子供がいたの?! え? 家庭持ちだったの? そんなのでうちに居てよかったの!?」


「……フィラン……」


 私の反応に何やら額を抑えた兄さま。


 いや、私が頭抱えたいよ?


 他人様の御家庭を壊しちゃったんじゃないの!?


 そんな泥沼嫌だよ!?


 あ、私の傍にいたのは仕事だからいいの?


 と、たくさん考えていたら、くすくすと笑う声が聞こえる。


「あらあら、思った事が全部お口から出ていらっしゃいますわ、フィラン様。」


「えっ!?」


 ぎょっとして兄さまを見ていたけれど、そういわれて口を抑えた。


 思った事、全部口から出てたみたいです。恥ずかしい。


 真っ赤になってしまった私に、頭を抱えているのは兄さまだけで、ミスルート様もアスターさんも、家令さんもニコニコ笑っている。


「す、すみません……。」


 頭を下げて謝ると、大丈夫ですわよ、と笑ったミスルート様。


「お養父様、と言っても正式には、わたくしは養父(ちち)のミゲト・フォーノット、養母(はは)のセスターエン・イトラの養女(むすめ)なんです。 センダントディ・イトラ様をお養父様(おとうさま)と呼んでいるのは便宜上なんですの。」


「セス姉さまの……養女さん。」


「えぇ。 昔、戦火で村を焼かれた時に養父母に助けていただいたのですわ。 それからは陛下……当時はまだ陛下ではなかったのですが、あの方たちの隠れ里(まち)に身を寄せていたのです。そして、皇帝になられたとき、私は養父と養母のもとに引き取られましたの。 その後、養父は亡くなりましたし、お養父様と養母はフィラン様の御存じの通りでしょう? ですからフォーノット侯爵家の当主兼、イトラ侯爵家の当主代理しておりますのよ。」


 ニコニコとお話しするミスルート様ですが、結構ヘビーな内容ですよ?


 そんなおうちの一大事みたいなこと話していいんですか?


 しかも私のような一般庶民(へいみん)に話して……。


 う~ん、と考えた後、とりあえず私の生活に関わることを聞いてみる。


「……代理をしていらっしゃるのは、侯爵家当主(にいさま)が私のところにいるから、ですか? だとしたら……。」


 ぎゅうっと手を握った。


 侯爵家の、しかも当主様が庶民層のしがない薬屋に住んで、店番したり、ご飯作ったりしているのは、いくら陛下の命令とはいえ駄目なんじゃないだろうか。


 使用人さん達や、領民の方たちがすごく苦労しているんじゃないだろうか。


 社交界とやらで、変な噂が立ったりしているんじゃないだろうか……。


 兄さまは、私の()()()なんかせずに、侯爵家の当主としての仕事をきちんとした方がいいんじゃないだろうか。


「だとしたら、今からでも……」


「ご安心くださいませ。お養父様はフィラン嬢が考えるほど偉くありませんから。 正直、陛下のご命令で一年以上、文句も言わずに真面目にお務めをしているのが驚きなくらいなんです。 ……これから聞くことに驚かないでくださいませね、フィラン様。」


 う、そんなに改まって何を言われるんだろう。


 すごく身構えて座った私に、ミスルート様は言う。


「……実はお養父様、昼行燈(ぼんくら)なんですのよ。」


「ボ……?」


 昼行燈(ボンクラ)ーーーっ!?


 兄さまが!?


 そもそも、こっちでそんな言葉、聞くとは思わなかったけれど、いや、そうじゃなくて!


 私が突っ込みを入れたいのは、そこじゃあなくて。


「兄さまが?」


 大江戸の夜の街の、闇のお仕事をばっさばっさとやっているあの有名な人の、()()()()()()()()()()()みたいな昼の姿なの?


「ええぇぇぇっ!?」


 料理上手で甘やかし上手、お店でもお店番してくれるし、何でもできる兄さまなのに!?


「嘘でしょう!?」


「本当なのです。 ……呆れてしまうでしょう? なので、このイトラ侯爵家の当主は養母のセスターエン・イトラなのです。 皇帝陛下から建国時にせっかく筆頭侯爵位を賜ったのに、お養父様ときたら『好きな仕事をやりたい、堅苦しい貴族社会や規律正しい宮仕えは嫌、ただの一兵卒がいい』と仰って放棄なさろうとなさったんです。 それで仕方なくお養母様がイトラ侯爵家の当主となられたのですわ。 ただ、お養母様が両陛下付きの女官長になったため、その兄が昼行燈(ボンクラニート)はダメだろうということで、騎士を引退後は庭師をしていたんですけどね。 いえ、騎士の期間もとても短かったのですが! 騎士を引退後も当主になるのは嫌だと仰って、絶対に当主にならなかったんですの。 その頃にはお養母様はフォーノット侯爵家へ嫁がれることになっていましたし、その後は御存じの通りでしたので、私がお養母様とお養父様の代わりに二家の当主代理をしているのですわ。 ……正直、本当に忙しくていい加減にしていただきたいくらいなのですが……困ったものです。」


「……兄さま……。」


 よくその我儘、許されてましたね?


 ここまでをため息を何度もつきながら言い切ったミスルート様は、苦笑いを浮かべられました。


 兄さまはと言うと、素知らぬ顔で紅茶を飲んでいるものの、若干焦っているっぽい。


 そして私はと言えば……うん、何だろう。


 かっこいい大好きな兄さまのイメージが、ちょっと……いや大分壊れちゃって……私の自慢の、何をやっても完璧な、完全無欠の、かっこいい大好きな兄さま! だったのに、お貴族様的仕事のすべてを責任放棄してた昼行燈って知ってごらんなさい!


 自称ブラコンの私も流石に呆れちゃうんだからね!




 紅茶を啜りながら、私は何を聞かされてるんだろうって、眉間を寄せて唸ってしまった。

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