宇宙人説
「夢にしては整然としすぎているけど、なんでミルコばっかなの?てかアイテムボックス全く関係無いんだけど。ミルコの名前だけなんだけど!」
「元気だね。いつもそれくらい元気だと僕も楽しいんだけど。」
目覚めた私の横になぜかアルスがいた。掛けシーツを捲られてスカートに手を伸ばすところだったアルスが。何やってんのこいつ。私は怖くなってシーツをひったくって体を固めた。しかしアルスは私の顔を変に覗いてベッドに腰かけてきた。マジ頭おかしいんだけど。
「なんでそんな顔をするんだい、君がいいって言ったんじゃないか。」
え?私が言った・・・・。あ、と気づいてしまった。やっぱりあのとき中身を見られていたのだと・・・。何とかしなければならない、このままでは盗賊でなく変態に貞操が奪われてしまう。
「か、お。見ていいって、言ったのは、顔。顔を見て、あからめて、たから、ねて、るあいだ、に、馴れたらいい、っておもった。」
「え?顔?だってあの日、僕が酔っぱらってしまった時にその、してしまったんだろ。大丈夫責任は取る。妾村に入ってもらうことになるかもしれないけれど、不自由は絶対させないから。」
やっぱりこいつはおかしい、貴族ってもの全てがおかしいのかもしれないけれど同じ言語を使っているとは思えない。なにがイベントムーブだ、この世界はゲームじゃない。こんなやつについてきた自分がばかだったと考え直して荷物をひったくって外に出た。
追いかけてくる、やだ、怖い。逃げて逃げて、村の出口に差し掛かった時にそれは起きた。物凄い爆発音がして振り向くとアルスの姿が消えていた。前を向きなおすとゴスロリっぽい衣装を着た角の生えた女の子がいる。
「もう、師匠。これ僕じゃなかったら死んでますよ!手加減というものを覚えてください!」
「なんじゃ死ななんだか。女を泣かせるようなクズは生きておる価値なぞないからの。結構本気だったんじゃが、鍛えすぎたかのう。」
言葉の端から味方だと踏んだ私は彼女の後ろに隠れるように抱き着いた。彼女の体は思いのほか小さくてしゃがんで抱きかかえるような形になってしまったけれど、とても心強い味方だと感じた。
しかし私は直ぐに振り払われてしまう。
「なんじゃお主、何をした。いや、何を持っておる。朕の魔力がごそっと持っていかれたぞ。」
朕て、どこぞの貴きお方か!と心の中で突っ込んでみたけれど、もしかしたら本当にそうかもしれない。物語ならば間違いなく魔王の人だ。どうしよう、味方がいない。ん?魔力がごっそり?どこかで聞いたような・・なんだっけ。
突き飛ばされたままの形でぐるぐると考えていると、アルスが心配そうに近寄ってきて魔王さん(仮)にまた吹き飛ばされたりしてた。そして唐突に意識が飛ぶ。
▷私はまた夢の世界にいた。
「漸くお話ができるようになりましたね。あなたが私のマスターですか?」
なんだろう、この盗賊さんの形をして魔王さんの声の気持ち悪い生き物は。それが私の第一印象だった。そのなにがしかはあーあーと声の微調整をすると、盗賊さんの声色(多分。あんまり覚えてないからね。)になった。
「おしゃべりできますよね?この言語はあなたから流れてきたものだと思うのですが、違ったかな。えーくぁwせdr。dcfvgbhn。tgyふj?」
「・・・・・・いや、最初ので。」
「よかった。これでお話ができます。では改めて、私の名前はミルコ・ストレージ。あなたがくれた名前です。お望みは無限の収納でよろしかったですか。ふむ、時間停止とああ、取り出しも。それならばサービスの範囲内です。やはり文化を持ったマスターはいいですね、これまで聞いたマスター達は身を守りたいが一番で、食事をしたいとか攻撃をしたいくらいしかおっしゃいませんでしたから。」
「・・・・何も言ってないけど。」
「ああ、すみません。これまでのマスターは言語すら持ち合わせていなかったものですから、つい癖で記憶領域にリンクを作らせてもらいました。心は読まないので別に構いませんよね?かまうと言われても困ってしまうのですが。」
この不思議生命体?はミルコ・ストレージというらしい。もしかしたら最近見た変な夢もこいつが記憶領域になんかした弊害なのかもしれない。ちくしょう、文句を言ってやりたいけど、多分これアイテムボックスのインテリ装備だ。突き放すようなことをしてどっかに行ってしまったらもったいない。
それに記憶を共有できるというのは悪いことばかりではない、多分こいつは前世の記憶も覗いているはずだから、ここにこれば知識チートの手助けをしてもらえるかもしれない。やばい、こいつかなり有用かも。
それにここならこいつしかいないから会話がしやすい。結構しゃべったよね私。
「こほん、ともかく、一定量のエネルギーの供給が終わりましたのでサービスを開始しようと思うのですがよろしいですか?これよよりこちらからの問いかけは停止させていただきます。お話し中に変態さんに襲われたら大変ですしね。それではがんばってくださ――」
ちょ、それ最近の記憶。つまりリアルタイムで心は読まないけど後追いで見てるってことだよね。ちょっと待てー・・・・・。
▷はい、目が覚めましたよっと。
知らない天井だった。一応セオリーだからね、やってみた。アルスともう完全に決めつけてるけど魔王さん(仮)の話声が聞こえるから、魔王さん(仮)の家なのかもしれない。耳を澄ませているとどうやら私の話をしている。
「あれが魔族だと思っておったのか?あれは違う、もっと得体のしれないものじゃ。」
「得体が知れないって、僕の妾になるかもしれない子ですよ。凄くかわいい子じゃないですか。化粧をしたらもっとかわいくなるんだろうな。そうだ、侍女に手配させよう。ドレスはどんなのがいいだろうか。黒い髪に合わせて・・・・、黒かな。」
「お主はあの娘を葬式にでも連れていくつもりか。本当にどうしようもないのう。それよりも貴様、魔族だと思っていたのに妾にしようとしていたのじゃな、朕がそういったことが嫌いだと知ってのことじゃの。つまり貴様は朕と戦争をしたいというわけじゃな。」
「え、何言ってるんですか。だから責任を取って生活を保障するって言ったじゃないですかやだなー。もしかして内妾にしろって言うんですか?騎士爵ならまだしも平民では無理ですよ。しかも魔族だったとしたら妾村ですら無理かもしれないですからね。どうしてこんなに仲が悪いんですかね、僕と師匠はこんなに仲がいいのに。」
「う、むう。戦争のことを言われると朕が何も言えなくなると思っておるのじゃな。じゃがなもうその手には乗らんぞ、いくらなんでも――」
「あ、目覚めたみたいですね。音がしましたよ、見に行ってきます。」
アルスが魔王さん(仮)の言葉を遮るようにしてこちらに向かってきた。待てという魔王さんの言葉は無視だ。本当に常識がない男だ。ノックもせずに開けられた扉は聞き耳を立てていた私を危うく吹っ飛ばす勢いだった。
「わ、こんなに近くにいたんだね。危ないよ気を付けないと。」
自分の非を全く想定しない彼らしい言葉だ。あ、もしかしてこれは婚約破棄ムーブか。とかまたいらないことを考えていた私は馬鹿だ。あっという間にお姫様抱っこに抱えられた私はそのままベッドに押し倒された。
「貴様はやはり死にたいようじゃの。」
「ちょっと待ってよ、いくら何でも師匠の前でおっぱじめないってば。ベッドに運ぶのにちょっとバランスを崩しただけで、そりゃあついでにキスの一つでもしてやろうと思ったけど、それだけだよ。それ以上はって!ちょっと!それ本当に本気のやつでしょ!死ぬ!って、僕の魔法のほとんどは師匠の許可がないと使えないのに!」
呆れるくらい変態なアルスはそのまま家の外まで追い回されていった。追いかけて見ていると、す巻きにされて逆さに吊り下げられたアルスが見えた。ほんの一瞬見えなかっただけなのになんてすごい人なんだろう。私も彼女から魔法が習えないだろうか。
魔王さん(仮)はアルスをそのままにして家の中に入ってくると、椅子に座って私にも着席を促す所作をした。改めてみるととてもかわいらしい顔をしている。目がクリっとしていてほんのり赤いほっぺたに透き通るような白い肌、ぷっくりとして小さな鼻、ともすれば薄情にも見える薄い唇も不釣り合いに大きなねじれた角も彼女を彩るアクセサリーだった。
「何をじろじろと見ておる、そちも躾が成っておらんようじゃの。全く国に居ったら居ったで担ぎ上げられるし、人族は躾が成っておらんし。朕は何処へ行けば落ち着けるんじゃろうか。」
まあよい。と話し始めたのは私の分析だった。まず私には全く魔力がないらしい、知ってたけれど。改めて言われると絶望しかないなこれ。しかし、と続くのは私の中に存在する不思議なエネルギーのようなものの話。
光属性の魔力に似ていてそれでなく、火属性のように熱を持ち、月のような色をした何かこの世界では見たこともないエネルギーで私は動いているらしい。ん-心当たりがあるような・・・。でももしそれだとしても人間って誰もがそれで動いてるはずなんだけれど・・・・。
「思い当たることがあるような顔じゃの。ゆうてみよ。もしかしたら朕が力になってやれるやもしれんぞ。我は魔族の中でもそれはそれは知られた学者じゃったからの。」
エッヘンと無い胸を張る幼女のようなもの、多分ロリババアだけどかわいい。わたしはちょっとだけたどたどしく言葉を重ねて、それは電気や雷といった類のものではないかと聞いた。科学が発達していないこの世界では人間が電気で動いているなんて知らなくて当然だろうからね。
電気の概念がないことは無双の手掛かりになるかもと考えていたし。
「デンキとな、それはどういったものかの。とんと検討がつかん。」
私はまず静電気や雷の説明をしたのだけれど、魔王さんにピンとくるものはなかったようで説明が行き詰ってしまった。ここまで通じないとなるとでんじ〇う先生でも呼んでこないとどうにもならない気がする。でもそんなどうにもならないことを考えてもしょうがないから・・・、どうしよう。
「待て、お主は人間、これは人族だけでなく魔族もまとめた言葉じゃな。とにかくそれはすべてデンキで動いておるとそういうのじゃな。しかし朕の中にもアルスの中にもそのデンキとやらは入っておらぬ。もしそれに似たものをあげるとするならば・・・・、それは魔力じゃ。お主の中に魔力がないと知ってもしやと思っておったが、どうやらお主は我々と別の理で動いておるようじゃな。」
え、は?え?この世界ってデンキ無いの?慌てすぎて片言になったけど、え?もしかして転生の神様横着しちゃった?本来なら転生のときに体も作り変えるもんじゃないの?っていうか私この世界で生まれたんだよね?え?赤ちゃんの時の記憶あるよ?どういうこと?
結局そうではないだろうかという憶測のみが行き交うだけだった。彼女は学者らしく仮定だけで決めることはしない。検証とそれの結果が出るまではと答えは先延ばしになった。ていうか私に魔法が使えないのはほぼ確定だから結果なんてどうでもいいんだけれど。
ちなみに魔王さんはチカ・M・ヤホイヤというらしい。魔王さんじゃなくて偉い学者さんなんだってさ。