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アルス村

せっかく用意された馬車を取りに戻る話も出たけれど、目的の村まであと一日くらいで着くというので先に進むことになった。ちょうど半分くらい進んだ場所だったんだよね、馬車なら1日で着く距離だったらしいし。


で、たどり着いたアルス村。そう、アルスが住んでる村じゃなくて、アルスに与えられた村。そういう意味で「僕の村」だった。お貴族様はさすがスケールが違うぜまったく。


アルスはこの辺りを統治する辺境伯家の3男だった。冒険者をやっているのは道楽のようなもので、市井の視察名目で両親から許可をもらったようだ。冒険者ギルドもそれを知っていて気安く接することのできる領主の息子を受け入れているという話。


魔族の師匠がいるところは村から少し離れているということで、今日はこの村に泊まることになった。



―――アルス視点


やあ僕はアルス・スタンレード18歳、辺境伯領を治めるスタンレード家の三男坊だよ。あの日はいつものように近隣の街で冒険者の仕事を片付けて、のんびりしていたところにギルド長から新人の相手をするようにと頼まれた。


相手はみすぼらしい恰好の女の子、貧民窟出身なのかな。それが第一印象だった。でもすぐに彼女がスペシャルだと気づいたんだ。なにせ僕が1年まるまる師匠につきっきりで何とか覚えた絶廻を常時発動していたんだから、きっと師匠にもできないんじゃないかな。気づいたのはクマベアーの後だけどね。


物凄く無口な女の子だったけれど、その理由もすぐに判明した。彼女は師匠と同じ魔族の子だったんだ。一概に魔族っていっても彼らは多様で、おそらくその中でも人間に近い見た目の子だったからここまで無事でいられたんだと思う。師匠なんか絶対に隠せない大きさのねじれた角が生えてるからね。


師匠の場合は薬学と治癒の魔法に秀でていたから地元の人に受け入れられたと聞いた。けれど、彼女の場合は・・・・、そういえばまだ名前も聞いてないや。寡黙で闇をまとうところから取って、ひとまず彼女のことはカノリと呼ぼう。僕の中だけの秘密の名前だね。


話を戻して、カノリの場合は闇滅を使うところから考えるに攻撃魔法が得意なタイプだろうから、僕に出会わなければ早かれ遅かれ討伐隊が組まれたんじゃないかな。みんな魔族嫌いだからね。1000年も前の魔王の話だからそろそろ打ち解けてもいいと思うんだけどね、僕的には。


そのカノリなんだけど、あれは失敗だった。アルコールで前後不覚になるなんてことは今まで一度だってなかったんだけれど、魔族を保護できたという喜びから少し飲みすぎてしまったようで、朝チュンというやつで。下着を履いていなかったってことは多分そういうことなんだと思う。


勿論責任は取るつもりだよ、身分の差から結婚は無理かもしれないけれど、子供が何人生まれても余裕のある生活が送れるような面倒は見るつもりさ。しかしせっかく若い女性とそういうことになるのだったらちゃんと見ておきたかった。僕にそれを教えてくれた侍女は30を優に超えていたからね、僕が15のころだから倍以上年上だったことになる。


それを頼んでいいのかどうなのか、もしかしたらこの日の僕は挙動不審だったかもしれない。手配した馬車を忘れるくらいだからね。そんな折の彼女の言葉が「見てもいい」だったわけで、まあモンスターが出るかもしれないから見るだけということなんだろうけれど、それがしたかった僕はしっかり堪能させてもらったよ。素晴らしかった。


もしかしたら彼女は他人(ひと)の考えていることがわかるのだろうか、もしかしたら彼女の種族がそういったものなのかもしれない。だとするとしゃべることが得意でない理由になる。なにせ同じ魔族の師匠は物凄くおしゃべりだからね。


もしかして僕の下心が丸裸・・・、でもそれも受け入れられてるならまあいいか。



――――パム視点


漸く一人で寝ることが出来た。出身の村を出てから初めて落ち着いて寝ることが出来るかもしれない。おかげであの時の夢をゆっくり考察することが出来た。あのときミルコは「親分に」って言ってた。夢のミルコは山賊のリーダーだった、だとすると夢はやっぱり夢で私の願望が、やさしい盗賊さんをミルコにしたかったのかもしれない。


「ミルコ大きくなったんだろうな。」


同じ村に住んでいたはずなのにミルコとは水切りのあの時と数えても数回しか会ってない。私が出不精だったこともあるけれど、ミルコのために用意した食事を何度か無駄にした。なんだかんだもう5年くらい見てなかったかもしれない。


私が住んでいた村は別名、というか蔑称かもしれないけれど「妾村」と呼ばれていた。必ず貴族の自治州の三つ以上が重なった場所にあって、貴族専用の娼館街のようになっていた。必ずというのは同じような村が複数存在することを知っているから。


ミルコの母親が妾だったならこれだけ近い村に貴族がよこさないわけが無い。まあ貴族は横暴だから特定の相手だけ相手をすればなんてことはないし、この場所を嫌って来ないという選択も考えられるけれど。


妾村で過ごしていれば少なくとも子供が飢えることはないし、私みたいに商会への伝づくりに利用されたとしても食うに困らない生活が保障される。全く人間として扱われていないけれど。子供を政治の道具と考える貴族たちはこれでも自分の子供を気にかけているつもりらしい。まあ自分の子供とは限らないんだけど。


でもそうか。夢のミルコは苗字を持っていたし、それがストレージなんてものだから私の夢以外考えられないか。アイテムボックスを自在に使いたいという願望が見せた、きっとそういうこと。


▷また夢を見た。


最初に言っておこう、この夢は私の考察をもとに裏付けしたものだ。多分。


まずミルコの母親が妾村に来なかったのは考察のとおり娼婦になりたくなかったから。そもそも私の母と違い、ミルコの母は望んで妾にされたわけでなく貴族の横暴で手篭にされただけなのだからさもありなん。


次にミルコが言った「親分」だが、山賊として活動をしていた彼らをもっと大きな盗賊集団が吸収したらしい。ミルコらはその盗賊の中で小間使いのように扱われていた。ちなみに「親分が壊す」の意味は薬でも使うのかと思ったけれど、嗜虐(しぎゃく)趣味のサイコ野郎らしく物理的に壊すらしい。特に美人をボコボコにすることを好んだようだ。


ミルコらはそんな彼女らを手当てしていたのだけれど、また親分に壊されるために治療をすることに心を痛めていた。かといって親分に逆らえば何の躊躇もなく殺されることがわかっているので、彼女たちを逃がすことも殺してやることもできなかった。


「おい、幹部のカッペーニさん親分に逆らって死んだらしいぞ。」


「カッペ・・ああ、あの方言がきつい人か。なにしたんだ。」


「売り物の女に手を出したらしい。」


「売り物って?親分が全部壊しちまうだろ。」


「一応売る予定なんだよ、売られた女は一人もいないけどな。」


親分の気性を顕著に表すナイスな会話だ、さすが夢。元冒険者でB級まで行った親分に抵抗できる存在は一人としていなかった。もともと冒険者にもなれないような連中が身を崩したというのが殆どなのだから、それはそうなのだろう。


親分の名はサイカス、元B級の冒険者で魔法も剣術もそれなりに使えるらしい。元は名のある冒険者寄合(クラン)に所属していたらしいが、裏でやっていた悪行がばれて追い出された。そこで更生すればよかったのだけれど、自由になった彼は近くの妾村を占拠するとそこに居た孤児たちを集めて王様を始めた。


貴族の持ち物に手を出したのだから当たり前に討伐隊が組まれた。勿論抵抗したサイカスだが流石に多勢に無勢、逃げた先の盗賊砦を占拠して頭に収まったという流れ。


妾村では、特に年配の女たちは子供にやさしい、取り上げられた子供と会うことは二度とないのだ。それを知っている孤児は無理をしてでもこの街を目指す。きっと私を邪険にした母だってそうなるのだろう、失って気付くという典型が日常風景だった。


だから妾村には子供がとても多くいた。


▷目が覚めた。


「夢にしては整然としすぎているけど、なんでミルコばっかなの?てかアイテムボックス全く関係無いんだけど。ミルコの名前だけなんだけど!」



――――師匠視点


今日は不肖の弟子が訪ねてくると予言で出た日じゃ。適性がいまいちな技法を一年かけて習得したのだけは褒めてやってもよいが、それ以外はダメ谷ダメ男くんじゃ。同じく適性のない回復魔法は本当に全く覚えんし、調合をさせれば乳鉢を割る。おそらくあれは人族の中にまぎれておると言われた伝説の脳筋族の末裔じゃろう。攻撃方面の魔法ばかり覚えおってからに。


しかし遅いのう、もうすぐ今日が終わってしまうのじゃが。予言で出たということは世界のターニングポイントにおるというのに、あのばかたれは何処で道草をくっておるのじゃ。


この日結局あのアホアルスケベはこなんだ。あとで聞いた話によると本当にスケベなことをしていたようじゃ。まったく度し難いスケベじゃ。今度村の連中に会った時に広めてやろうかの。


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