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アイテムボックスはダンジョンだった

「あ」会話

『あ』通常でない会話

(あ)解説

「(あ)」心の声。小声

「あ――」途切れた会話or続くが端折ったセリフ

|()るび失敗

・・・()


でお送りしています。

ダンジョンコア、それは言葉の意味する通りダンジョンの核となるもの。


最初はただの石、そうみえる。


それは自然にできた洞窟やモグラの穴、木の洞などに落ち込むと定着して近くにいる動物を吸収しはじめる。


それらの動物から魔素を吸収して少しずつ大きくなり、吸収した動物の形を記憶してモンスターとしてダンジョンに配置するのだ。


これがひとたびダンジョンになれば吸収という機能を副次的なものに安定させて、ダンジョンを形成することになるのだが、こうなって漸く生物が触れられるものとなる。


莫大な魔力を内包していてもそれらはダンジョンが作られる異空間にあるのだから、魔力検知の法を持っているものですら知られることはない。だから人間がそれらを手にすることはできない。


そのはずだった。


これは常識が変わる物語。






はじめましてパムと申しますです、15歳ですはい。物語ではよく見かける剣と魔法の世界の転生者というそれです、はい。そんな物語の主人公は陰気なキャラがいきなり覚醒とかするみたいですが、私はそうはならなかったみたいで、転生なのに陰キャやってます、はい。


子供のころはね、新しい世界の母や父・・・、いや父はどうやら居なかったようですが、愛情を・・・こめてもらった・・はずです。何せ今から富豪に嫁ぐんですから、・・はい望んでいません。お相手は40ほど年上のおにい、いえおじさんですね。


どうにかして馬車から逃げ出そうとしているのですが、この世界の乗り物は居住性が悪くて乗っているだけで必死なのです。停まってすぐとかでも多分これ動けないと思います、はい。そのうち知識チートで馬車道に革命を起こそうと思います。


物語ならこの辺で盗賊に襲われたりするところなのでしょうが、現在のところそのような兆しもなく順調に進んでいるようです、はい。まあ盗賊とか怖いですからね、物語みたいに相手を手玉にとってとかありえないと思います。


「盗賊です。荷馬車の荷は絶対に死守しなさい。御屋形様の土産もあるのですから。」


あ、怖いとか考えたのがフラグだったのでしょうか。てかこの馬車荷馬車なんですね。とすると字面から見るに土産は私でしょうか。会話の節々にそれが私だと勘づくことは今までもありました、はい。嫁いだというより売られたんじゃないかなとはちょこっと思ってました。


やっぱりかー。勘違いしてすみませんでした。この物語の主人公が私なんてことがあるはずがないですよね。きっと私の全然知らないところで大活躍してるんでしょうね、助けてくれないかなー主人公さん。


「げへへ、なかなか別嬪さんじゃねーか。親分に壊される前に味見しておこうぜ。」


げへへなんて本当に言うんですね、ゲスを極めた方のようです。なんでしょう、これからどうなるのかわからないのに馬車がひっくり返らないでよかったとほっとしている自分がいます。もしそうなってたらいくら固定されているとはいえ荷物に潰されてれましたからね、はい。


乱暴に馬車から引きずり出されるとそこは地獄でした。停車中に優しく話しかけてくれた冒険者さんが血まみれで倒れています。私は心の中で「ヒール」と何度も唱えましたが、傷が治る様子はありません。私がこの世界の異物だからでしょうか、誰もが使える魔法が私は一切使えないのです。


この世界は前世に本で読んだ想像を形にする定義(クリエイトマジックシステム)が採用されているようで、想像できるものは凡そ魔法として現れるのですが中空にいきなり火が現れるとか水が現れるとか、そんな常識を私は持ち合わせていないので無理ですもん。あ、馴れ馴れしかったですかね、すみません。


それより今はこの状況を打破しなければ貞操の危機なのでした。私としてはさっきのヒールが効いて冒険者さんが助けてくれるのが理想なんですが・・・・・、無理そうですね。じゃあ次点として御者さんか商人さんは・・・・・。やはり私が覚醒するパティーン、パティーンとか言っちゃったなうい。


「ふぁいやーぼーる」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


やっぱり無理のようですね、どうしたものか。


ちなみに今は木陰というか街道から外れて森のような場所に引き込まれているところ。


「どこのお嬢さんか知らんが、多少は主張した方がいいぞ。ひとまずここに隠れていろ、後で迎えに来てやるから。勝手に動くなよ、この辺りは魔物が出るからな。」


お嬢さんと聞いてつい後ろを振り返ってしまったけれど、ここには私とこの盗賊さんしかいない。私は十人並んでも見分けがつくかわからない黒目黒髪のザ普通少女のはず。実際村では目立たなかったし、母親に出先で忘れられたこともあるくらいだ。いやこれは例えがおかしいか。


ふと自分の腕が目に入る、白いワンピースにフリフリの上着。なるほどそういえばお化粧してもらってるんだった。どうやらこの盗賊さんには私がいいところのお嬢さんに見えるらしい。


「魔物避けだ、持っておけ。」


盗賊さんは私を(ほら)に押し込んで適当な枝で偽装をしながらそう言った。いい人なのだろうか。とても「げへへ」なんて言った人と同一人物とは思えない紳士的な行為だ。信じてもいいのだろうか、何せ相手は盗む賊さんだ。


人目がない私は強いのでこっそりとその場所を抜け出すことにした。盗賊さんは信用できないけれど私が魔物に襲われても誰の得にもならないから、きっと魔物避けは本物だと思うし。


いざ、異世界チート人生の一歩を歩みだすのだ・・・・・・。


嘘です、やっぱり怖いです。小さいころに魔物でも最弱の部類であるウサノックという頭突きで頭部の禿げたウサギのような魔物を見たことがあるんだけれど、村で威張ってたおじさんが必死の形相で村に逃げ帰ったことがあるんだ。めっちゃ怖かったの。


ウサノックはウサホーンの幼体でさらに進化するとウザビッチとか凄い名前の進化をするらしい、名前はちょっとうろ覚えだけど。ちなみにウサノックは体長50センチから1メートルくらいの大きさで、村に来たのは70センチくらいだったって聞いた。


蹲って膝を抱える私はふと何かに触れた。


それはきれいな石だった。宝石のように輝いていたわけではないし形状が整っているわけでもない。それでも私はこの石をきれいだと思った。いや、整ってはいた、でもそれは投げ石用として整っているのであって、それをしないものからすればやはりただの石だった。


私がそれを見たとき「あ、アイテムボックスだ。」と能天気に定義した。この世界で私はまだアイテムボックスを見たことがない。村から出たことのない私が決めつけるのもなんだがきっとこの世界には、アイテムボックスやストレージなんてものはないのだと諦めていた。


だけどもし魔力のない自分でも、アイテムボックスさえあればどんなチートでも覆せる。そう信じて妄想し欲した。子供のごっこ遊びに近かったのかもしれない。私はこの小さな宝物を内腿の隠しポケットに大事にしまい込んだ。


多分この時に私は何かを見てそう思い込んだのだけれど、何故かその記憶は霞のように記憶に混ざって覚えていられなかった。覚えていられなかったのだから本当にあったのかわからない。でもそれは確かにあったのだと体の芯が訴えかけてくるのだ。


「ミルコ元気かな。」


ミルコとは貧民街の男の子で私に投げ石を教えてくれた子だ。母親が妾である私は友達がほとんどいな・・・。見栄を張りました、全くいませんでした。前世の知識を利用して一人遊びをしていたところ、村の中央に流れる川に向かって石を投げる少年を見つけた。


それがミルコだ。


どうも彼は私と同じく暇を持て余していたようで、誰がどう見てもボッチだった。だから私は話しかけた。ボッチはボッチに強いのだ。かけた声が「おい」だったのは今でも反省している。何せ返されたのが「誰?」と庇護欲を刺激する言葉と表情だったから。


まず宣言しておこう、私はショタじゃない。近くの街の貧民窟で育つ彼らは栄養が足りずに成長が遅い、そしていつでも虐げられているから言葉や表情は卑屈になるか怯えるかの二択だ。


だから彼も私と同い年くらいか年上だったのかもしれない。貧民窟では暦を理解しないものの方が多いのだ。だからというわけではないけれど、私が母性本能というやつにやられてしまったのは仕方のないことだと思う。だから遊んでやることにした。


教えたのは水切りだ。なるべく平たい石を探して回転を掛けて投げるのだ。前世での最高は3回だったけれどここは異世界だ、チートの力を使って・・・・・ダメでしたね。ミルコの方はというと、見る見るうちに記録を更新して行って最後には逆に投げ方を教えてもらいましたよっと。




「・・・・おなかすいた。」


気付けば辺りはすっかり日が落ちて月の光のみがわずかに自分の存在を教えてくれる。盗賊さんは来ない。目的の町まで10日ほどかかる予定だったので、もしかしたら馬車に何か食べ物が残っていないだろうかと洞を這い出ることにした。


「魔物が怖いのに食欲で外に出るのか。まあ三大欲求だし仕方がないよね。」


場所はそれほど離れていなかったはずなので、たまに踏む枯れ枝の音におびえながらもなんとか街道に出ることに成功した。馬車も見えた。血みどろだった冒険者さんたちはいない、御者さんたちも馬もだ。荷物はなぜかほとんど手を着けられておらず、硬いパンと水筒の水で一息付けた。


塩っ辛い干し肉を咥えながらこれからのことに思いをはせていると、そのまま馬車の中で眠ってしまったらしい。肌寒くて目を覚まして追われている身だということを思い出すと、まだ暗いうちにこの場所を離れることにする。


頭の中で「収納」と唱えると5台の馬車が次々にその姿を消す。誰かにそうしろと教えられた気もするし、前世の物語の記憶かもしれない。クリエイトマジックシステムならばこれくらいはお手の物のはずだからあまり深くは考えなかった。


手荷物は魔よけのポプリのみ、盗賊さんにもらったものだ。


「馬車の進行方向に行けば知らない町。戻る道は元の村。心残りは・・・・ミルコくらい?ならいっか。」


馬車が消えて広くなった道は自分の行き先を示しているようで、弱気な心を大きくしてくれた。


私は今、初めて異世界の道を歩き始めたのかもしれない。


ミルコの話とかいる?とか言わないでください・・・・唯一のお友達なんですから。

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