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8 冒険者登録


「町」


「町だな」


 モルの村を出て2日後。二人はあの村の住人が買い出しに来る町カルヴァニに到着した。道中は魔物が出ることもなく、比較的スムーズに来れたと言えよう。

 そうして着いた町カルヴァニはそれなりに賑わっていた。ルートワード国からカザンガ同盟都市に行くときは大概この町に寄る。逆もまた然り。当然、様々な人が行き来することになる。


「まずは冒険者登録だな。

 で、それが終わればやっと買い物もできるってわけだ」


 モルの村長から、ギルド登録用紙はもらってきている。熊退治も冒険者の活動履歴として追記してくれたらしい。あとはこれをギルドに見せれば、ギルドに登録した冒険者である証明のカードがもらえるという仕組みだ。このカードはある程度の身分証明になる。虚偽の登録をしたとばれたら文字通り袋叩きにあうと知れわたっているのでそんなことをするバカはいないからだ。

 ギルドカードは魔法による書き込みしか受け付けない不思議なカードだ。直近一年分の依頼達成歴を勝手に計算して色が変わる仕組み。困難な依頼をたくさん達成していくほどに最初は白かったカードが銅・銀・金・白金へと変化していくらしい。白金にまで上り詰める人間はほとんどおらず、金色のカードを持っているだけでも冒険者に一目置かれる存在になれるという。


「終わったら調理器具買おう」


「それもあるが野営用の道具も買おう。あとお前さんのリュック買うか。なんか背負ってる方がなにかと都合いいだろ」


 が、冒険者がなんたらということに関して、二人はあまり興味がない。冒険者を生業としている人間の中にはカードの色を変化させるために血眼になっている奴らもいるので申し訳ないと思わなくもないが。二人にとって冒険者とは単に生活費を稼ぐための手段なのだ。そもそも、人目を集めたくなんてないし。

 のんびりと買うモノについて相談をしながらギルドへ向かう。

 朝一のギルドは依頼の奪い合いが発生すると聞いたので、普通の冒険者とは違いは少し遅い時間に到着する。ちょうど混雑タイムが終わったようで、ギルドはそれなりに空いていた。


「すまない、冒険者登録をしたいんだが」


「はい。二名様ですね」


「あ、いや。登録するのはこの子だけだ」


「了解しましたー」


 受付嬢はにこやかに説明を続けてくれる。

 一瞬だけ、ノアは不思議そうにベンを見た。それにはあいまいに微笑んでおく。


「こちらが冒険者登録証になります。必須事項を記入していただきたいのですが、代筆は必要でしょうか?」


「いや、俺が代わりにしておくよ。あと、ここに来る前にモルの町で仮登録はしてるんだが、その場合は…」


「あら、そうなんですね。では仮登録証の提出と…あとは名前部分だけで結構です」


 この国では名字を持たない人間も少なくない。そのため、簡単にノアとだけ書いてやることは終わる。


「文字も覚える。…本は売ってる?」


「あるにはあるけど高価なんだよなぁ。お前さんならすぐ覚えるだろうからちゃんと教えるよ。

 しかし、話すことばっか考えてて書くこと考えてなかったよ、すまんな」


「ん、平気」


 今はこうして共に過ごしているが、ノアが独り立ちすることもあるかもしれない。

 その時に読み書きができたほうが便利なのは当然のことである。


「はい、登録は完了です。

 でもすごいですね。保護者付きとはいえ熊退治しちゃったんですか?」


「はは、この子大活躍でしたよ」


 嘘は言っていない。より正確に言えば、この子のみの活躍で熊退治をしたのだが、それは別に言わなくてもいい話だ。


「登録完了ついでに素材の買取もしてもらいたいんだが、いいか?」


「はい、大歓迎ですよ。素材買取はあちらのカウンターでご案内しています」


 通常であれば冒険者ギルドの規約の説明などの手順があるのだが、その辺りはすっとばされた。保護者が既に説明しているだろう、と思われているのだろう。

 ノアを連れて指定されたカウンターで一言二言かわすと、すぐに素材買取のための部屋に通された。わざわざ別室で買取を行うのは、守秘義務を守るためだ。

 冒険者の中には人様の獲物を横取りする連中も少なくない。買取カウンターで大金を渡された直後強奪される、ということもなくはないのだ。そのため、何を売ってどれくらいの金額を得たかというのを隠すためにこういうシステムになったらしい。


「一応確認しておくが、ここで誰が何を売ったというのは内緒にしてもらえるんだよな?」


「ギルド内での情報共有はありますが、冒険者の皆様にはご自身が言いふらさない限り知れ渡ることはないと思いますよ」


 冒険者の中でもこんな確認をするのは実力以上の拾い物をした場合だ。

 担当者は慣れているのか、丁寧に対応してくれる。


「そりゃよかった。売りたいのはこれだ」


 ズルリ、とアイテムボックスからホーンドボアの素材を出す。


「っ!?」


 受付嬢が驚いて目を見開く。

 それでも口に出したりしないだけ、彼女は優秀だとわかった。


「内緒にしてくれよ。まぁギルドのお偉いさんに言うならわかるけど」


「もちろんです。査定に暫くかかりますのでこの部屋でお待ちください」


 そういうと、担当者は素材を置いたまま更に奥の部屋、おそらくはギルド職員たちが働くスペースに小走りで向かっていった。


「…どうしたの?」


「ノアにとって全然脅威じゃなかったあの魔物だけどな。そもそも魔物ってだけで、一人や二人で戦うもんじゃないんだよなぁ」


「…目立っちゃったの?」


 どうやらノアは心配してくれたらしい。それでもうまい言い訳を考えつかないので黙っていた、という感じだろうか。気遣いが嬉しくてつい頭を撫でてしまう。


「言いようはあるから大丈夫。

 あと、魔物退治だけが原因じゃないさ」


 恐らく職員が報告に向かったのは、ベンがアイテムボックス所持者だからだ。

 アイテムボックスはかなりの貴重品で、しょっちゅうダンジョンに潜るベテラン冒険者でも所有できないまま引退することが多い。そして、その特性上いくらでも犯罪に使うことができるため、持ってる人間は多少警戒されるものだ。


「ノア、お前さん設定覚えてるな?」


「うん」


「ならよし。ま、気楽にいこうぜ。実際なんも悪いことしてないしなぁ」


 そんな会話をしていると、先ほど案内してくれた女性を筆頭にぞろぞろと何人か現れた。妙に強そうな男もいる。このギルドの用心棒、というところだろうか。

 一応非戦闘員っぽい人もいることから、事を構える気はなさそうだが。


(実力行使するなら非戦闘員いたら危ないもんなぁ。下手したら人質にされちゃう。それとも彼女強いのかな?

 まぁ最悪の事態にならないように頑張るしかないかー)


「買取を行う前にいくつか質問がある」


「はいはい、どうぞ」


 ヘラリと笑って見せる。こういうのは何事もハッタリが大事だ。実際騒ぎを起こせばこれからの金稼ぎの手段がなくなるため、穏便にすませたほうがいい。

 あからさまに警戒しているおっさんをよこすあたり、もう少し腹芸が出来たほうがいいんじゃないかな、と暢気に考えるベンだった。


(目立たず穏便にお金ほしいだけなんだがなぁ…)

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