6 人里までの道と魔法
「とりあえずこのまま北上してルートワード国に行こう」
ガリガリと周辺の地図を地面に描いてノアに見せる。おおざっぱにだが、これで辺りの地理がつかめるはずだ。記憶の中にある町の情報も書き足すものの、問題は現在地がよくわかっていないこと。まぁ歩いていればおいおいわかるだろう。
「ただ、人里に出るまでは結構かかるから、その間食料も採取していかないとダメだな。
そうだなぁ…のんびりあるいて3日くらいか?
道中で木の実とか食べられるもの採取しつつ、魔法についてしっかりやってみようか」
「ん、魔法、楽しみ。
木の実やキノコなんかも、毒、判断、できる」
「そういう判別能力って言えばいいのか? 凄い能力だよな。魔素もわかるんだろう?」
「うん。前の世界にはない物体。とても、不思議」
トコトコと歩いて北上しながら、魔法の説明を始める。
「魔素は魔法の元だ。
それが感じられるっていうのがすごいんだよなぁ…もともと反則級の強さの上に魔法も操れたらやばいことになりそうだ」
「悪用、ダメ絶対」
「お、おう。その辺りは頼んだぜ。
んで、だ。基本はさっき話した通り。魔法には6種類あって、どれかを使いやすいようになってる。
それで肝心の使い方だが…」
この世界ではざっくり言うと、魔素にしたいことのイメージを伝えれば魔法が使える。
その補助として詠唱がある。発射合図とでも言えばいいのだろうか。おそらく詠唱をしなくても魔法はできるし、詠唱を適当な言葉で代用しても魔法はでる。しかし、詠唱を使った方が安定するから使っている。
詠唱で魔法の規格を整えている、というイメージを伝える。
すると、おもむろにノアが右手を前に出した。
「水、出て」
言い終わると同時に、ノアの右手より数センチ前から水が出現した。現れた水は重力に従って地面にボタボタと落ちる。
「…理解力半端ないな。
しかし、学説はマジだったかぁ。詠唱は単なる規格で形に囚われるものじゃないって最初聞いたときは驚いたもんだが…」
「詠唱、難しい。この世界の古語?」
「今は使われていない古代言語がベース、と言われているな。
そっか、ノアは俺が今話してるグリムニルド大陸の公用語しかわからんもんな。まぁ俺も古代言語とかさっぱりわからんが」
「わからない、使える、なぜ…?」
「なんでだろ…?」
言われてみて気づく。何故、魔法を操るのに古代言語で詠唱するのか。
幼児のように「なんで?」や「何?」を連呼するノアと話していると、ベンの中の当然が崩れていくような感覚がある。それもまた面白い。
「俺にはさっぱりわかんないけど…なるほどなぁ。魔法国はこういうことを研究してんか。
実際魔法使えてるのに何を研究するんだ? と思ってたんだが」
「わからないがわかる、面白い」
魔法が使えるということが楽しいようで、ノアは手のひらから様々なものをだして遊んでいる。揺らめく炎だったり、風の渦だったり。
魔素が見える時点である程度予測はしていたが、ノアは火水土風の四属性に適性があるらしい。本当に規格外だ。これで闇と光も使えるのであれば、かなり珍しい全属性持ち。それこそ魔法国で研究したいと願い出れば重宝されるだろう。
「んじゃあお前さんは学者向きなのかもな」
「…ノゾミの願い、叶える、先」
「わかってるよ。
魔法使えるのが楽しいのはわかるが、やりすぎるなよ。魔法使いすぎると苦しくなるからな」
「なんで?」
また、当たり前だと思っていたことに「なんで?」を突き付けられる。
当然だと思っていたことを説明するのは結構難しい。思考するのは嫌いじゃないからいいけど。
「なんでって……なんでだ?
動き回ると疲れるように、魔法使いすぎると疲れるのは普通…だよな?」
「魔法、自然の中の魔素、使う。人間の中、魔素、そんなにない。
何故疲れる…??? 要検証…」
「ほどほどにしてくれよ。おじさんか弱いから不測の事態でノアかついで走る、とか3分でバテちまう」
「…3分…もつ?」
「疑わしい目で見るな! 3分くらいならもつわ! …たぶん」
普通の少女一人くらいならいけるとは思う。が、ノアの本体である鋼の翼はどうだろうか。金属だけあってとても重そうだし。
そんな会話をしつつ、木の実などの食べられそうなものを見つけたら足を止めて収穫する。
彼女の翼はある程度の伸縮が可能で収穫の際にとても役に立ってくれた。
「…外、調理器具がない。不便」
「そりゃあな」
「美味しいもの…食べたい。
折角、肉と果実あるのに…」
「肉と果実?」
肉を甘酸っぱくして食べるのか? と疑問に思う。
肉は塩で味付けするのが一番うまいと思うのだが。
「材料ある、道具ない。残念」
「人里行ったら買うか。なんだかんだお前さんの作る料理も面白そうだしなぁ。
しかし、それをするにしても問題がある。…なんだと思う?」
ちょっとここでクイズを出してみる。
ノアは頭が悪いわけでも察しが悪いわけでもない。ただただ、語彙力が足りないわけだ。それを補うためにこうやってとりとめなく会話をしているわけだが。
バリエーションがなくなってきたので苦肉の策、みたいなものだ。
「人里で、目立つ。買い物、お金ない」
「正解。お前さんの翼の問題を抜きにしても、こんなおじさんと可愛い女の子ってだけでもまぁ人目をひく。
で、金はないわけではないんだが、少なくとも辺境では使えないんだよな…。
てことで、人里についたらとりあえず何でも屋をやろうと思うんだがいいか?」
「何でも屋?」
「あぁ、冒険者ギルドっていうのに登録して、冒険者になる。そうすればホーンドボアの牙とかが売れるんだ。それで一晩の宿と食事くらいは賄えるはずだ」
「冒険者? 何でも屋?」
「多少の保証がある旅人ってところだな。あちこちで困りごと…例えば畑を荒らしにくる害獣を退治したり、薬草採取の代行の依頼を受けるやつらの総称だな。時期によっては収穫期の手伝いとかもあるから、依頼があれば何でもやって小銭を稼ぐわけだ。で、その依頼を受ける場所が冒険者ギルドだ」
「お金ないと美味しいごはんが食べられない。頑張って稼ぐ」
「…頑張るのはいいが目立ちすぎないようにしてくれると嬉しい」
「目立つは嫌?」
ベンは困ったように頬をかく。
いっそ目立ってしまったほうがいいのかどうなのか。判断がつけづらい。
「目立たない方が、今後の選択肢が増える…と、思う。だが、状況によりけりだな」
「わかった。まずは目立たず人里に溶け込んで、美味しいもの、食べる。
ベンお話して」
「もうなんかこれ吟遊詩人ばりに物語聞かせた方がよくないか?」
苦笑交じりに返すが、彼女と話すのは悪くない。
目に見えて言葉がスムーズに出てくるのを感じるからだ。
(娘の成長ってこういうもんなのかね? 娘どころか嫁もいねぇけどな)
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