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1 おじさんと少女の出会い

新連載はじめました!



 とある世界のとある国。そしてその端っこらへんの国境付近。

 鬱蒼と繁った木々の隙間にある、少し拓けた土地で、一人の青年…いや、おじさんの命が尽きようとしていた。


「クッソ…」


 伸びた無精髭のせいでわかりにくいが、年の頃は30半ばほどで顔立ちは悪くない。身に纏っている皮鎧も泥などで汚れているが上等品のようだ。その道のプロである奴隷商人ならうまく売りさばきそうな人物である。オジサン萌えというジャンルもあることだし。

 ※ただしイケメンに限る、というのはどこの世界もおなじである。

 そんなおじさんは誰の耳にも届かない悪態をついて、迫る脅威から少しでも遠ざかろうと地面を這っていた。

 後ろから、ドドドドという地響きが聞こえてくる。


「やっぱ目眩ましにゃひっかかってくれねぇか」


 手持ちの道具で罠を張ったのだが、この分だと罠だとバレてしまったらしい。魔物の癖になかなか知恵があるようだ。どうにかして逃げようとするも、そもそも体力が尽きている。おじさんはここ数日、魔法で生成した水だけでしのいできたのだから無理もない。


「こんなとこじゃ終われねぇってのに」


 地響きのする方向を見れば、何度となく肩透かしをくらって怒り狂った猪のような魔物。魔物とはこの世界で、魔素に狂わされ積極的に他の生命体を害そうとする生命体の総称だ。

 その魔物は、ようやく追い詰めた獲物を見て、機嫌良さそうにブルルルと空気を震わせた。


 魔法を使おうにも、道具を使おうにも、体力が尽きて動けない。

 もはや、詰んでいた。


 それでも、おじさんは悪あがきをしようとむき出しの土をつかむ。せめて、目潰しでも、という儚い抵抗だ。目潰しをしたとしても、逃げる体力などありはしないのに。

 そうして、握った土くれを放り投げようとした刹那。


 ビィイイイイイイーー


 なんの音ともつかない音が鳴り響く。

 ただ、酷く耳障りで警告音のようなそれ。その音の発生源を突き止めようと辺りを見回す。

 そして、気づいた。

 おじさんと魔物の間の空間に、亀裂ができている。


「は? なんだこれ…」


 空間に亀裂、としか言い様のない不可思議な現象だけでも驚きなのに、その亀裂から何かがゆっくりと出てきた。

 最初に見えたのは、鋭い剣のような金属。それがゆっくり上下に動き空間を縦に引き裂く。その間から、また別の金属がその縦に裂かれた空間を横にこじ開けた。金属のように見えるのに、その動きはまるで触手のようだ。


「な、なんだぁ!?」


 今まで見たことも聞いたこともない光景。

 これを「魔王降臨の瞬間」と言われれば、一も二もなく信じていただろう。


 けれど、その空間の裂け目から出てきたのはーー。

 鋭い剣のような金属の本体は、決して魔王とは言いがたい容貌のものだった。


 スポン、と思ったよりも軽い音と共に、本体が転がり出てくる。

 次いで、耳障りなビィイイという音も止んだ。


 残ったのは、空間の裂け目から出てきたモノと、それを間抜け面で見つめるおじさんと魔物。


 出てきたのは、左肩から金属の翼を生やした10歳前後の少女だった。

 艶やかな黒髪は、日光を反射して紫にも見える。目を閉じたまま大地に降り立った彼女は、唇を動かして何かを呟いた。


『大気ーー未知の物質確認。

 足場ーー未知の物質確認。

 毒性反応なし。生体に影響なしと判断。

 活動、開始』


(なにか喋った?

 しかし、この大陸の公用語ではない。他の民族のものでも少しは聞き覚えがあるはずなのに…)


 そんなおじさんの混乱をよそに、彼女はゆっくりと目を開ける。

 その瞳は暗い赤色で、少女の風貌にしっくりきた。しっくり来ないのは、異形とも思える肩から生えた鋼の翼のみ。

 鋼の翼はなおも周辺状況を確認するかのように忙しなく動いている。まるで、少女とは別の意思をもった生命体のようだ。

 やがて、目を開けた彼女はゆっくり周辺を見回し、また聞き覚えのない言葉を話した。


『人型生命体、猪型生命体を確認』


「き、きみ…」


 とりあえず話しかけようとしたが、おじさんよりも先に魔物が動いた。突然現れた異形のものが獲物を横取りしようとしていると思ったか、それともあの鋼の翼はおいといて幼い少女の方が肉が柔らかいと思ったのか。

 どちらかはわからないが、魔物はブオオオオといううなり声をあげて少女に向かって突進していく。あの魔物の突進力は、とても小さな少女に受け止められるようなものではない。大の大人であってもまともにくらえば内蔵破裂するシロモノだ。


「あぶない! 逃げろ!」


 有らん限りの力を振り絞っても、叫ぶことしかできない。

 己の無力さを噛み締めながらも、そうせずにはいられなかった。


『猪型生命体、敵対意思を確認。迎撃。

 人型生命体、言語を確認。解析』


 突進してくる魔物に対し、少女はとても冷静だった。逃げろという言葉も、恐らくは通じなかったのだろう。

 このままでは、食われる。いや、轢き殺されてミンチに…。

 そんなおじさんの予想は、大きく外れることとなった。


 少女に向かって突進する魔物。二つの影が交差した瞬間、魔物の首がゴロリと落ちたのだ。


「…は?」


 少女の方を見れば、先ほどと変わらない無表情。

 しかし、その左肩から生えている金属の翼は血にまみれていた。


 少し遅れて、ズズンという音とともに地面が揺れる。首を落とされた魔物の体が、バランスを崩して地面に倒れ混んだのだ。

 この状況を見るに、彼女があの魔物を一撃で屠ったことになる。


「どうなってんだ?

 俺はハラヘリすぎて幻でも見てるのか?」


『音声認識。言語パターンを予測』


 少女は、そのさくらんぼのような唇から、また意味不明な言語を発した。そして、トコトコとおじさんの方へと近づいてくる。その姿からは、魔物を一撃でのしたとは考えられない。歩く姿も、とても無防備だ。


「君はいったい…」


 あまりの非現実的な光景にうまく言葉がでてこない。


『パターン収集』


「○×◎□◇□◇◎□」


「えっ!? いま何て言った?」


 先程よりは言語として認識しやすい音になった、気がする。思わず聞き返して見る。

 空腹と体力の限界のせいか、はたまた危機を救われたせいか。すでに彼女への警戒心は薄れていた。

 数度同じ問いかけを繰り返す。


「ワタシ コトバ ワカル?」


 小首を傾げるジェスチャーとともに、そう言われたときは少しだけ感動してしまったほどだ。


「あぁ、わかる。助けてくれてありがとう。

 俺はえーと…ベン。

 ベンというんだが、君は?」


 こちらもヘトヘトの身に鞭をうって、ジェスチャーを交えてコミュニケーションをとる。


『意思疏通確認。このパターンで言語を検証・構築』


「アナタ、ベン。ワタシ、ノア。アリガトウ」


「ありがとうはこちらの台詞だ。お陰で命が助かった」


 一時は死を覚悟したが、彼女のお陰でどうにか永らえたらしい。それにしても、彼女はいったい何なのだろうか。

 ベンとノア。

 この二人の二人の出会いが、この広い大陸のほんの一部分を少しだけ揺るがしたり揺るがさなかったりする。


 

閲覧ありがとうございます!

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