アイスクリームに寄せて
待ちに待ったアイスクリーム作成道具が遂に完成した。
最初は単にバターを攪拌するための道具を利用するつもりだったが、問題は大きさだった。
なんといってももともと業務用のバター作成機、アメリアが抱き着いても手が回りきらないほど大きい。そのため中に入れるミルクの量も膨大なものとなり、さらにそれを固めるための雪を用意するとなると、いくらこのあたりに大量の雪が積もるといっても相当な重労働を覚悟しなければならない。
その上に、氷の温度を下げるための塩も大量に必要となる。
どう考えても大きさを変えざるを得ない。
さらに形状もひと工夫となると、まあ準備にいろいろと時間がかかるのはやむを得ない。
アイスクリームが固まってくるとそれを撹拌するための道具もある程度頑丈に作らなければならない。それを考えれば、冬が終わる前に何とか完成したのは慶賀すべきことではある。
いそいそとアイスクリーム用のミルクや卵、そして砂糖と香り付け用のジャム各種を用意したアメリアはまず材料を測り混ぜ合わせるところから始めた。
その間にキャロルが桶いっぱいの雪を外で集めていた。
毛皮の縁取りのある羊毛の分厚いコートに革製の防水性のある手袋、首元には羊毛でできたスカーフという完全装備でシャベルでザクザク集めていく。
雪かきという作業は久しぶりにやると結構な重労働だ。
この体になってからは初めてのことだ。
キャロルは額の汗をぬぐった。
周辺は真っ白だ。雪がすべて覆い隠す。この雪が解けて、そして緑の芽が見えるようになったら再び王都に帰る。
毎年と同じように。
そのころには、元婚約者殿は新しい婚約者を選んでいるだろうか。
キャロルはそんなことを考えて、そして苦笑した。
そんなことを考えているとまるで未練があるようじゃないかと自分でもおかしくなったのだ。
新しく降ってきた雪がキャロルの黒い手袋の上に落ちた。
六枚の花弁を持った花のような雪の結晶にしばらく見入る。
「キャロル、そろそろ準備できたんだけど」
アメリアが窓辺で呼びかけてきた。
桶二杯分の雪をかき集めていたキャロルは片手にシャベル、片手に桶という姿で窓越しに桶を渡す。
そして、シャベルを置いて、もう一杯の桶を持って室内に入った。
アイスクリーム製造機は暖炉から一番離れた場所に置いてあった。
アメリアも外に出てもいいくらいに厚着している。
製造機はキャロルには盥に見えた。そこにまず雪を入れていく。そして、その上に塩を振っていった。
盥の中心に小型のミルク缶ほどのそれにアイスクリームの材料を詰め込み飼葉用のフォークのようなものつきの蓋を閉める。
蓋の上にはハンドルが付いておりそのハンドルを回せば、蓋の下のフォークが回り材料を撹拌するという仕組みだ。
バターもこれを大型にしたもので撹拌して作るが、大きいので、馬を使って回している。
二人は交代でハンドルを回し始めた。
最初は簡単に回り続けたが、アイスクリームが固まってくると渾身の力を込めて回さないと微動だにしない。
「やはり頑丈さを追求するよう職人に言っていてよかった」
腕に何だか血管が浮き上がるくらい力を込めて回すアメリアが呟く。
キャロルは肩で息をしている。
「予想以上の重労働ね」
「贅沢には犠牲がつきものなの」
「大変そうだな、替わろうか?」
ふいにいるはずのない男の声が聞こえた。