王侯の贅沢
アメリアはうっすらと雪の積もった窓辺でお茶を楽しんでいた。
茶葉はこの地方でとれるハーブが混ぜてある。お茶は輸入品なので蓄えは乏しい、そのためハーブでかさましするようになったのだ。
とはいえ試行錯誤の末に考え出されたブレンドはそれなりに香ばしくておいしい。
雪景色を眺めながら読書もなかなか乙なものだ。
そして、禁断の贅沢をもうすぐ決行するのだ。
アメリアはにんまりと笑う。
はっきり言ってこんなことができるのは今だけだ。来年の冬はすでに嫁に行っている予定なので、実行は不可能だ。
「うふ、うふふふふ」
不気味な笑いを浮かべるアメリアを現地雇いのメイドが気味悪そうに見ていた。
ふいに雪が落ちる重たい音が聞こえてきた。
「あら、屋根雪が落ちたの?」
この辺りは結構な豪雪地帯だ。この建物は積雪ぐらいで壊れるほどやわなつくりになっていないが、貧しい家だと雪の重みで押しつぶされないように毎日屋根の雪下ろしに追われているという。
「いえ、ちょっと、お客様です」
メイドがひきつった顔でそう答えた。
アメリアが顔を上げると、どこか湿ったキャロルがいた。
髪もドレスもじっとりと湿っている。
「あら、暖炉の前に行ったら、パメラ、椅子を暖炉の前においてあげてね」
そう言ってアメリアは再びお茶を口に運ぶ。
「服が乾いたらあなたもお茶を飲む?」
そう言ってアメリアはお茶をもう一口、そしてもうぬるくなっているので、また温かいお茶を入れてもらおうと思った。
「それはそうと何しに来たの?」
豪雪地帯を抜けてきたのなら隣の領地からでも結構な道のりだったはずだ。
「決まってるでしょう、ここにご馳走になりに来たのよ」
キャロルのきっぱりとした言い分にアメリアはあきれたが、何も言わないことにした。
「ただ飯はダメよ」
「ご心配なく、こういう時のためにいろいろと持ってきたわ」
そう言って背中に用意した荷物を取り出した。
木彫りの人形、そこが丸くなっていてゆらゆらと揺れる。
「これって、起き上がりこぼし?」
持ってみると思ったより重く底に金属がはめ込んである。
「うちの弟はこんなもので遊ぶ年じゃないわ」
「そう、うちの妹は面白がってたけど」
まあ、起き上がりこぼしがない世界なら面白がるんだろうかとアメリアはしばらく悩んだ。
「それにしても、無茶しやがって」
遭難したらどうするつもりだったんだろうとアメリアは外の風景を見た。
庭木が埋もれている。あの木のあの枝まで雪で埋まっているということはもう腰まで積もっているということだ。
「まさか、私の真冬のアイスクリームプランをかぎつけて?」
キャロルの目がギラリと光る。
「なかなか素敵なプランね」
真冬に暖炉のそばでアイスクリームを堪能する。王侯の贅沢だ。