ミッシングリンク
ブリジットは思う。
私は幸せになりたい。
ブリジットはあの日、妙に青い顔をした母親がいつになく大量の好物を並べた晩餐を終えた後、嘔吐し、そのまま吐しゃ物を喉に詰まらせて窒息した。
もがくブリジットに母親はあの女のせいでと呟いていた。
苦しくて苦しくて、何度も床に爪を立てた。だけど、誰も助けてくれない。
どうして自分が死ななきゃならないのか、あの女のせいって何なのか全くわからないまま意識が途切れていくのを感じた。
その時点で小学生だったブリジットは四人のヒロインの中で一番精神年齢が幼かった。
別の世界では不幸だった分幸せになれたっていいのに、そう思っていた。
デレインは思う。前よりまだましだと。
かつての親はいわゆる毒親だった。そして今の親も多分そう。
それを考えると自分は本当に運が悪い。
だけど、今回は脱出できた。今の家族はそれなりによくしてくれている。多分デレインが身をわきまえた行動をとり続ける限りそうしてくれるだろう。
多くを望んでもそれはかなえられないから、望みは最低限に抑えればいい。望んでかなえられないのは悲しい。
前回は突っ込んできた車のせいで起きた火災に巻き込まれて死んだ。
散らかった部屋にあるものにどんどん火が燃え広がり、あっという間に逃げ場を失った。
熱くて苦しくて、そして痛かった。火にまかれてから死ぬまでに数分だったろうが、永遠にも思える長い数分だった。
新しいまっさらな身体に生まれ変わり、何とか飢えずに生きることができる環境がある。
だから、これ以上を望むものではないだろう。
男がいた。その男は何もかも失った。
愛した女とやり直す、そんな夢は愛とともにあっという間に消え失せた。
いや、夢も愛もありはしなかった。すべては錯覚。
だがそれに気づいたときにはすべてを失っていた。
ふらふらと娘の葬儀会場に向かった時誰も彼の味方はいなかった。
彼の肉親すら、塩の袋ごと叩きつけて彼のことを追い払った。
祭壇に近づくことすら許されず、その場を後にするしかなかった。
もう何もない。そして男は生きる意味を見失った。何もかもが色を失った世界で、ただ虚ろな目をしてさまようばかり。
そして、男は娘と同じ死に方を選んだ。歩道橋の上から飛び降りて、そのまま車にぶつかり肉塊になった。
そんなことになったとは知らずにすべての元凶となった女はすでに死んでいた。
そのかかわりすら知らないまま。




