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隠れた誰か

 何が起こっているのだろう。

 ゾディークは水差ししかないテーブルを目の前に立ち尽くす。

 朝、起きて身支度をして、だが普段いつも付き添っている侍女たちがゾディークの許しもなく部屋を出て、そして、扉に鍵がかけられた。

 朝食も何も出されない。空腹が限界を迎える。

 しかしあるのは水差し一杯の水だけだ。

 何が起きているのか。ゾディークは扉を叩きながらさんざん喚き散らした、しかし何も応えはない。

「どうして、この私が」

 王妃亡き後、この国で最も高貴な女性であるはずのゾディークがこんな理不尽に耐えなければならないのか。

「このままどうなるのか、夫は、あの子は」

 家族を案じるが何もできない。

 ゾディークは唇をかんだ。

 どれほど時が経っただろう。空腹も限界だったが。それ以上に状況が把握できない焦燥のほうが強い。

 そして、ようやく扉は開いた。

「お前たちいったい何をしてくれたのです。王太子妃たる私に何たる無礼を」

 そうまくしたてようとしたが、いきなり両脇を固められ腕をとられる。

「何を?」

 背筋に冷たい汗が浮かぶ。

「妃殿下を、修道院までお送りします」

「何故、私が修道院に行かねばならないのです」

 腕を振りほどこうともがきながら叫ぶ。しかし腕はびくともしない。

「修道院に向かわないとなれば。国家反逆罪で妃殿下を裁かねばなりません、さすがにそれは哀れだと陛下のお慈悲にございます」

「何故?」

 私は幸福なままこの一生を送るはずなのに。そうゾディークは何度も自問した。しかしただ疑問を連ねるだけだ。

 茫然としたままゾディークはずるずると引きずられていく


「行ったか」

 老人はそう言って気のない顔で自らの机を指先でたたいた。

 最初は何となくだったのだ。息子の花嫁となった女に感じた違和感。それは時を経るごとに肥大していった。

 そして、生まれてきた孫、最初は愛らしいばかりだったが、徐々に異常性を感じ始めた。

 そしてあの女はそんな孫に気づきもしない。

 ほんの少しでもまともな気持ちがあればあの状況を何とかしようとしたはずだ。しかしあの女は全く動かなかった。

 息子は当り障りなくあの女と付き合うようになった。すでに夫婦の気持ちも、親子の気持ちもなくなっているのだろう。ただ儀礼的に付き合うだけの関係。

 そして息子自身孫の行く末を考え、あれを国王にするのは孫のためにも国のためにもならないとそう思うようになったようだ。

 苦く老人は呻く。

 もっと早く気づいていたらと。

 あの女は孫を玉座に着けるため動き出した。その中には売国行為と言ってもいいような内容すら含まれてた。もはや動かないという選択肢はなかった。

 それにしてもわからないのは数人の男爵令嬢や子爵令嬢を殺害しようとする計画だ。

 その令嬢たちは誰一人として、国家の重要な物事にかかわっていないしかかわろうともしていない。

「結局あの女は頭がおかしかったのだ、その頭のおかしさが孫に似てしまったのだ」

 ずっと感じていた嫌悪感、それが最終的に憎悪にまで発展した。

 ずっとあの女が嫌いだった。

 何故最初から嫌いだったのだろう。


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