国亡の危機
ジョゼフはいろいろと入り混じった周辺を眺めていた。
王太子妃の部下とそして、国王の側近たちが入り混じって混乱した状況を作り出している。
なぜ今更国王が出てくるのか。
三人の王子達の泥仕合をただ傍観しているように見えたのだが。
いや、明らかに今の王太子を引きずり降ろそうと考えているような行動をとっている。
何故だ。
ジョゼフは首をかしげた。しかし、王太子妃ゾディークの追い落としは必須の任務なので、とにかく目的は達成しなければならない。
しかし、どうしてこうなったのか。
アメリアが逃げていった先をジョゼフは見ていた。
さっきものすごい痛そうな音が聞こえたが、いったい何だったのだろう。
キャロルが、いろいろと裏情報を集めているが、それに引っかかってこなかった。
いったい何があったか知らないが。証人の身柄を抑えたのならそれでいい。
そう思いつつ、何事かわからない気持ち悪さを感じた。
ふいに視線を感じて振り返る。
そこに立っていたのは枯れ枝のような老人だ。薄くなった白髪から色艶の悪い頭皮がのぞいている。まるで古木のようにデコボコとした掌で杖に身体を預けていた。
身長はとても低い。あと少し小さければ小人と思われそうだ。
敵に回して怖い相手ではない。なのにジョゼフは動けなかった。
薄暗い中、どうしてこの老人は浮き上がって見えるのだろう。現実逃避気味にそんなことを思う。
「立ち去れ、いずれかの者であるかはすでにわかっている」
ひゅうひゅうと喉を鳴らしながらその老人はジョゼフに告げる。
お前は誰だと聞こうとした声はジョゼフの喉を通ることなく立ち消えた。
続々と老人の背後から迫り来る者達がいる。
近づいてはいけない。本能的にジョゼフは後ずさりその場から逃走を図った。
アメリアは気絶した男をハンカチを裂いたもので手首をくくって拘束した。
「ええと、これでいいのかしら」
もし暗殺者なら縄抜けの一つも芸に持っていそうだが、これ以上のことをする道具はない。
どうやら公爵家から加勢が来るようなのであとはこれで任せてしまうことにした。
「今日はなんだか疲れたわ」
アメリアがため息をついた。危険は覚悟していたが、覚悟していなかった非常事態が次から次へと起きたのだ。ため息もつきたくなる。
「もうこんなことをしないでくださいね」
スティーブンがそう言えばアメリアは苦笑して答えた。
「結婚したらしないわ」
結婚したら田舎の領地に引っ込んで静かにカントリーライフを満喫するのだ、都会には最低限しか近寄らない。それが安全だ。
「そうですね、早く来年にならないものでしょうか」
結婚式には格というものがある。貴族の式の準備には最低一年以上かかるものなのだ。大貴族や王族となると数年がかりも珍しくない。
当然ユーフェミアやエクストラの結婚準備も何年か前から始まっているはずだ。
それを考えるとゲームはあり得ない。どう考えても浮気で婚約破棄ならどれだけ慰謝料をとられると思っているのだろうか
下手すれば国が傾くんじゃないか。
思わず身震いする。やはり王子様は避けなければならなかったのだ。下手すれば国が滅んでいたかもしれない。
アメリアはスティーブンの手を取った。