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危険

 アメリアが連れてこられたのは一見奇麗に見えるけれど、どこか荒れた雰囲気の建物だった。

 しばらく人が住んでいなかったような。奇麗に刈られている芝生だが、ところどころムラがあり、雑草もちらほらと見える。

 芝生のあちらこちらに生えている樹はトピアリーだろうか、もともとは整った形をしていたのだろうけれど、しばらく手入れをさぼっていたのか、伸びすぎた枝で形が崩れている。

 だいぶ長く空き家だったのではないだろうか。

 窓枠の桟などに埃が積もっていないが、なんだか急ごしらえに掃除をしたような雰囲気だ。

 この建物はもともとは結構豪勢な建物だったのではないかと思われる。

 重厚なつくりの柱などが在りし日の面影を残す。

 だけどうらぶれている。

 アメリアは目を伏せた。

 ここは急ごしらえで作られた舞台、だとすればここで主役を演じるのは誰?

 靴はピンヒールのような歩きにくいものではなく普通のかかとが少しだけある靴を履いてきた。

 裾が長いのでそれは気づかれていないようだ。

 明らかに罠。それはわかる。だが誰が誰をはめるための罠だろう。

 ユーフェミアはゾディークをはめるための罠にアメリアを使った。

 だけどこれは別のだれかの意思を感じる。

 ゾディークがアメリアをはめるために? それにしては大掛かりすぎないかと思われた。

 目の前の女の裏にいるのは誰。情報が足りなさすぎる。

 ギィーときしんだ音を立てて扉が開く。やはりあまり使われていないのだと分かる。蝶番に油をさしていないのだ。

 通された部屋には誰もいない。

「殿下はどこに?」

 どの殿下かは知らないが、とりあえず聞いておく。アメリアにしてみればいないのは願ったりかなったりなのだが。

 ふいに視線を感じた。

 誰かがこの部屋に隠れている。アメリアは財布のひもをつかんだ。

 ズズンと重量感のある音がしていきなり壁が倒れた。

「欠陥住宅?」

 思わず呟くが、どうやら隠し扉が開いただけのようだ。

 そしてできればこの先生涯会いたくなかった人が立っていた。

 王孫殿下、ケイン。

 端正な顔立ちにタガの外れた笑顔を浮かべた彼がどうしてここにいるのだろう。

 そんなことを考えていた。

「おかしいんだよ、母上は、アメリアにあっちゃダメって言ってたのにアメリアをこんなところに連れてくるんだ。僕はどうしてアメリアにあっちゃダメなのかな」

 それは私が婚約者持ちだからです。というきわめてもっともな正論など通じる相手ではないとアメリアはすでに知っていた。

「ねえアメリア、ずっと君に会いたかったんだよ」

 じりじりと高貴なお方はアメリアににじり寄る。アメリアとしても何となくどこか明るいのににじみ出る不気味さに押されてそのまま後ずさった。

 この相手をこの財布で頭をたたき割ったら、死刑だろうな。

 小銭がじゃらじゃらしている財布を手で探りながら思うが、だからと言ってそばに寄りたくない。

 殿下はアメリアが下がった分だけ近寄ってくる。

 アメリアは思う。今すぐ来てくれ暗殺者。そっちのほうが何倍もまし。



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