猿芝居
アメリアは女に黙ってついていった。
女がどのような勘違いをしているかは知らないが、アメリアは自分に課せられた任務を果たすだけだ。
薄暗い庭園の端で女は足を止める。
「王孫殿下は今はおられませんが、手引きはできます」
別に要らない、会いたくもない。そんな本音は微笑で押し隠す。
アメリアは命を狙いやすい行動をとることになっている。それはゾディークの息子に近づくのが一番の早道だ。
本来は一番近づきたくない相手だが。
女が何を思ってアメリアの手引きを引き受けたのかはわからない。アメリアはしがない男爵令嬢だ、金など持っていないし。誰かの身分を引き上げることもできない。
この女はいったい何者なのかもアメリアは知らない。ただユーフェミアに命じられたからアメリアはこの女に近づいた。
身に着けているのはすべて一級品ばかりだ。たとえ下級貴族でも、いや下級貴族だからこそ、ドレスや宝石の見立ては必須技術なのだ。
ドレスや宝石で相手の身分を押しはかり、ついうっかり高位貴族の前でやらかすのを防ぐためにもその眼力は磨き上げられている。
着ているものは一級品だが、物腰がどこか品がない。
妙にきびきびしている気もする。
上流貴族の貴婦人は万事おっとりとしたしぐさをしているはずなのだが。
アメリアは軽く目を伏せる。
嘘をついているときの癖だ。
ユーフェミアがどういう風に話を通したかはわからない、アメリアとしては最低限のことを頷いていればいい。
「殿下は、普段離宮でお暮らしで、王宮にはめったに来られることはありません」
そのことをアメリアは意外に思う。国王のたった一人の孫だ。ふつうかわいがって頻繁に近辺に呼ぶのではないだろうか。
そこまで考えて軽く首を振る。
「殿下が王宮に来られる日は三日後、その時に備えてくださいね」
にこやかにほほ笑むが、目が笑っていない。あるいはこの女は、ゾディークが仕掛けようとしたことをユーフェミアがやろうとしていると判断しているのかもしれない。
目には目を歯には歯をと。
アメリアはそっと目を伏せたまま相手を値踏みする。あちらもアメリアをそうしているだろうことはすでに分かっていた。
女はアメリアを怪訝そうに見る。
地位を求める女ならもっとぎらついたものを持っているはずだ。しかしアメリアは静かだ、まるで凪いだ湖のように。
「殿下にお目にかかって、あの方は私をどう思われるかしら」
薄く微笑んでアメリアは呟く。
「それはもちろんお喜びになりますとも」
ヒロインだからね。という言葉をアメリアは飲み込んだ。この女には意味不明だろう。
おそらく三日後が、決行日なんだろうなとアメリアは判断した。
その三日後に生きるか死ぬか。
アメリアは唇をゆがめた。そして慌てて笑みを形作る。
芝居がばれてはいけないのだ。




