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狭間

 アメリアはユーフェミアに呼び出された。

 呼び出されたらいかねばならない下級貴族。気分は中間管理職だった。

 安全には気をつけろとキャロルに念押しされていたので、徒歩ではなく馬車を使うことにした。

 メイドはあえておいていった。下手に両親にいらないことを知られたらいろいろまずい。

 アメリアは馬車に乗り込むとそっと目を閉じた。

 指先が小刻みに震えている。

 ずっと考えまいとしていた。

 アメリアはかつてアメリアが死んだときの年齢に近づいている。

 以前死んだときは恐怖は一瞬だった。衝撃を感じた次の瞬間には死んでいたと思う。

 次に死ぬときはいったいどうなるのだろう。

 このように記憶を持ったまま生まれ変わるという現象はこの一回きりなのかそれとももう一度繰り返すのかわからないが。

 できれば死ぬときは苦しみたくないと思う。

 ほんの一瞬の恐怖すら思い出したくないくらい嫌な記憶なのだから。

 病死したキャロルはどうだったのだろう。眠っているうちにこと切れたのなら苦しくなかったのだろうか。

 さすがにこの話題を口に出すにはアメリアの神経は細すぎた。

 デレインにも訊けていないが、ふつう貴女の死因は何ですかなんて聞ける人がいるんだろうか。

 ブリジットもだがそもそもまともな会話というかコミュニケーションがとれていた感じがしない。

 そんなこと考えているうちにいつの間にかユーフェミアのところについてしまった。

 ここに来るとろくなことがない。

 それがいままでの経験で導き出される結論だった。


 この部屋の壁紙だけでうちのカーテン全部より高いだろうなとやたら凝ったデザインの壁紙の模様を眺めながらアメリアは少しだけ現実逃避していた。

 ユーフェミアは容赦ない人だ。もちろん敵に対しては当然だし、或いは未来の配偶者に対してもだが、下につく者にとっても場合によっては容赦ない。

「ちょっとあなた囮になってみない?」

随分と気軽にとんでもないことをおっしゃってくださった。

 なんのとは言えない、ちゃんとキャロルに聞いている。

 そして嫌と言う権利もアメリアにはあまりない。

 なぜなら下級貴族。どこまで行っても下級貴族なアメリアは上級貴族に嫌と言う権利があまりないからだ。

 こんな時だけは身分が憎い。どうして民主主義国家に生まれなかったんだろう。そんなことをいまさら言ってもしょうがないし、その身分制度を甘受して今まで生きてきたのだ。

「危険手当はつくのでしょうか」

 せめて家族へのわずかでも残せるものをと聞いてみた。

「もし、貴女にもしものことがあった場合、あなたの弟の将来は当家が責任を持つわ」

 ありがたくて涙が出そうなおっしゃりようだ。

 それでも家族の将来という危険手当を確保する。

 それくらいなければとてもじゃないがやってられない。

 敵をとってくれるのかなどそんな愚問はするまでもない。相手を徹底的に叩き潰すための証拠集めなのだから。

「あら、本当に謙虚ね、成功報酬ぐらいねだると思っていたわ」

「成功報酬は、今後の安全です」

 アメリアはそこは譲れないと言い切った。


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