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愛のない会話

 キャロルは集めた資料を読み進めている。

 地方独自の特産品やその流通、価格などだ。それに不自然な金の流れがないか、そのあたりを膨大な資料から読み進めていく。

 そして、怪しい流れがないか、地図と首っぴきで調べていると不意に扉の開く気配がした。

「何があったの、ジェーン」

 普段無断で扉を開けるのはおつきメイドくらいなのでキャロルは振り向きもせず尋ねた。

「ジェーンじゃなくて悪かったな」

 振り返るとジョゼフがいた。

「なんでこんなところに」

「なんでとはご挨拶だな、婚約者のもとにきて何が悪い?」

 婚約者であっても、ベッドがあるような独身女性の私室に無断で立ち入るような真似は控えてもらいたい。

 ましてや婚約して間もないのだから、事前に連絡して約束後にくるのが普通だ。

「それはいったいなんだ?」

 キャロルは備え付けのティーテーブルに座っていた。そしてテーブルの上には山のように紙の資料がのっかっている。

「見てわかりませんか」

「わかるのがそれが書類だということだけだな」

「そうです、書類です、忙しいので後にしてください」

 にべもなくそう断ると再びキャロルは資料に没頭しようとする。

「それで何がわかる」

 集中を邪魔されてキャロルの眉がひくついた。

「とりあえず、こことここ」

 キャロルは地図のある部分を指さした。

「利益をぼったくっていますね」

 あっさりといわれてジョゼフは地図をまじまじと見る。

「なんでわかる?」

キャロルは淡々と説明した。「現地での値段と首都での値段、そして運送距離から割り出しました。まあ道が険しいという理由もあるのかもしれませんが、それでもこの値段はぼったくりだと判断しました」

「そういうものか?」

「そうですね、地図だけでは標高はわかりませんが、そのあたりを加味するとややこしくなりすぎますし」

 再びキャロルは資料に没頭し始める。

 もう何を言われても反応してやらない。

 そんな断固たる意志を感じたが、ジョゼフは机に積まれた資料をつつきだす。

「邪魔すんならとっとと出ていけ」

 無表情にじっとりと据わった眼でキャロルはジョゼフに言い放った。

「一応婚約者なんだが」

「ええ、一応ね」

 そのまま適当な得物を探す。

「何をしているの」

「何を叩きつければおとなしくなるのかと考えているだけです、あの花瓶は後で掃除が大変そうでためらわれるところですわね」

「掃除以外にためらう要素はないのか?」

「ありません」

 キャロルは初めてにっこりと笑いかけた。

 どんどん殺伐としてくる会話にジョゼフはあきらめたようにため息をつく。

「僕達は一生こんな会話をするのかな」

「一生ということはないでしょう。どちらかは先に死ぬのですもの」

 それだけ言ってキャロルは資料に戻った。

 ジョゼフはキャロルが何やら書き付けているものを隙間からのぞき込んでいたが、あきらめることにした。



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