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過去の夢

 アメリアはふと思う。かつて大好きだった『薔薇の言の葉』あんなことがなかったら、自分は王子様目指してイベントに突っ込んでいたんだろうかと。

 もうすぐアメリアになる少女の一番新しい記憶は父親が父親をやめた日のことだった。

 家のリビング、家族でテレビを見たりおやつを食べたり、小さい頃は家族みんなでトランプをして遊んだ場所。

 もうすぐアメリアになる少女はなぜ、自分は母親と並んで座っているんだろうと思っていた。

 来客があり、普段なら両親が並んで座り、アメリアだった少女がサブの椅子に座り、両親と向かい合う場所にお客様が座る。それがいつもの並び順だったのだけれど。

 来客の若い女性が父親と並んで座っている。

 化粧がかなり濃い、くっきりと引かれた赤いマットな口紅。

 母親はあまり派手にしないよう、全体的にベージュとブラウンでまとめているので、その女の緑に染めた瞼が妙に浮いて見えた。

「離婚してくれ」

 父親はテーブルに手をついて深々と頭を下げた。

 不意に頭の芯が冷たくなる。

 ああそうですか、ずいぶん頑張った化粧だと思ったけど、それは相手の女つまりお母さんに張り合ってあんなに下品な化粧をしていたんですね。

 脳内を勝手にナレーションが流れていく。

 その女はしおらしげに頭を下げているけれど、どこか勝ち誇った笑みをうつむいた顔の下で浮かべていた。

 アメリアになる少女はしばらく呆けていたけれど、自分は今父親に捨てられつつあるということは白くなり行く脳裏に何とか引っかかってくれた。

 横を見れば母親は唇をへの字に曲げていた。

 まあ笑えるような状況じゃないなとあっさり納得する。

「今遊びだった、こんな女とは別れるって言えば、一応なかったことにしてあげてもいいわよ」

 とりあえずの譲歩だったのだろう。母親はそう言ってじっと相手の目を見る。

「それはできない」

「どうして?」

 二人のやり取りを夢でも見ているような気持ちでぼんやりと見ていた。

 テレビドラマでよく見る光景だが、それをよく知っていると思っていた自分の家族が演じているのを見るのは、一層の非現実感があった。

 そして、いかにもしおらしそうな顔をしたその女の唇が弧を書いて吊り上がるのがものすごく不快だった。

「か、彼女は僕の運命なんだ」

 その言葉に聞き覚えがあった。

 それは『薔薇の言の葉』で悪役令嬢につきつける攻略対象の台詞の一つ。

 昨日やった時は、金髪碧眼の王子様の台詞だった。

「うあ……」

 思わず呻いた。

「まんま薔薇の言の葉の台詞じゃん、ハンサムな王子様ならともかく、しょぼくれたおっさんの台詞ならただのお笑いだね」

 思わず心からの言葉があふれた。

「何なんだそれは」

「多分少女漫画か何かじゃない、まあ確かにハンサムなヒーローの台詞なら格好がついたんでしょうね」

 母親が吹き出し、そしてつられるようにもうすぐアメリアになる少女も笑い出す。

 けたたましい笑い声がただ響いた。

 完全に持っていかれた二人は茫然としてそのまま黙り込む。

 そのあと何を言ったのかアメリアになる少女は覚えていない。



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