お見合い当日
アメリアの心強い励まし、頑張って死んで来いだったが、励ましだと思おう。
それを背にキャロルは旅立った。お見合いの地へ。
アメリアの言葉に嘘はなかった。心からキャロルの冥福を祈っていたからだ。
その本心を知れば、キャロルはアメリアを始末することを真剣に考えたかもしれない。
キャロルの家族は浮き立っていた。
何せ公爵家の血を引く婿である。これを機に公爵家の縁戚を名乗れるのだ。たとえ男爵家でも親戚に高位貴族がいるかいないかでその立ち位置はがらりと変わる。
公爵家自ら娘の縁談を取り持つ、それも自分の親戚筋から、たとえ胡散臭い裏があったとしても乗っておきたい美味しい話なのだ。
そのことはキャロルはよくわかっている。家族がこの縁談がだめになったらどれほどがっかりするかも。
わかっているのでキャロルは言われるがままに奇麗なドレスを着こみ、メイド総出でメイクを施され、髪を結いあげられ、とっておきのアクセサリーを厳選して身に着けたのだ。
久しぶりに父親は一張羅を引っ張り出し、母親はものすごく久しぶりにドレスを新調した。
あまり裕福ではなく算盤の利益もまだぼちぼちというのにこの張り込みようだ。期待の厚さがわかろうというものだ。
着飾った家族を見て、妹はなんだかぼんやりとしている。
非現実的だと思ったのかもしれない。
「行ってらっしゃい」
それだけ言ってメイドに抱き着いた。
いや、着飾った家族が別人に見えたのかもしれない。
普段はもっと飾り気のない恰好をしているから。
妹を乳母に任せてキャロルは馬車に乗り込んだ。
今日は御者も一張羅を着て出るように厳命してある。
襟元まで締めたネッカチーフを苦しそうに引っ張りながら御者台に座っている。
そして馬車は走り出した。
「お父様、いいのですか、こんなにお金を使って」
思わずキャロルが聞くと父親は笑った。
「近くの洗濯屋に脱水機が何台か売れた。その儲けがある」
少しずつ緑が増え、郊外に向かっている。
サックス公爵家の王都の別荘だ。
それ以外に領地内に複数の屋敷があるのだという。
それは領地が飛び地のようになっていることも関係しているのかもしれないが、それだけのお屋敷を維持できるというのも財産があってのことだ。
石積みの堅牢そうな門を抜けて、それからさらに前庭を延々進みたどり着いた建物は思わず顎が外れそうなほど立派なものだった。
母親は一瞬ぽかんとしていたが慌てて居住まいをただす。
そして扉が開き執事が出てきた。わざわざ出張しているのかと思ったがこの家専任の執事だそうだ。
執事は持っている家すべてに常駐しているらしい。
執事だけでなく使用人もすべて常駐していていつでも主人が屋敷を使ってもいいように維持しているのだとか。
さすが公爵家金の使い方半端ない。とそんなことを感心してしまいながら、凝った壁紙や細かな彫刻を施された柱などを極力首を動かさず視線だけで観察する。
廊下の向こうでエクストラが待っていた。
「あちらで待っているわ」
そういって庭園の向こうにしつらえられたお茶会席を指さした。
薔薇の生け垣のすぐそばにある。そこに座っている背の高い男性が見えた。




