嫌な予感
本日は珍しくアメリアはキャロルの自宅でお茶をしていた。
お茶請けはドライフルーツをカットしたもの。男爵家ぐらいならこれがおやつの定番だった。
プルーンに似たものをフォークで突き刺しつつ、アメリアはキャロルがいかにも憂鬱そうな顔をしてうなだれているのを見ていた。
「どうしたの?」
「受けやがった、あのバカ親父」
キャロルはぎりぎりと歯ぎしりしながら、狭い歯の隙間から絞り出すように言葉を紡ぐ。
「受けたって、何?」
答えのわかりきっている質問をしつつお茶を啜る。
「お見合いの日付が決まったのよ」
キャロルがここまで苦り切るのは、エクストラと親戚付き合いをするのが憂鬱だからだろう。
キャロルがなまじできるところを見せてしまったため利用価値ありと判断されてしまったのだ
考えてみれば、この世界より学問が進んだ世界の経理技術ってかなりものすごく利用価値があるんじゃないだろうか。
当たり前のことを確認しつつアメリアはキャロルに聞いた。
「で、そのお婿さんとどうしたいわけ」
「不吉なことを言わないでよ」
「いや、断れないでしょ」
この世界で貴族の爵位は絶対だ、男爵家が公爵家に逆らえるわけがない。
「そういえば、わかってなかったみたいだけど、昨日の男、攻略対象だからね」
「えと、どっち?」
「後から来たほう」
キャロルは端的に答えた。
「悪役令嬢のいない単なる攻略対象、ほぼ隠しキャラで、ユーザーで会ったことのあるやつは極めて少ない」
基礎情報だけをざらざらと並べる。
「今は騎士に過ぎないけど、親戚に高位貴族がいて、侯爵に抜擢される予定らしいけど」
なるほどとお茶のお代わりを注ぎつつアメリアは情報を整理する。
アメリアはジョゼフの存在すら知らなかった、アメリアはどちらかというとバトルのほうに嗜好が偏っていたので、バトルなしはあまり興味がなかったのだ。
「で、そっちの今後の方針は?」
「もちろん関わり合いにならないってことよ、私はあんたを支持する。この世界で穏当に生きていたけりゃ目立たないの第一よ、結婚したとたん侯爵になるなんて冗談じゃない」
爵位二つ飛越はめったにない、そのためアメリアもキャロルも男爵家の女主人になる前提で教育されている。
侯爵夫人にふさわしい教養を持っているのは、せいぜい伯爵令嬢ぐらいだろう。
もし侯爵夫人になることがあれば、詰込み学習の地獄が待っている。
「あー、確かに遠慮したいかもしんない」
勉強はあまり好きではなかったアメリアとしてもそれは御免こうむりたい。
「ん?」
ふいにアメリアは引っかかるものを感じた。
高位貴族の血を引いていて騎士って、たぶん。
例えば父親が五男や六男で本人も六男くらいの生まれで、とか?
それはキャロルのお見合い相手のプロフィールに似すぎないか?
しかし、アメリアはそれを口にすることはなかった。どのみちキャロルに逃げ道はほとんどない。それを言ってもどうしようもないのだ。
冥福を祈るってこんな気持ちかなとアメリアは少しだけ思った。




