新たな攻略対象
騎士ジョゼフ・ハミルトン、なぜなかなか見つからない隠しキャラなのかというとモブに紛れているからなのだ。
主要キャラの陰に隠れているためほとんど目立たない。背景と化している場合すらある。
しかし、攻略対象だけあって、実は名門の血を引いていて、そして将来断絶した遠縁の侯爵家を継ぐことになっている。つまり玉の輿だ。
アメリアは見たことがないのできょとんとしている。おそらく存在すら知らない。
キャロルはアメリアに絡んできた男を諫めているその攻略対象を見てだらだらと冷や汗を流した。
たとえ隠しキャラとはいえ攻略対象に近づいていいものだろうかと。
アメリアはいやそうに身を引っ込めて様子見に徹している。
「そういえばそちらのお嬢さん大丈夫でしたか」
急に声をかけられてキャロルの肩が跳ね上がった。
「大丈夫です、からまれていたのはアメリアですから」
そして、一刻も早くこの場を立ち去ってほしいとキャロルは祈るように相手を見る。
アメリアは先ほど言っていた王太子妃のくだりにどう尋問したものかと悩んでいた。先ほど名前など聞かなくて結構なんて言わなきゃよかったと後悔しても後の祭りだ。
とりあえず何とか聞き出せないだろうかと思ったが、先ほどのあまりにむかつく対応を考えればいい解決策など思いつかなかった。
「とりあえず、お前なんであちらのお嬢さん方に絡んでいたんだ」
いいタイミングで聞きたいことを聞き出しにかかってくれた。
思わずグッジョブと叫びそうになる。
「そんなことはあんたに関係ないだろう」
「いや、大いにあるね、お前のやっていることは王宮内の品位を下げる行いってやつだ、それをとがめるのは当たり前、そしてそれを見とがめた以上きっちり聞き出すのもな」
そこでうまく聞き出してくれないかな。
思わずアメリアは手を握って耳をそばだてた。
そんなアメリアにキャロルはどうしたものかと悩んでいる。いや話の内容が気にならないわけではないが。
ジョゼフは目の前の男と近くにいてどうも話に妙に興味津々な茶髪の令嬢とどこか及び腰の黒髪の令嬢を交互に見た。
将来の見合い相手である黒髪の令嬢が妙にジョゼフに対して冷淡というか敵意を感じるというかマイナスな視線を向けているが、もう一人の令嬢はジョゼフを通りこして目の前の男の一挙手一投足を気にしているようだ。
しかし、やはり妙だ、この二人の令嬢にいったい何があるというのか。
「だから、知り合いが婚約して」
「お前、知り合いの婚約者に手を出そうとしたのか?」
黒髪が見合い相手なので、茶髪が婚約済みなのだろう。
しかし、人の婚約者を横取りとは、社交界にいられなくなりたいのだろうか。
いったん婚約や結婚をしてしまえば、その相手を裏切るというのは周囲の人間の信頼を裏切る行為としてつまはじきに合う。
もちろん茶髪の令嬢はそれをわかっていて相手を拒んだようだが。
「そこまで危険を冒す相手か?」
物凄く可愛いのは確かだが、男爵令嬢か子爵令嬢だろう。
「だが、王族が妙にこの娘にちょっかいを出しているんだ」
いや、こいつ馬鹿だろ、王族がちょっかいを出すような相手にむやみやたらと食いついていくものじゃないだろう。
「あの、私たちもその件には迷惑しているんです」
黒髪の令嬢はそう言ってため息をついた。




