表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/98

新たな出会い

 これはとても高級品だ。彼は手の中の細長い筒を見つめる。このちっぽけな飾り気のない筒一つで、安物の馬車が買えるなど誰が想像するだろう。

 この筒を覗き込むと、はるか遠くのものは近くに見える。

 名を望遠鏡という。

 彼がそんな高級品を手にしているのは、もちろん自分で買ったわけではない。

 いわゆる情報収集のためだ。親戚に勝手に結婚相手を決められたのだが、あくまで結婚するのは自分だ、そのため事前にその女性を調べさせてほしいと申し出た結果、小道具として渡されたものの一つだ。

 この望遠鏡を手に、くだんの女性、キャロル・カーマイン男爵令嬢の様子を探っていた。

 キャロルカーマイン男爵令嬢がいるとされた場所を見ていると、令嬢が二人何やら話しこんでいるようだ。

 見合いの添え書きによると黒髪の女性だというので、傍らの茶髪の女性は友人なのだろう。

 望遠鏡は残念ながら姿かたちはともかく声を拾うことはできない。

 本来は人がいることがかろうじてわかる距離なのだが、この望遠鏡は優秀だ、目の前にいるかのようにキャロルの姿が見えた。

 長い黒髪を後ろで束ね、目が悪いのか眼鏡をかけているが、それを差っ引いても十分に美しい少女であることは分かった。

「顔はまあいいか」

 観察を始めて数分であるが、女友達と戯れているだけだ。それでは何もわからない。

 そして、キャロルは絵を描き始めた。趣味が絵画というのは少し変わっているがいないわけでもない。

 茶髪の女性が時々絵を覗き込みながら何やら話しかけている。

 はっきり言ってこれで何がわかるというのか。

 ごく普通の少女たちが戯れているだけだ。しかし、事前に探りを入れたということを気づかれるのも気まずい。

 だがふと彼は気が付いた。自分以外にも二人の様子を探っているものがいる。

 王宮に勤める制服を着ているが、木の陰に佇んだまま微動だにしない。

 今時分なら猫の手も借りたいくらい忙しいはずなのに、こんなところで油を売っている暇などあるわけがないのだ。

 きれいな娘さんたちを物陰からじっと様子をうかがう男。これはいわゆるよからぬ輩か?

 完全に自分のことを棚に上げて、うっかりとってしまった距離に焦る。

 何事もなければいいがと彼は少女たちのもとに走った。


 アメリアとキャロルは視線でタイミングを計りあっていた。

 明らかにあの男は怪しい。そう思ってみると目がやばい気がする。

 アメリアが武器を手にしたが、これは最後の手段だ。いざという時が来たとき武器を調達していては後手後手に回る。最悪の状況が来る前に準備を怠らないことが大切なのだ。

 キャロルは絵の道具袋に絵の具用パレットナイフが入っているのを確認している。いつでも取り出せるように。

 パレットナイフは刃のつぶしたナイフくらいの威力しかないが。それでも金属製だ。ないよりはましなはずだ。

 二人は緊迫した状況を極力押し隠して笑いあうふりをした。

 笑顔を浮かべながら二人は呼吸すら忘れるほどの緊張に胸を高鳴らせている。

 ここで、もしかしたら色っぽい展開がなどと考えないのがこの二人だった。

 むろん二人の置かれた状況もある。宮廷内のもめごとに巻き込まれているのだから、いつ何時妙な刺客が現れてもおかしくない。

 二人が息をつめている間に木の裏に佇んでいた男が動いた。明らかに二人に近づいて来る。

 キャロルは自分の道具入れのカバンをそっと手で探った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ