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ようやく

 軽やかなダンス音楽とその合間に聞こえてくるざわめき。そして金切声。

 思わず持っていた飲み物を噴出しそうになったアメリアは声の聞こえてきた方向を見た。

 先ほどダンスを踊ったスティーブンもそちらを見る。

「いったい何があったのかしら」

 うら若い女性が早口で喚き散らしている。

 あまりにも早口なので一言すら聞き取ることができない。

 キャロルが、声をかけようとした男性は、慌ててそちらに行ってしまった。置いてけぼりを食らったキャロルがハンカチをかむ。

「まあ頑張れ」

 そう言ってアメリアは新しい飲み物を渡した。

 飲み物を受け取ったキャロルはうなりながらグラスを回す。

「焦ってるんだよ、実はエクストラが、侍女がダメなら親戚の男と見合いしないかといってきて」

 着々とエクストラはキャロルを獲得に走っている。

 要らんところでなまじ有能なところを見せてしまった以上どうしようもない。

「それで、その親戚の男のスペックはいかほど?」

「先代の五男のそのまた六男」

 たとえ公爵家でも二世代前で五男の六男となるとろくな爵位も持っていないことは確かだ。

「それって婿養子向きな物件ってことじゃないの」

 公爵家からのお話で、婿養子に向いた立場。それに婿に入って爵位を得られるなら向こうとしても願ってもない話なんじゃないかとアメリアには思われた。

「それはわかっているのよ、でもちょっと引っかかって」

 そうなればカーマイン男爵家が、サックス公爵家の分家になってしまう。

 それが引っ掛かるのだろうか。

「まあ、一度会ってみるとか」

「会ったら最後だっての。このお見合い断ってこちらの面目を潰す気かとお父様が押し切られるのが目に見えるようだわ」

「ああ、そうかも」

 スティーブンがアメリアの肩にそっと手を置いた。

「ごめんなさい、話し込んでしまって」

 慌ててアメリアはスティーブンの御機嫌を取ることにした。

「アメリア、ちょっと騒ぎが近づいてきた気がしませんか?」

「え?」

 再び、耳をつんざくような叫び声が聞こえてきた。それが女性の声であるのはわかるのだが、それは悲鳴ではなくむしろ怒号というものなのではないだろうか。

「何かしら?」

 ふと気が付くと人混みが移動してきている。楽団もあまりに異様な光景に演奏を忘れてその場に立ち尽くしている。

 二人の女が罵り合いながらこちらに移動してきている。

 一人はワンダだった。そしてもう一人はやはりそうだったかとアメリアとキャロルは顔を見合わせていた。

 ブリジット、ついにこの目で見た。

 赤毛をポニーテールに結い上げて髪飾りでまとめている。そして勝気そうな吊り上がった緑色の目。

 ワンダとブリジットは睨みあいながら移動している。

 金切声を上げているのはワンダだ。

「若さのブリジット、財産のワンダ、悩むところね」

 フレッドはただその場に突っ立っているだけだ。

「やあ、フレッド」

 スティーブンがいきなりフレッドに話しかけた。

「紹介するよ、婚約者のアメリアだ」

 フレッドはそのまま睨みあうワンダとブリジットを全く気にせずスティーブンと話し始めた。



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