キャロルの秘密
そしてアメリアの部屋では今日もキャロルが居座ってお菓子をぱくついている。
「そっちは順調でよろしいことで」
戦果ゼロでイベントを終えてしまったキャロルがやさぐれている。
「これというのも全部あのストーカー行為のせいよ」
キャロルが避けられるのはヘンリー王子に付きまとわれていたせいだ。
偶然とはあり得ない頻度でキャロルの周りでヘンリー王子が出没していたらしい。
「そういえば、ゾディークと顔合わせしたんだって?」
アメリアは呻く。
キャロルは真顔で言った。
「やばいよ、絶対目をつけられてる」
それには同意するが、どうしていきなり接触してきたのかがさっぱりわからない。
「あの頭のおかしい息子のせいかしらね」
そういえば隠しキャラとはいえ攻略対象であることは間違いない。
「いらないんだけど、心から」
「こっちは洗濯を便利にする道具なんか開発しちゃったのよ、もうこの路線で生きていくしかないのかしら」
その言葉にアメリアはちょっと興味を持った。
キャロルは今日とても重そうな箱を持っていた。ついでにとてもかさばる。
「これが私の発明よ」
発明といってもまあ記憶にあるものを再現したものなのだが。
そしてアメリアは思った。これ調理器具なんじゃと。
「パスタマシーン?」
それはあまりにもアメリアにとってこの世界にはない料理の調理器に似すぎていた。
大きさはテーブルに乗るくらい、木枠の中に丸太と丸太が重なっている。そして上の丸太だけハンドルがついている。
「なんでそう思うの、これは脱水機よ」
キャロルがそう言うとアメリアはますます眉をひそめた。
「ええと、昭和初期の洗濯機にはこういう脱水機がついていたんだけど知らない?」
そう言われてもアメリアにはピンとこない。
首をかしげているアメリアを見てキャロルは呻いた。
「まさかあんた二層式洗濯機すら見たことないの?」
「存在は知っているけど」
すでに電気屋ですら表に出ていない骨董品だ。
「これがジェネレーションギャップ」
キャロルはその場で膝をついた。
しかしどこから見てもパスタマシーンだ。これに切り分ける刃がついていたら完璧だ。そうなったらぜひ売ってもらいたい。そしてこの世界の食文化に革命を起こすのだ。
「ここに洗濯物をはさんで上の丸太の重みで絞るわけ、ぎゅうぎゅうにひねって絞るより布の痛みが少ないし、大きささえ調整すればシーツやカーテンなんかの大物も絞れるから便利なの」
大物の脱水は力仕事だ、二人がかりで絞らなければならない。そのうえ絞った水でびしょびしょになってしまう。これならハンドルを回す手間だけで絞れる。
大物だと丸太も大きくなるので一人で絞れるかは謎だが、もし重すぎてももう一方にハンドルをつければ済む。こぼれた水でスカートがびしょびしょになることは避けられるはずだ。
「でも昭和初期の洗濯機を見たことあるの?」
だとすればキャロルの享年は。
「違うから、昔のドラマで見たんだから」
とんでもない誤解を解くべくキャロルはアメリアにかじりついた。




