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夏のイベント４

　とにかく関わり合いになってはいけないと二人は目と目で語り合う。

　何とかどこかに行ってもらわないと。

「あの、昨日親切にしてもらったんですが、お礼を言いたくて」

「それならお礼を言ったらすぐにどこかに行って」

　思わず本音が漏れた。

「ああ、それじゃ行きましょうか」　

　そう言ってアメリアの手を引っ張る。

「どうしてそうなるのよ」

　キョトンと、本当に何を言われているかわからないといった顔でアメリアを見る。

「だって、僕の行くところについてくるものでしょう」

　完全に何を言っているかわからない、物事をどう考えているのかも。話の通じない不気味さに思わずアメリアとキャロルは引いた。

　だが不意に誰かに思いっきり突き倒されてアメリアはキャロルの膝に頭をぶつけた。

　自分の膝の上で動かなくなったアメリアを見てキャロルの顔から血の気が引く。

　確か、膝に痛いほどの衝撃を食らった。膝でこれなら後頭部にまともに食らったアメリアは。

「ちょっとしっかりして」

　頭を打った人間をゆすってはいけない、ぎりぎり覚えていた知識で軽く頬のあたりを叩いてみる。

　さすがに周囲もただ事ならぬ状況と察してざわめいている。

　そしてキャロルの目の前で、少年は見知らぬ黒づくめの男達に拘束されて運ばれていくところだった。おそらく彼らがアメリアを引き倒したのだ。

　普通なら助けるところだが、今日初対面の少年より、気絶した友人をキャロルは優先した。

　異常を感じたのか、メイドたちが人波をかき分けて駆けつけてくる。

　アメリアは顔をしかめると不意に目を開けた。

「しばらく動かないで、頭を打っているのよ」

　脳震盪をなめてはいけない、場合によってはこれで死ぬこともあるのだ。

　キャロルに膝枕された状態のアメリアをマリーは不思議そうに見ている。

「突き飛ばされて頭を打ったの」

　キャロルの説明にマリーは顔をしかめた。

「とにかく、ゆっくり休める場所に行きましょう」

　メイド二人の手を借りてアメリアは木陰にと誘導された。キャロルはアメリアの背中を支えて頭を揺らさないようにと細心の注意を払って連れて行った。

　木陰でハンカチを敷いてアメリアは木にもたれた。

「何だったのあれ?」

　ずきずきする後頭部をさすりながらぼやく。

「頭、大丈夫」

　図らずも自らが凶器となってしまったキャロルがそっとアメリアの後頭部に触れる。

「あ、こぶになってる」

「こぶになってたら心配ないって本当かしらね」

　よろよろと立ち上がろうとするアメリアをキャロルが抑える。

　結局音楽会どころではなくなってしまった。

「あれが王太子の息子?」

　ゲームでは隠しキャラだった王孫であり、アメリアはお目にかかったことがないので名前も知らない。

「ちょっと危なくない?」

　一見普通なのだが、会話をある程度続けていると徐々に感じてくる鳥肌が立つような違和感。

　美しい笑顔だと思うけれど、それゆえ感じる悪寒。

「そういえば、公式の場に一度も立ったことがないと聞いたわ」

　そしていまだに婚約者も決まっていない。おそらくユーフェミアやエクストラの実家の妨害工作だと思っていたが、別の理由もあるのかもしれない。

　例えば、婚約者と引き合わせることが不可能だとか。

「それでもあきらめられないのね、ゾディーク」

　息子を未来の国王にしようとする母の執念、だけど迷惑だからやめてくれ。

　キャロルはこの国の将来を本気で憂いた。

　アメリアも嫁に行って地方に行けば安泰といっていられない気がしてきた。

　軽く寒気を感じながら二人は未来を悲観した。