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来年を待つ

 ジョージ殿下が絨毯の上で座り込んでいる前で、ユーフェミアは椅子に座り悠然と状況をジョージ殿下に話していた。

 その間アメリアとスティーブンはジョージ殿下の背後に立っていた。

「ヘンリー殿下も同じくですわ、エクストラの話ですと、その娘を追いかけまわして、ところが相手の娘はヘンリー殿下に近づいたことも近づこうとしたこともないと言っているそうです。二人共となるとやはり可能性は王太子様側の妨害工作でしょうね」

 腕を組み冷たくねめつける。薄く染められた唇が歪んだ笑みを刻んだ。

「エクストラは明日あたりヘンリー殿下に現実を叩きつけると言っていました。その後どうなるかは神のみぞ知る。ですが、貴方はどうなさいますの」

 冷たい視線が叩き落される。

 もともとユーフェミアの色彩は淡い。そしてその淡い色彩にそって淡い色合いの衣装を身にまとっている。そのすべてがまるで霜が降りたように見える

 本来は凍える季節ではないはずなのに猛烈な寒気を覚えた。

「ねえ殿下、貴方は現実を受け入れてくださるでしょうか」

「しかしだな」

 絨毯にぺったりと座り込んだ姿勢は威厳も何もあったものじゃない。 

「身分を偽り殿下に近づいた。暗殺されなかっただけでも運がいいと言えますわね」

 もっとも暗殺は危険すぎる、適当なスキャンダルで失脚してくれたほうがよかったということだろうか。

「とにかく、今後のなさりようで、私達の関係も決まりますわね」

 場合によっては見捨てると取られかねない言葉だ。馬鹿のほうが操るにはいいというが、馬鹿すぎても使い勝手が悪いということかもしれない。

「というか、私何でここで何日もただ働きを」

 結局アメリアが必要な時はたった一日だけだった、そのことにアメリアは悲哀を漂わせた呟きを漏らす。

「何を言っているの、ここはカドミウム公爵家なのよ、我が家のメイドとしての格式がたった一日やそこらで身につくと思っているの、本来なら一か月は欲しかったところよ」

 アメリアは呻く。

「だからって」

 アメリアの家のメイドは大抵なりたての新人だ。家にふさわしい格式なんて聞いたこともない。

「とにかく、その偽のアメリアを捕らえなければなりませんね、仮にも王子に身分を偽って近づくなどそれだけで反逆罪に問うには十分だ」

 スティーブンが何とか話を元に戻そうとする。

「そうね、そういうわけですから、アメリアという女が殿下に近づいた場合即捕らえる準備をなさってくださいまし」

 既に主導権はユーフェミアとエクストラの手に渡っている。

 アメリアもそれに倣うしかない。

「アメリア、当分貴女の家に監視をつけます。貴女を疑っているわけではないのよ、ですがあなたの名を名乗った以上貴女の家近辺に現れる可能性がありますから」

 そう言われては断れない、アメリアは小さく頷いた。

「ではもう帰ってよろしい」

 ようやく元の服に着替えたアメリアはスティーブンに送ってもらうことになった。

 ジョージ殿下はあのまま止め置かれて、カドミウム公爵家の方々に糾弾されるらしい。

 それに関してはアメリアは気にしないことにした。

 ようやく袖を通せた水色のドレス姿でアメリアはスティーブンに話しかけた。

「これから厄介なことになるかもしれないですね」

 かもしれないは過少申告だ。どう考えても厄介ごとが山積みだ。

 ましてや、ハニートラップにあっさり引っかかった両殿下方が最大の問題だが。

 ヒロイン補正とはいえ本物ではないというのに。

「そうですね、しかし、まあ、最低限の着地点が見つかれば我々の関知しないというか、あるいは手が届かないというか」

 しがない男爵家が国家の威信を揺るがすような事態に早々巻き込まれることもないだろうとスティーブンの予測だ。

「来年まで持ちこたえられたら」

 アメリアはそう呟く。

「そうですね」

 スティーブンはそう言って天を仰いだ。


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