表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/98

敵を目視

 向こうが装身具などでこちらの地位と財産を値踏みするなら、こちらもそうして悪いことじゃない。

 アメリアは静かにたたずみながら油断なく視線を走らせる。

 こちらをちらちら見ながら歩いてくる殿方。タイを止めるピンの造作あちらはダイヤが入っている、どう考えても伯爵家以上。

 即座に却下する、アメリアの狙いは男爵家か子爵家だ。視線をそらしたアメリアを見て脈なしと判断する。

 アメリアの周りを見回すと、アメリアと同じ男爵令嬢だが妙にギラギラした目をしているのがいる。

 着ているものはアメリアより質素だ。

 周囲の割と裕福な風に見える令嬢がくすくす笑っている。

 どうやら家が没落寸前で、少しでも金のある婿を希望しているらしい。

 それは逆効果なんじゃないと忠告してやりたいが、ちょっと儲けている父親がいる以上何を言っても喧嘩を売っていると取られかねない。

 やれやれと周りを見る。

 何人かは申し込まれて承諾している。何しろデビュタントはファーストダンスを断る権利がない、とにかく申し込まれたら即了解だ。

 そのため申し込もうとする男性陣はかえって慎重の上に慎重を要する。

 最後のほうであぶれた令嬢なら大丈夫だが、あぶれるにも理由がある。

 アメリアはちょっと砕けた格好の中年男性に申し込まれた。

 おそらく次男以下の部屋住みだが、実家が裕福なので遊びには困らないが結婚は遠いという感じか。

 心中で舌打ちしたが、あくまでアメリアは優雅な笑みを浮かべている。

 ファーストダンスを踊ると、アメリアは口説いてくる男を早々に追っ払った。

 うぶな娘さんをだまそうとするちょい悪親父はお呼びじゃない。あの年まで独身ということは、あの年まで親元を離れそれなりに自活しようとする気概がなかったということだ。

 家を継ぐ当てがなくとも軍に入ったり書記官あたりに職を求めたりと気概ある男性はみんなそうしている。

 次のダンスは見送って、もう少し慎重に見極めなくては。

 そして、攻略対象の目を引かないように、つらつらと思い出してみればなんだか変な男に絡まれているうちに攻略対象が助けに来てくれたような気がする。

 あぶねえ、心の中でだけ冷や汗をぬぐう。

 この辺でさすがに王子様は出てこないが、伯爵令息二人は出てくるだろう。

 ホラーを背負ったブラコンと経済観念のとても発達した手段を択ばなそうな御令嬢を敵に回すつもりはない。

 アメリアは酒ではなく薄いハーブ水をもらった。

 軽食も用意されているが、誰もそのテーブルに近寄らない。

 まあ、テーブルに出しっぱなしでカピカピに乾いた代物に用はないのだが。

 さっきの中年男が未練たらしく寄ってこようとしたが、冷たく睨み返すと、自分の意志ではなく踊れないかわいそうな女の子のところに行ってしまった。

 仮にも貴族なら、スカを見分ける目を持たなければならない。そのあたりは自己責任と助けに行くつもりはなかった。

 さすがに年齢を見てあちらも逃げをうっている。当たり前だ、あの男の父親が死んで兄の世代になったらたちまちあの男は詰む。そして年齢からしてその時は遠くない。

「やめたまえ」

 男に声をかける貴公子、そのシーンに既視感を感じた。かつて画面で何度も見た、ヒロインと攻略対象出会いのシーン。今回現れたのはエドワード、そして二人に近づいたその時純白のドレスを着た悪鬼がいた。

 先ほどまで人ごみに紛れて気づかなかったが、いた、あの禍々しい気配は紛れもなくビビアン。

 アメリアの血の気は音を立てて引いた。祝宴にふさわしく柔和な笑みを浮かべたまま顔色だけは一気に蒼くなっていく。

 そして、エドワードが中年男を少女から引き離すその瞬間まで、ビビアンは無言で殺気を放ち続けていた。

 そしてエドワードではなくむしろ背後のビビアンの殺気に恐れをなして中年男は去っていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ