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殿下と私

 ユーフェミアはアメリアを従えてお茶を飲んでいた。

 私はいったい何をしているのだろう。そんなことを考えながらお茶を飲むユーフェミアを見下ろした。

「そろそろ貴女とスティーブンの婚約の噂が殿下の耳に入るでしょう」

 ユーフェミアがお茶うけにしているのはアガサ家からレシピを差し出されたパウンドケーキだ。

 赤いジャムがマーブリングされていて美味しそうだ。

 ジャムを混ぜたものはドライフルーツ入りより日持ちが悪いので販売はお蔵入りしたのだが、家庭でそのまま食べるなら問題ない。

 アメリアはメイドとして、ティーポットを片手に立っている。

 ユーフェミアはアメリアを見もせずにケーキを食べている。

「これから殿下が我が家に参ります。その際はいつも通りにこの部屋で過ごしていること、それだけですわ」

 いつも通りにこの部屋で置物にハタキをかけていればいいのか?

 アメリアは首を傾げつつ頷いた。


 ジョージ殿下は足音も高くついでに鼻息も荒くカドミウム公爵家を訪れた。

「ユーフェミア、どういうことだ」

「なにか?」

「アメリアのことだ、お前、彼女を軟禁した挙句侍従のスティーブンと婚約させたらしいな」

 まくしたてるジョージ殿下にユーフェミアは嫣然とほほ笑んだ。

「あら、部下の慶事を喜んで差し上げませんの?」

「何がだ、お前が無理強いしたのだろう」

 猜疑に満ちた視線を向けられてもユーフェミアは優雅な笑みを崩さなかった。

「誤解があるようですわね」

 実際誤解だ、アメリアは自主的にスティーブン・ブラウンと婚約したし、軟禁の事実もない、アメリアはちゃんと夜は家に帰している。

 どこをどうやったらここまでねじ曲がって伝わるのだろうか。

「ちゃんと本人に向き合って話し合うのがよろしいわ、そうしたら誤解も解けますもの」

 ユーフェミアはそう言いながら、ジョージ殿下についてくるようにと手を差し出した。

 その手を乱暴に振り払われる。

 ユーフェミアの唇は優雅な笑みを形作っている。しかしその目が笑っていないのをジョージ殿下は気が付かなかった。

 ユーフェミアは優雅な足取りで進んでいく。そして一つの扉を指さした。

「彼女は、アメリア・アガサ男爵令嬢はあの部屋にいますわ」

 ユーフェミアのわきをすり抜けてジョージ殿下は扉に取り付いた。

 そして扉を開ける。

 ジョージの背中にさえぎられてユーフェミアの視界には入らなかったけれど、扉の向こうの光景は察することができた。

 扉の向こうではサイドボードの上の胸像にハタキをかけるアメリアがいるのだ。


 残念ながらユーフェミアの想像は外れていた。アメリアは張り出し窓においてある花瓶をずらして拭き掃除をしていた。

 扉の開く音に振り返るとどこかで見たような顔を見る。着ているものはかなり立派だし、それにも見覚えが、確かかなり偉い人でしか着れない服じゃないかなと見当をつける。

 金髪に緑の瞳の青年は怪訝そうにアメリアを見ている。

 とっさに偉そうなお客様が来たときの挨拶を思い出し。うっかり雑巾を手にしたまま深々と頭を下げる。

 そのままの姿勢で二人は見つめ合った。そして表情をこわばらせて背後を振り返る。

「どういうことだ、ユーフェミア、アメリアはどこにいるのだ」

 アメリアはきょとんとした顔でその光景を見ていた。

 そしてユーフェミアは開いた扉から部屋に入ってきた。

「ちゃんといるではありませんか」

 そう言ってにっこりと笑った。


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