表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/98

戦場で

 豪奢な宮殿に、地味な実用一徹の馬車で乗り付けたアメリアは、父親に伴われて王宮内部へと進む。

 今日ばかりは身分の差もなくすべての貴族が一つの場に集合する。

 王宮の社交場、すべてのデビュタントの令嬢が広間の中心で整列していた。

 上は公爵家から下は騎士爵家まで、すべて純白のドレスに銀細工と真珠の装飾品という定番スタイルだ。

 それぞれが美しく、白という定番でもデザインはそれなりに趣向を凝らしている。

 まあ、それでも見るものが見ればドレスの質は一目瞭然、侯爵以上の家の令嬢のドレスは生地の照りが違う。

 装飾品の銀細工も伯爵家以上の令嬢は精密極まりない浮彫が、こんな小さな面積によくぞと言わんばかりに彫り込まれているが、騎士爵の令嬢はのっぺりと平板な首飾りでお茶を濁している。

 真珠の質は言うまでもなく。男爵家以下の令嬢は最初から真珠をあきらめているものも多い。

 アメリアは銀細工のネックレスに真珠のイヤリングをつけていた。公爵家の令嬢のように首飾りになるほどたくさんの真珠など手に入れられない男爵家の令嬢としてはオーソドックスな組み合わせだ。

 ご近所に住む令嬢も真珠をペンダントにしている。

 さて、目を細め、令嬢のほうをうかがう貴公子の皆さんを観察する。

 あちらもこちらをちらちらと見ている。凝視するような視線を飛ばすのは下品、あくまで気のない視線をというが、やはりあちらも人生がかかっているので、まなざしは真剣だ。

 ゲームでは何度も見たシーンだが、ゲームでは見なかった光景もある。

 広間の一段下がった場所に楽団の席があった。

 当たり前だが、こちらの世界にオーディオはない、ぎりぎり簡単な曲を演奏するオルゴールがあるくらいだ。

 当然音楽は生演奏に決まっている。

 画面では壁であった場所に黒い制服を着た楽団員が見えた。

 あの音楽どっから流れてくる設定だったんだろう。

 アメリアは思わずどうでもいいことを考えてしまった。

 はっきり言って蝋燭は高価だ、その高価な蝋燭をふんだんに使ったシャンデリア、贅沢の極みだ。

 アメリアの家では、蝋燭やランプの明かりを節約するために早寝早起きを推奨されている。

 指揮者が、最初の音楽を演奏するため指揮棒を振り上げた、この音楽の間にダンスの相手を決めるのだ。

 初めて聞くはずの聞きなれた音楽を聴きながら、近づいてくる殿方を丹念に観察する。

 さすがにこの中に王子様はいない。既婚の王太子もいるはずがなく、奥の貴賓席に座っている。

 やはり一番わかりやすい装身具に視線を向ける。

 どの程度の値段か値踏みできなければ貴族社会では生きていけない。

 アメリアは男爵家ではそれなりに裕福な家だった。

 というか二年前に家を少しだけ裕福にしたのだ。

 この世界の甘いものはなぜか甘いせんべいだった。どうやら、小麦粉と砂糖や蜂蜜を入れ、多少の創意工夫で果物を入れる程度だった。

 アメリアはマナーハウスで、材料に玉子とバターを追加で入れさせた。

 マナーハウスは農家に近いのでそうしたものが手に入りやすく首都にいるより食生活は豊かだった。

 玉子独特の匂いはドライフルーツ追加でごまかせることが分かった。

 くちどけの良いその菓子は、家族を熱狂させ、そして父親はアメリアからその工夫を聞き出すとちょっとした事業を始めてしまった。

 小規模ではあるが、小規模ゆえに希少性で値段は跳ね上がり、アメリアにとって珍しくもないクッキーとパウンドケーキに目の飛び出るような値段がつけられた。

 実はそれほど暴利ではない。玉子が死ぬほど高かったのだ。

 庶民は目玉焼きすら食べられない。

 そうしたわけで、アメリアの真珠のイヤリングはその儲けで買ったものだったりした。

 私は波に乗っている。アメリアは挑戦的な笑みを浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ