デレイン3
そして最終的な疑問にたどり着く。いったい何をしてデレインはビビアンを手懐けたのか。
「ああ、それは簡単よ、いいことを教えてくれたから私も教えてあげるわね、あのね、エドワードとのことを応援してあげたのよ」
とんでもないことをサラッと言ってのけた。
「それ、人としてどうなの」
キャロルが思わず叫んだ。その叫び声にちらちらと人が見るので慌ててアメリアが抑える。
「それで、何の解決になるの」
デレインはエルダー伯爵家から金をもらえると言っていた。どう考えても報酬の取れる行動ではあるまい。
「私の相手はね、エルダー伯爵本人よ」
とんでもないことを言い出した。すでにキャロルは反応する気力すらなく放心状態だ。
何しろ、とんでもない貧乏をどうにかするには美人で年に似合わない豊満な娘を何とか金を持っている男とくっつけるしかないと家族は思い詰めたのだそうだ。
そのためデビュタントのドレスは借金をさらに重ねて作ったとか。
軽く頭痛を覚えてアメリアはデレインに問いただす。
「それでいいわけ?」
「だって、誰でもいいから玉の輿に乗らないと、売り飛ばされるかもしれないし」
凄惨な話である。
「まあ、あの家もね、幼い子供を残して母親がなくなって、その幼い子供を父と兄で大切に大切に育てた結果があれだから」
まあ、要するに幼くして母親を亡くした少女を寄ってたかって可愛がっていたら、兄に対して異様なまでに執着心を抱く代物が出来上がってしまったそうだ。そして、その執着心を長年の習慣だからと拒むという発想のできない兄。
一族郎党すべての苦悩の産物らしい。
もしかしたらこれは賭けだったのかもしれない。もしこの縁談にエドワードが何かしら難を示したならば、まだ救いはあると思ったのだろうが。あの様子では親族の期待は裏切られたようだ。
三人は一様にため息をついた。
「まあ、うちも人のこと言えないんだけどね」
デレイン一人が明るい。
「まあ、結婚といっても、子供を一人生んで、その子を渡しさえすれば生活と家の借金はどうにかしてくれるって言ってたし、それに、恋愛がしたければそのあとならいいって言われたわ、勿論、認知もしてくれるってさ」
ちょっとついていけなかった。多少波乱もあったが、普通のサラリーマン家庭に育った前世のアメリアと、まともな勤め人だった前世のキャロルには理解不能だ。
人それぞれとはいうが、だいぶ二人とは違う人生を生きた人だったのかもしれないが、聞きたいような聞きたくないような。
「世の中にはいろんな常識があるのよ」
キャロルが、ぼそっと呟く。
アメリアにはない社会経験があるようなのでそう言うものだと思っておくことにした。
「とりあえず、貴女の売買値段はいくらなの?」
デレインが不思議そうな顔をする。
「あのね、値段も知らないで売られようっていうの?」
キャロルの目はどこまでも真剣だった。




