デレインの昔話
昔々のお話です。その子爵家は子爵家といってもその辺の普通の男爵家より貧乏でした。
どうして貧乏だったのかというと、まあ、その領地の作物の値打ちが下がってしまったのです。
その土地だけで栽培していた作物ですが、他の領地でも品種改良の結果、より品質の良いものが作られるようになった結果、それより高く売ることができなくなってしまったのです。当たり前。
その結果、収入が下がったけれど、今までの生活習慣を改めることができないまま暮らし続けた結果、借金を背負うことになりました。
その結果割を食ったのはその子孫でした。
跡を継いだ時借用書の束を見せられた彼が床に倒れたのは言うまでもありません。
それが私のお祖父さんです。そして、どうしても返せない借金は利息を産んで孫の代までたたっているのです。
デレインの昔話を何とも言えない表情でアメリアとキャロルは聞いていた。
「なんでも借りるだけ借りて、全く返済してなかったんだって」
へらへらと笑ってデレインはシャレにならない話をしていた。
「帳簿、付けていたの」
元職業婦人のキャロルの目は据わっている。
「帳簿はね、それ専用の使用人を雇って一切確認なし」
「それ、横領し放題って言わない!!」
キャロルが思わず立ち上がる。慌ててアメリアはキャロルを座らせた。
「ああ、されてるかもね、でもそういう使用人を雇って何もしないってことは帳簿の見方を知らないってことだよね」
キャロルはテーブルに突っ伏した。
「お父様、お父様は本当に偉大です」
きちんと土地管理をして、公職にもついている父親に感謝の祈りをささげるアメリア。
「うちは、切り詰めるところは切り詰めるお父様だから、良かった、本当に良かった」
アメリアは涙を流して己の幸運を神に感謝する。
そしてキャロルは何とか気を取り直した。
「で、その作物って何?」
とりあえず、根本的な問題を考えてしまう。
「林檎、まあ、王都に近い場所により品質のいい林檎を作るところができたら、品質と新鮮さで勝負にならなかったというところかね」
「それなら、加工品を作るとか」
「加工品といえば、ジャムとかでしょ、砂糖を買う金がないのよ」
実にしょっぱい話をする。
「ドライアップルなら砂糖いらないのに」
アメリアはそう言ってお茶をすする。
「あと、瓶に詰めたまま加熱して、そのまま密封すれば砂糖なしでもそれなりに保存できるジャムになるし」
アメリアは生活の知恵袋を披露する。
前世のアメリアは母子家庭になったのでそうした知識は豊富だ。母親は離婚直後にヘルピングマミーなる家政婦協会に参加し稼いでいた。
主婦の仕事を外注すれば下手な男の年収など吹っ飛ぶというのを実証するがごとく稼いでいた。そしてそれをフォローするために最低限料理をしていたのだ。
「なるほど、エドワードの実家エルダー伯爵家からお金をふんだくったらそれに投資するわ」
デレインが豊かな胸の前で腕を組んで喜んでいた。




