陰鬱なキャロル
キャロルも未婚婦人である以上付き添いなしの外出はできない。
どうやら図書館の中に入らず待っているらしい。
「とりあえず、うちに来ない?」
アメリアはキャロルをうちに誘うことにした。王宮に出入りする未婚子女は結婚相手を探すのと同時に友達を作ることも大事といわれている。
この世界、学校はあるにはあるが、すべての子供に普遍的に存在するものではない。
家が貧しくても、ものすごく運のいい子供は宗教関係の施設で読み書きくらいは教えてもらえる。
そして、裕福な男性に限りだが、家で家庭教師を頼み、法曹や経済、政経などの専門学校に通うこともある。しかし貴族女性は家庭教師のみだ。
学校というものは学問のみならず社交も兼ねているものだが、そうしたものは男性にしか開かれていない。
しかし人間生きていくにはいろいろと伝手というものが必要だ。そのため花婿募集中の女子でそれなりの交友関係を築くことも奨励されている。
はっきり言って無理ゲーだろうとアメリアは思う。
今までお屋敷のお嬢様だった人間にいきなり見ず知らずの人間とお友達になれというのだ。婿を探すより難しいかもしれない。
まあ、そんなわけで、ちょっとあったからお友達を家に呼んだとしても責められはしないだろう。
キャロルとしても家に呼んでくれるようなお友達ができたといえば、多少の時間の融通はしてもらえるだろうと思っていた。
「私達話し合う必要があると思うわ」
キャロルにしても何故アメリアなら自分の気持ちがわかると唐突に思ったのかそれがわからない以上、話し合うしかなかった。
結局商店をひやかすという当初の予定を取りやめて、キャロルを伴って図書館を出た。
初老のメイドがキャロルの付添人だった。
背後で付添人が聞いているのでうかつな話はできない。二人は無言で歩いた。
春なので、住宅街の庭園はあらん限りの花を咲かせている。
あちらの家は青を基調とした花を、あちらはピンクが好みらしい。つらつらと視界に移る花を眺めながら呟く。
そして、そんな呟きを聞いているのかいないのか寡黙な横顔をアメリアは横目で見た。
キャロルはそっと黙々と歩き続ける。
「そういえば、貴女のお家はどのあたりなの?」
アメリアとて、さすがに近所の家十軒分の顔くらいはわかっている。しかしアメリアの住む下級貴族の住処はそれなりに広い。そして東西南北に分かれている。となればキャロルはアメリアの住む区画とは違う場所に住んでいるのだろう。
「区画で言えば西側のすぐ入ったところ」
アメリアの家は東側の真ん中にある。それほど近くではない。
「私の家をあなたが知っているのに貴女の家を知らないってちょっと不公平だと思ったの」
「そうね」
キャロルは陰鬱に黙り込んでいる。背後の付添人たちに少し怪しまれないだろうかとアメリアは懸念した。
自宅に戻ると、キッチンメイドが出迎えてくれた。
「奥様はお出かけ中です」
両親が不在の際はこの屋敷の主ともいえる料理長が今一番権限を持っている。
「お友達を呼んだの、私の部屋に連れて行くわ、それと、女友達の気の置けない話をするから、付き添いは不要よ。そちらの付添にはお茶を出してあげて」
とにかく、人に聞かれて困る話をするのだ、人払いはきっちり。