全部押し付けて
とぼとぼとぼそんな擬音が聞こえそうな歩き方でアメリアは帰路についた。
その傍らをスティーブンが歩いている。そして、何が起こったのかさっぱりわからないマリーが背後からついてきた。
「そういえば、ユーフェミア様にあのように宣言した以上婚約は確定ですか?」
アメリアはできれば頭を抱えたかった。しかし、仮にも公爵令嬢に宣言した以上取り消しは効かないことぐらいわかる。
「父はいつスティーブン様を招待しようかと申しておりますわ、できれば日付を教えていただければと」
言っちゃった言っちゃったようとアメリアは心中でのみのたうちながら言った。
背後を振り返ると、なんだかものすごい目でマリーに見られた。
いきなり公爵令嬢の使者を名乗る者達にアメリアを連れ去られ、戻ってきたときにはスティーブンと一緒だったのだ、訳が分からないに決まっている。
「それでは、そろそろ実家の馬車が来る時間ですので」
馬車を王宮に止めっぱなしにできない。そのため時間が来ると迎えに来ることになっていた。
アメリアを送るとすぐに逆戻りしてアメリアの父を迎えに行く。
御者もなかなか大変だ。
出迎えてきた母親に父に改まって話があるので、夕食後時間が欲しいと伝えた。
母の目がきらめく。
ちょっと早いくらいだが、なかなか嫁がないよりいいと目が語っていた。
ごめん、それほど順調じゃない。
そう心の中でだけ謝っておいた。
夕食時異様にそわそわしていた母親をあえて構わずアメリアは父の書斎に向かった。
「お父様、実はユーフェミア様からお話をと呼び出されましたの」
食後の一杯を楽しんでいた父親は怪訝そうな顔をした。
「私、ジョージ王子の愛人なんですって」
父親が我が家で熟成したとっときのブランディを噴出したが、アメリアは読んでいたので体をずらすだけでかわす。
「おおお……」
「私ジョージ様と一度もお会いしたことはなかったのですけど」
父親は慌てて近くの吸い取り紙で口元を拭いた。
「どうも、私に似通った愛人を持ったようですわ」
ようやく話についてこれる精神状態になったようだ。
「つまり、人違いということかね?」
食いつきすぎという感じに続ける。
「そうですが、誰かがアガサの娘という名前をユーフェミア様に吹き込んだことは確かだと思われます」
父親が難しい顔になる。
「これは私では対処できませんのでお父様お願いします」
父親が急に涙目になったが、アメリアはさらに続けた。
「このことはスティーブン様にも相談済みで、正式に婚約しようと言われました」
「そうか、そうだな、さっさと嫁にやってしまえば、あちらに嫁にやれば即領地だし、本人がいなければ噂だって」
ぶつぶつと今後の対応策などを呟きだす。
「とりあえず、今後はスティーブン様と話し合ってくださいまし」
それだけ言い捨ててアメリアは自室に戻った。