いやすぎる展開
視線がいきなり集中したのに思わずのけぞりつつアメリアは怪訝そうな顔をする。
「私、そんなにおかしいこと言った?」
アメリアとしては単に思いつきを言っただけだ。この世界はゲームじゃなくてリアル。それなら王位継承権をめぐる陰謀の一つや二つあってもおかしくない。
「おそらく、そんなところかと」
スティーブンが軽くこめかみをもみながら答えた。
「王太子殿下がおそらく即位しないであろうことは知っていますか」
「次期国王だから、王太子殿下なんじゃないの?」
思わず素で聞いてしまった。
「もう十年早く国王陛下がなくなっておれば、王太子殿下が即位しておられたであろうことは確かです。しかし、国王陛下が高齢であり、王太子殿下もすでに若くない、そうなると、一代はしょって即位させることはまあ歴史上珍しくないもので」
国王即位式には金がかかる、そして王太子が高齢だと、すぐに次の即位式を行わなければならない。それくらいなら年少の弟か王太子の息子かどちらを即位させたほうがいい。
「何しろ税金ですから、節約できたほうがいい」
即位式なら、それ専用の衣装代に、儀式にかかる様々な道具類の一新。そして諸外国の国賓の滞在費あたりがアメリアに思いつく範囲だ、さらにいろいろとアメリアの知らないものもあるのだろう。そしてそのすべてが高級品でなければならない。確かに税金が大消費されてしまう。
それなら、できるだけ間を開けたいという財務大臣の切なる願いもよくわかる。
「そりゃそうでしょうねえ」
「当然、王太子の長男と、第二王子第三王子のいずれかを押す派閥争いが今起きているんですよ」
アメリアは王宮に出入りするようになってから日が浅い、そういううわさ話はアメリアを素通りしていた。
「そうなんですか?」
確かに、王太子にしてみてもいきなりではないかもしれないが、自分たちの相続権を奪われるのは困るだろうし、いままで冷遇されていた第二第三王子達にしてみれば逃したくない大逆転。
「それは揉めそうですね」
ついでに言えば、王太子とその下の王子達の年齢が離れているのは母親が違うせいだ。
先代王妃崩御後嫁いできた第二王妃の生んだのが第二王子以降だ。
二人の王妃はそれぞれ母国が違うため、どちらが王位継承するかは国際間の問題になりうる。
こういう背景って乙女ゲームには一切入っていなかった。
アメリアはそう呟きため息をついた。
やはり王子様いらない。
お家騒動ど真ん中とかいやすぎる。
「つまり、私達を差し置いて、男爵令嬢と浮気をしているというデマをばらまいているものがいると?」
ユーフェミアが顔をこわばらせた。
「実際、その手の醜聞を捏造して評判を落とすというのがこの手の権力争いの定番でしょう」
「それでは、そういううわさを流している人を特定すれば」
「それが問題なのですよ。殿下がある女性、明らかにユーフェミア様と背格好の違う女性といるのを私も目撃しているのです。ただ、もちろんアメリア嬢ではないのは確かですが、そういえばよく似た髪色をしていたかもしれません」
「それって男爵令嬢ですらない、怪しげな卑しい女を相手にしているということ?」
ユーフェミアが小刻みに震えている。
明らかに不当に巻き込まれたアメリアとキャロルはただ呻くことしかできなかった。