三話 AかB、どちらを選びますか?
「カレンちゃん、お待たせ!これ、いつもの。」
周りにお花でも咲いてるんじゃないかと間違える程、ふわふわした笑顔を見せるこの男性は薬屋の薬剤師、トリスタン。
実は、今朝のパンの送り主。
お隣さんということ。
凄く優しくて、私たち姉弟は本当のお兄さんのように慕っている。
『いつもありがとう。』
見慣れた薄緑色の薬を兄さんから受け取った。
トリスタンは目の開いているか分からない普段の顔でボソリと呟いた。
「ルイス君、体調はどう?」
『今は落ち着いてるよ。でも、最近また増えてきて…。』
それを聞いたトリスタンは少し屈みながら、私の両腕を掴んだ。
「大丈夫だよ。隣には僕もいるし、何かあったら直ぐに呼んで。」
真っ直ぐ見つめる瞳が、本当に心配してくれているんだと感じる。
私、兄さんいつも励まされてる気がする…。
でも確かにそうだ。私は一人じゃない。
『うん、分かった。トリスタン…その…ありがとうね。 いつも元気づけてくれて。』
私はいつもどうりの笑顔を向けた。
すると、触れていた手が離れ、トリスタンも笑ってくれた。
「これくらいどうって事ないよ。ルイス君は本当の弟のように思っているからね。」
ルイスが聞いたら喜ぶだろうなぁ、と思いながら私は薬屋の扉を開けた。
トリスタンはひらひらと手を振っている。
私も軽く手を振り返した。
__________
ふぅ…。
あれから晩御飯の食材を買いに行き、片手いっぱいに野菜やお肉が入った紙袋を持っていた。
途中、知り合いのおばあちゃんからカップのアイスを1つ貰って、ルイスのお土産にしようと少し気分が高くなる。
溶けるから早く帰ろう。
「あの馬車、何?」
後ろでそんな事を呟いた女性の言葉なんて
気にも留めずに。
その存在に気づいたのは、全身黒い服を着た男性が私の帰り道を塞いだ時だった。
『すみません、道を開けてくれませんか?』
黒い服の男は眉一つ動かさず、口だけを動かす。
「ドーハティ様、見つけました。」
それは私に向けての言葉ではなかった。
カツン、カツン。
次に聞こえたのは誰かが近づく音。
「ありがとう、元に戻ってくれ。」
黒い服の男はきっちりとした礼をすると、機械のように無駄な動きをせず、いつのまにか増えていた他の黒い服の人達の中へ姿を消していった。
そんな事よりも、このおじいさん、誰…?
確かなのは、このおじいさんはここらへんの人ではないこと。
服装からして、何処かの貴族だろうか。
「君が、カレン・シンディだね。」
自分の名前を呼ばれ、肩がビクつく。
気のせいか、街の人たちの視線を感じる。
何で、私の名前を…?
混乱する私をよそに、おじいさんは真剣な表情でありえないことを口にした。
「君を、私の息子の養子にする。」
…何を、言ってるの?
持っていた、アイスを落とす。
蓋が開いて、
_____ドロドロの中身が地面に溶け出していた。