二話 たられば
「姉さん、そろそろ起きる時間。」
朝、聞き慣れたゆっくりとした声に目を覚ます。
そこには私のベッドに腰掛ける弟、ルイスがまだ眠たそうな瞼を擦っていた。
私も一つ欠伸をして重たい上半身を起こす。
ぐっと両腕を天井に伸ばして、だらだらとベットから身体を離した。
二人で洗面所に行き、冷めたい水で顔を洗う。
ふと、正面にの鏡に映った自分とルイスの顔をぼんやりと見比べた。
ルイスの肌は女の私より真っ白で綺麗だ。
病気のせいでそのに出られないのも少しは関係しているのだろうか。
見れば見るほど、私たちは似てないなと感じる。
私が父親似で、ルイスは母親似でもあるし、似てなくても仕方ないっていうか…
「…姉さん?どうしたの。まだ眠い?」
ルイスが私の顔の前で手を仰ぐ。
あぁ、いけない。考え込みすぎた。
『ううん、大丈夫。それより、朝ご飯、どうする?』
「昨日、隣からパン貰ったからそれにしよう。」
『いいね!じゃあ、バターとジャム用意するよ。』
ルイスは頷き、直ぐにパンを切る用意をする。
お隣さんの家が料理好きらしく、よくいろんな物を貰う。
それもどれも全部美味しいんだよなぁ…。
棚からバターとジャムを取り出した。
「はい。切れたよ。」
丁度いい厚さに切ったパンが3枚。
その1つにジャムをたっぷりとぬって、机の端に置いた。
机の端の側には父の写真を飾ってある。
所謂、遺影というやつた。
額縁の上に薄っすら乗った埃を手で払い、私はいつも座る席に着いた。
ルイスは既に礼儀正しく、座っていた。
2人で同時に手を合わせ、いただきます、と言った。
このパン中にクルミが入っていて美味しい…!
つい顔が緩んでしまう。
この感想を伝えようと前に座るルイスを見た。
しかし、ルイスはパンを床に落として、口を手で押さえている。
『ルイス!?』
急いでルイスのそばに駆け寄った。
ルイスは咳き込み、気持ち悪そうだった。
その時の私は背中をさすってあげることしかできなかった。
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『…どう?落ち着いた?』
しばらく咳が続いたけど、今は少し落ち着いてきている。
ルイスは眉を下げ、申し訳なさそうな顔をした。
「…もう、大丈夫だよ。 ごめん、姉さん。」
謝ってほしくはないが、今言う必要がないと思って、代わりに頭を撫でる。
……2日前にもこんな事があった。
最近になって、またこんな事が多くなっている気がする。
今日のところは、いつもの薬だけ買ってきて、明日、医者を呼ぼう。
『今から薬貰ってくるから、寝てて。
それと、明日にでもお医者さんを呼ぶから。』
「…ごめ、ん。ありがとう。」
そんな悲しそうな顔をして欲しい訳じゃないけど、ルイスは自分なりに悪いと感じているのだろうか。
『いいんだよ。じゃあ、薬屋に行ってくるね。』
「うん、いってらっしゃい。」
笑顔でルイスに手を振り玄関のドアを閉めた。
もっとお金があれば、こんなことにならなかったのかな…。
もしもの話をしても仕方ないって割り切ってるつもりだけど、
…あまりに自分がちっぽけすぎる。
目頭が熱くなるのに気づかないふりをして、私は薬屋に向った。
どこかのお金持ち、ご令嬢とかお嬢様にでも生まれていれば少しは幸せにできたのだろうか_____